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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
39/102

第 39 夜   『ツインズだもん』

語り部 : 芝沼埜々香(シバヌマノノカ)

お相手 : 三宅善護ミヤケイイゴ

      桂貴辰カツラタカトキ


盛立役 : 芝沼奈々香(シバヌマナナカ)

 芝沼家の一卵性の双子として生まれたその日から、同じ環境で、着ている服も同じ、髪型も同じ、身長も体重もみんな同じに育った。


 近所のおばあちゃんも、親戚のおじさんも、学校の先生も、私たちを見分けることができなかった。


 好きな食べ物、好きなキャラクター、好きな科目まで一緒で、好きになった男の子まで一緒になってしまった。



   第 39 夜

    『ツインズだもん』


 私たち姉妹と幼稚園に入る前から仲良しだった。


 二件挟んだご近所さんのご長男、三宅善護くん。


 子供の頃はただ単に仲良しさんってだけだったんだけど、思春期を迎えて最初に気になり出した男の子が、彼であったのは自然の流れだったんだと思う。


 私が先だったのか、奈々香ちゃんが先なのかは分からない。


 と言うか多分そのタイミングも、一緒だったんだと思う。


 私は何度も告白しようと考えたことがある。


 でもいっちゃんは私たちのどちらかを選ぶとか、もしかしたら出来ないんじゃないかな。


「埜々香ちゃんは善護に白黒つけさせたいんだね」


「私としてはこのまま、ぬるま湯に浸かった状態で、いつまでも前に進めない感じってたまらないのよ」


 同じ環境で、同じ服を着て、同じ髪型をしてきた私たちだったけど、性格まで同じではなくて、おっとりとした感じの奈々ちゃんに対して、私はどちらかというとせっかちで、しばらくはこのままでもいいじゃないか的なノリが我慢できなかった。


「君らしいよね。いまからでも俺にしない? あの二人とも俺達なら楽しく過ごせると思うよ」


 桂貴辰、中学入学当時、同じクラスで一緒に学級委員をしたことがキッカケで仲良くなった。


 彼はことある毎にこういう事を冗談交じりに言ってくる。


 本当にちっとも本音が伝わってこない。


「貴辰くん、私真剣に相談してるんだけど」


「俺もそのつもりだよ」


 もういいや、相談する相手を間違えたみたいだ。


 再び一人になって悩んでみる。


「お待たせぇ~」


 悩んでる時間がなかったよ。


「奈々ちゃん、進路指導終わったの?」

「うん」


「それで?」


「今のままだと、志望校はちょっと厳しいんじゃないかって」

「やっぱりそうかぁ」


「でもでも私は埜々ちゃんと同じ高校に行きたいんだもん。これは相当頑張るしかないよね」


 頑張るのは自分なのに、どこか他人事に聞こえてくる。


「はいはい、それじゃあ早く帰って勉強しようか?」


「うん、それじゃあ私は、休憩用のクッキー焼くねぇ」


 いや、だから誰のための勉強なのよ。


 奈々ちゃんはもの凄く家庭的に育って、家事全般は文句の付けようもないほどにできる子だ。


 反して私は家事を全くできないってことはないけど、家のお手伝いは奈々ちゃんがほとんどやってくれるから、私は気兼ねなく勉強に専念できてきたんだよね。


 でもそれに甘えてきた結果、奈々ちゃんの学力はあまり芳しくない方向を向いてしまった。


「別に私と一緒の所に行かなくても、いいんじゃないの?」


「絶対一緒! 私頑張るって決めたんだもん」


 今のまま自分のペースで勉強を進めていても、奈々ちゃんにも行ける高校はいっぱいあるのに、私と一緒にいることを一番に考えてくれる。


 こんなんじゃあ、やっぱり先に進めない。進路も恋も。






 私は先ずは恋からと思い、いっちゃんがどちらを選ぶのかを決めてもらおうと考えた。


 その方法としてなにがいいかと悩んだ結果。


「これでよし! っと」


 私と奈々ちゃんの見た目の違いは普段の髪型だけ。


 髪の毛の長さはほぼ一緒にしているから、その括り方ってことになるんだけど。


 奈々ちゃんは下ろした髪をそのままに、前髪だけを髪留めで整えている。


 そして私は両サイドで括って暴れないようにしている。


 そのヘアバンドを外して、前髪留めをするだけ、これで完璧な変装も完了。


 後はしゃべり方だけど、誰よりもずっと一緒にいるんだもん、奈々ちゃんのマネなら誰にも負けない。


 私はこの姿で、既に呼び出してある、いっちゃんを待つのみ。


 今回の作戦はシンプルだ。


 私は奈々香に成りすまして告白をする。


 どちらかと言えば、そんなことを言いそうにもない奈々香がそんなことを口にすれば、いくらあの善護くんでも考えないわけにはいかないはずだ。


 奈々ちゃんの気持ちは知っている。二人で「一斉の!」で確かめ合ったことがあるのだから。


 今の姿を見て、私が埜々香だと分かる人はいないだろう。


 実際さっきからすれ違うクラスメイト達は「奈々香、またねぇ」と言って、全員が騙されている。


「あれ埜々香ちゃん?」


「貴辰くん!? え、なんで?」


「やっぱりそうだよね。それどうしたの? 奈々香ちゃんの真似なんかしちゃって」


「うそ、なんで分かっちゃったの?」


「そりゃあ分かるよ。ずっと一緒だったんだから」


 ここで貴辰くんにバレちゃったって事は、もっと長い時間一緒に過ごしてきたいっちゃんに通用するはずがない。


 でもバレちゃったものはしょうがない。私は全てを打ち明けた。


「なるほどね。それならあいつでも答えを出すかも知れないね。でもいいの? もしあいつが奈々ちゃんを選んだら」


「それならそれでいいよ。私は二人とも大好きなんだもん、あの二人が付き合ってくれるんなら、本望ってもんだよ」


「強いんだね」


「そんなんじゃないよ。それが理想かなって思えるのと、そう思わないと泣いちゃうかもってのが、半々にあるだけ」


 それなら反対に、いっちゃんが私を選んだ場合はどうだろう?


 奈々香のことだからきっと心から祝福してくれるだろう。でもそれは私の本意とはちょっと違う。


「恋愛だからね。きれい事ばっかりじゃあないよ」


 この人って、ちゃらんぽらんに見えて、ここぞという時には真理ってのを入れ込んでくるんだよなぁ。


「貴辰くんってもしかして二つか三つ年上なんじゃない?」


「あのねぇ……、っと、あいつ来るよ。どうするの? って、ダメだね。奈々香ちゃんと一緒に来るよ」


「なんで? 奈々香には先に帰るように言っておいたのに」


 この際それは仕方ない。


 私はいつもの髪型に戻して、二人を待った。


「お待たせ、埜々ちゃん」


「先に帰ってろって言われたけど、忘れ物しちゃったんだ」


 もういいよ今さら。


「なに? 埜々ちゃん、もう奈々ちゃんのマネはやめたの?」


 奈々香のフリして呼び出した時から分かってたんだね。結局いっちゃんにも最初からバレていたんだ。


「よう善護、お疲れ」


「あれ、貴辰も一緒だったのか」


 計画は最初の段階で頓挫して、私に打つ手がなくなったことを見かねてか、貴辰くんが割って入ってきた。どうする気だろう?


「俺とお前は見学だ。今から双子が自分の思っていることを言い合うから、俺達は何も言わずに後ろで見ている。分かったか?」


「あ、ああ」


 それって、私と奈々香が、二人ともいっちゃんのことを想っているって言うのを、ここで言えってこと?


 でもそうか、二人で真剣に告白すれば、いくらいっちゃんでも、答えを出さないわけにはいかなくなるはず。


「なに、私何かするの?」


「奈々香、前に私に言ったよね。私も同じ事を言った。私はいっちゃんのことが好き。奈々香はどう?」


「えっ、えっ、ええ~!? でもそれって、いっちゃんの前では言わないってあの時……」


「どうなの?」


「私は……、好きよ。それだけはいくら埜々ちゃんにだって負けない。絶対に負けない」


 言った。後は善護の答えだけ。


 真剣な表情になるいっちゃんは、目を瞑って待っている私たちの前に歩み寄った。






 希望通りの結果かな?


 これで私も前に進むことができる。


「なんかついでみたいに、奈々ちゃんの進路まで決めさせちゃったけど」


「ここでムリして勉強して、私と一緒の所に行けたとしても、後の授業について行けなくてオチこぼれるんなら、いまから将来を見越した進路を選んだ方がいいでしょ?」


 奈々ちゃんは将来は、調理師学校に行きたいと言っていた。


 それなら進学高校を一緒にする必要はない。


 あの子なりにノビノビとやっていけるように、それにあの子が新しく選んだ学校は。


「善護の志望校がすぐ近くなんだよな」


「うん、これからは私じゃあなく、いっちゃんに奈々香のことは任せるわ」


 傷心の身ながら、なんだか晴れやかな気分。


 彼を好きだった私の心は本物だったけど、彼が躊躇なく奈々香を選んでくれたのは、本当に嬉しかった。


「あれで悩んだ素振りを見せたら、ぶん殴ってやろうと思ってたのにね」


「ねぇ、埜々香ちゃん。別にいいんだよ。平気なフリなんてしなくても」


 いっちゃんは私たち双子とずっと一緒にいてくれた。


 でもそれは彼も一緒、貴辰くんには全てお見通しなんだよね。


「傷心の女の子にこれって、反則かも知れないけど、埜々香ちゃんの彼氏、俺じゃあダメなのかな?」


「本当に、いつもいつも、こんな時まで、本当に本気にしちゃうよ?」


 私はもう涙を堪えることができない。


 中谷善護くんのことが本当に大好きでした。


 ついさっきまで、彼のことを本気で想っていました。


 でも今は……、この気持ちは……、本当に本物なんです。


 私はいつも私のことを影から支えてくれていた、その人の胸に頭を埋めて大きな声で泣いた。


 この涙が枯れた時、今度はこの暖かな手を取って、放さないように頑張っていこう。


「今度4人でどこか行こうか?」


「それっていつもと一緒だよ」


「いいんだよ。俺達は今まで通りで、大事なのはお互いの気持ちだけだよ」


 そうだね、私たちは今まで通り、4人でゆっくり大人になっていこうね。

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