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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
38/102

第 38 夜   『指が告げる想い』

語り部 : 鎌本悠カマモトユウ

お相手 : 枝川孝史エダガワタカシ


盛立役 : 湯崎洋子ユザキヨウコ

 一目惚れなんて実際あるの? ずっとそう思っていた。


 でもあったのよ本当に、中学生に上がった私は、他の小学校だったその男の子にあった瞬間、胸を射抜く衝撃を覚えたの。


 二年生になり一年間悩んだ上で、私は彼に告白しました。



   第 38 夜

    『指が告げる想い』


 一目惚れだと思ったんだけどな。


 いやいや、実際には一目惚れで間違いないんだけど、彼には昔会ったことがあったんだね。


 小学校は別々だったけど、幼稚園が一緒だったの。


 彼に告白しようと手紙で呼び出した公園で、「久しぶり!」って言われた時にはビックリした。


「一年生の頃から好きだったの」


 思い切って打ち明けたら、彼からはなんの返答もなく、ただ一つ、右手を挙げたと思ったら人差し指の爪に中指の腹を当てて、変わったポーズをとって、それを見た私はなぜかは分からなかったんだけど、なんだか嬉しくなって、満面に笑みを浮かべた。


「それじゃあ今度の土曜日、買い物があるんだけど、付き合ってもらっていいかな?」


「えっ? うん、いいよ」


 そう彼から言われて、あっさりと初デートが決まった。


 そんなことも、もう数ヶ月も前の話。


「でもあいつ、まだあんたに好きだの一言も、言ったことないんでしょ?」

「そうだけど……」


「寂しくないの?」


 洋子ちゃんの質問は、聞くまでもない話で。


「寂しくないよ。ちゃんと相手してくれるし、冷たくされたこともないし」


 寂しいに決まってるじゃない。


 強気な態度で誤魔化してるだけだよ。


「本人に聞いたことある? 私のこと好きなの? って」


「ないよ、孝史くんのこと信じてるもん、わざわざ聞く必要なし!」


 な訳ないでしょ! 私一度だって好きって言ってもらってないんだもん。


 昔、幼稚園の時の写真を見て色々と思い出す。


 あの頃も私が積極的にアプローチして、引っ付いて回っていたっけ。


 卒園の日、小学校は一緒にならないと知って、思いっきり泣いていた。


 小学生の間、彼のことは一切思い出さなかった。悲しくなるから。


 孝史くんは私のことを、入学式の日に見かけて、すぐに分かったと言っていた。


 それはもの凄く嬉しいことで、でも気付くことのできなかった私は、もの凄く情けない気分になった。


 それにしても、どうやったら彼の口から愛の言葉を聞き出せるんだろう。


 このままでいいやと思いながらも、やっぱり欲しいの! ちゃんと分かる形であなたの想いを。


「悠、帰るぞぉ!」


 あ、もう部活終わりの時間?


 彼はバレー部所属で、三年生が引退した今、キャプテンとして日々頑張っております。


 かく言う私は帰宅部。


 でも部活終わりまで待っているので、こうして図書室で、文芸部の洋子ちゃんと時間つぶし!


「人の部活動邪魔しておいて、勝手言ってんじゃない!?」


 友人からの突っ込みは聞き流して、待ちに待った二人の時間。


 さてどうやって想いを伝えようか?


 家から学校を挟んで、ちょうど反対側に彼の家があるんだけど、孝史くんはこうして、毎日送っていってくれます。


 こんなことからも、十分な愛を感じるんだけどね。


「えっ? 明日は一緒に帰れないの?」


「ああ、顧問と女子部の部長と一緒に、今度の試合会場の下見に行くんだよ」


 女子部の部長って言ったら、美人で有名だよね。


「心配だなぁ。女の子とお出かけなんて……」


「いや、だから顧問の先生も一緒だから」


 信用はしているの、疑う要素なんて何もない。


 でも彼は私にも一度も自分の気持ちを聞かせてくれた事がない。


 その為に不安になることもある。って、言えないんだよね。


「そっかぁ、今度の土日の試合だっけ? それじゃあ次に一緒にいられるのって週明けだね」


 せめて同じクラスならよかったのに、休み時間はあんまりゆっくりできないし、お昼休みは部長としてバレー部の事してるから、邪魔もできないからなぁ。


「それじゃあまた明日」


 孝史くんはそう言うといつものように右手を上に伸ばして、人差し指と中指を合わせた。


「うん、それじゃあ」


 明日って言っても、休み時間に短い間、お喋りできるかできないかくらいだもんな。切ないよ。






 放課後、彼を待っている必要がないので久しぶりに早い帰宅をし、今日の宿題に手を付ける。


 短時間だけど集中力には自信がある。


 いつも開始から30分ほどで終わらせる宿題も、今日は20分で片づいた。


 マンガはこの間、全部読んじゃった。


 雑誌も気になる記事は特にないし、この時間じゃあ、まだ面白いテレビもやってない。


「一日ってこんなに長かったんだなぁ」


 何をするでなしにベッドでごろごろ。


 今時分ならまだ部活中だなぁ。


「でも今日は部活じゃないし、もっと遅いのかな?」


 彼の声が聞きたい。


 数時間前に聞いたはずなのに、全然足りない。足りないのは何?


 孝史君は優しい、部活でどんなにくたくたでも、ちゃんと相手してくれる。


 なんの不満があるって言うの? これ以上。


 今までのスケジュールを書き留めていたカレンダーを眺めながら、一生懸命考えてみる。


「やっぱり言葉が欲しいなぁ」


 口に出してみた時だった。


「あれ? なんで涙なんか出てきちゃうんだろう!?」


 後から後から止まらない涙。


 膝を抱えて泣いていると、いえ電が鳴った。


 お母さんが出て、私当ての電話だったので、子機を持って部屋に入ってきた。


「ありがとう」


 お母さんが部屋から出て行く、電話の相手に気を遣ったんだろう。


 電話の相手が孝史くんだったから。


「おお、今日はわりーかったな。先生の車で会場に行ったんだけど、帰りの道が混んでてな、ちょっと遅くなったけど……」


「会いたい」

「えっ?」


「今すぐ会いたいよぉ」


「おう、それだそれ、ちょっと土産買ってきたから、お前ん家行こうと思ってさ。と言うか、もう来てるんだけど」


 それを聞いて私は慌てて玄関に、扉の向こうに彼は立っていた。


「悠!? もしかして泣いてたのか?」


 少しだけ落ち着きかけていたのに、孝史くんの顔を見た途端にまた、涙がにじみ出てきた。


 涙と一緒に出てくる孝史くんへの想いと不満、彼は最後まで黙って聞いてくれてから。


「やっぱりそうか、どうもおかしいなと思うことがあったからな。そうじゃないかと思ってたよ」


 なんのこと? そう聞いたら分かりやすく説明してくれた。


 彼のいつものあの指のポーズには、確かな意味と、忘れられた起源が潜んでいた。


「これ決めたの悠だぞ」


 えっ、そうだっけ?


 私、幼稚園の頃のことも忘れていたし、このポーズの意味も忘れてたし、孝史くんは全部覚えていてくれたのに、そして……。


「愛してる! かぁ~、確かに言葉にするのは恥ずかしいもんね。こうして指で合図送るんなら、離れた位置からでも想いを伝えられるもんね。さすがは私だ」


「全部忘れていたくせに」


 彼は毎日いつも別れの瞬間にこのポーズをとってくれる。


 彼は私以上に想いを体で現してくれていたんだなぁ。


「いつもこれすると、満面の笑顔になるから、きっと覚えているんだと思ってたんだがな。だから確認もしなかったし」


「どこかで覚えていたんだよ。だから嬉しかったんだ。いつもありがとう孝史くん」


 やっぱり想いをちゃんと伝えるのって大事。


「それじゃあまたな」


「うん、またね」


 帰る間際、孝史君はあの指のポーズをとってくれた。


 私も真似して同じポーズ。


 お互いに満面の笑顔を追加して送りあった。

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