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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
36/102

第 36 夜   『馬耳東風ですか?』

語り部 : 松下郁子マツシタイクコ

お相手 : 斉藤大輝サイトウダイキ


盛立役 : 雪野礼子ユキノレイコ

      月代順子ツキシロジュンコ

      花田牧子ハナダマキコ

 男なんて勝手なもんよね。浮気するし、すぐに従わせようとするし、嘘ばっかり言うし、なのになんで女の子って、そんなに一緒にいたがるんだろう?


 私も懲りずにまた、男と一緒にいようとするんだろうな。



   第 36 夜

    『馬耳東風ですか?』


「ほら早く、行くよう!」


「郁子、行くってどこ行くの?」


 週末になると人を連れ回そうとする友人と、今日も繁華街までやってきて、目的地を知らされぬまま付いてきたけど、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?


「合コン」


「えー、そんなの聞いてないよ」


「拒否なら受け付けないわよ。もうあんた連れて行くって、みんなに言ってあるから」


 こうして礼子に連れられて、強引に合コン会場となる居酒屋へ引っ張られた。


 順子と牧子が先に来て場所を押さえている。


 合コンって、学生の頃からの連れで? それで私はメンバー入りさせられたのかぁ。


 他にもう一人仲良しがいるんだけど、彼女は今彼氏がいるのでこない、順子は彼氏いるのに来てるけどね。


 少し前までは、私も彼氏がいたから不参加だったんだけどなぁ。


 多分これは私のための会なんだろうな。


「もうすぐ相手も来ると思うから」


 礼子の言うとおり、間をおくことなく現れるメンズ。


「ちょっ! なんであんたがいるのよ!?」


 斉藤大輝、先日別れたばかりの元彼、これは間違いない、順子が絡んだ人選だ。


「ちょっと順子、どういう事よこれ?」


 小声で耳打ちして、聞いてみる。


「いいじゃない、二人ともフリーなんでしょ? 何か問題ある?」


 今の言い方、絶対何かあるんだ。順子ってそういう子なのよね。


 とにかく今はまだ、こいつの顔も見たくないけど、ここまで来たら場の空気を悪くするのもいやだから、こいつのことはカボチャだと思って過ごすことにしよう。


 私の前に座ったのは、ちょっと細すぎるのが気になるけど、割とイケメンな男性。


 お喋りも上手で飽きもこない、ちょっとお酒の量が気になるほどに飲んでるけど、別に乱れる様子もないし、第一印象としてはいいかな。


 そして私の目線の隅にはあいつの姿、気にしないようにすればするほど、気になってしまう。


 あいつを狙っているのは牧子。


 実のところ牧子は、私と付き合っていた頃から、彼のことを気にしていたのを私は知っている。


 ここぞとばかりに攻め手を強めている。


 大輝も楽しそうにお喋りに夢中になっていて、私の目線には気付いていない。


 なんだろう、なんかイライラしてしまう。


 目の前の彼は私を喜ばせようと、ずっとお話を続けてくれているのに、段々それもどうでもよくなってきている。


「それじゃあ、この会はここでお開きにして、後はそれぞれってことで!」


 しきり役の礼子の号令で、飲み会は終了。


 私をエスコートしてくれるのは、もちろん私の前にいた彼、見るからに出来上がっているんですけど、もしかして私の役目って介抱係?


 なんて心配もあったんだけど、彼の足取りはしっかりしていて、呂律もちゃんと回っている。


 なんだ何の心配もないじゃない?


 こんな状態でもう一件、お洒落なラウンジに言ったのはビックリだけど、そこでも本当によく飲んでくれる。


 つられて私もかなり飲まされちゃって、まずいなぁ、彼もベロベロなはずなのに、私まで千鳥足になっちゃったら、誰が家まで送ってくれるんだろう?


「松下さん大丈夫?」


「らいりょうふれふよ……」


 私は本当に酔いが回ってしまい、ちゃんと喋れず、一人では立っていられない状態になっていた。


 そんなおかしな飲み方をしたつもりはなかったのに、目が回る~。


 思うに私の十倍は飲んでいたはずの彼だったけど、私の腰に手を添えて支えてくれる力は強く。


 これならちゃんと送り届けてもらえそうだ。


 安心したら眠気が襲ってきた。私は堪えきれず目を閉じた。






 目が覚めるとそこは、無機質なコンクリートの壁が囲む、殺風景な部屋の中だった。


「ここは?」


「警察ですよ。あなたは被害者です。説明はこちらで」


 女性警察官に呼ばれて場所を移し、いったい何があったのかを聞かされる。


 私はお酒に睡眠薬を混ぜられて、深い眠りについていたらしい。


 薬を仕込んだのは、私が昨日最後まで一緒にいた彼、あれだけ飲んでいたのに、彼は全く応えていなかった。そういう体質なのだろうと言うことだった。


 最初から私を眠らせて、イタズラをするつもりでいたらしい。


 ホテルへと連れ込もうとするところに横槍が入り、全ては未遂に終わったと聞かされた。


 警察沙汰になった理由は、私を助けてくれた人物が暴力を振るったため、そして私が今聴取を受けているのは……。


「では同意の下でホテルに向かったわけではないのですね」

「……はい」


 法的に誰に対して問題があるのかの確認、私の証言により、殴られた彼にも送検理由が発生する。


 その後も細かく事情を聞かれ、お腹も空いた頃に、ようやく解放された。


「お疲れ……」


 私を魔の手から救ったヒーローの登場である。


「なんであんな所にいたの?」


 色々と聞きたいこともあったけど、先ず気になったのはそれ。


「あの飲み会の後からずっと付けてったから」


 牧子と一緒に夜の闇に消えていったはずなのに。


「彼女には丁重にお断りを入れて、帰ってもらったよ」


 それでなぜ私たちを追ってきたのか?


「俺はあいつを、あの合コンに連れて行くつもりなかったんだけど、予定していたヤツがドタキャンでな、他のメンバーが俺の知らないうちに呼んだんだ」


 だからそれで何で私たちを付けてきたのかって聞いてんのよ!?


「その土壇場で来なくなったヤツ、実はあのヤローに上手く言いくるめられて入れ替わったんだ。

俺が聞いた話では、いろんな飲み会に手段を選ばず参加しては、何かと問題を起こしているって言うもんでな、

本当は連れて行きたくもなかったんだが、他の二人が同意したから、とりあえず参加を認めたんだけど」


 それでその後の行動が気になって付けてきたのか……。


 後は眠らされた私をホテルに連れ込もうとしているのを見て、思わず飛び出してきたって次第。


「じゃあ次の質問、なんであんたがこの合コンに参加していたの?」


「まぁ、主催だからな」


 つまり大輝が順子と礼子に話を持ちかけて、あの会が開かれたのか。

 でもなんで?


「また会えたとしても、チャンスがあるかどうかは分からないけど、とにかくもう一度会う必要があると思ったんだよ。お前に」


 こっちから一方的に絶縁状を突きつけて、後は全てシャットアウトしていたからね、それでそんな回りくどいことを……。


「聞いてくれるか?」


「……別にいいわよ。助けてもらったお礼に聞いてあげる」


「ありがとよ」


 彼と別れることを決意したのは、約2週間前、礼子と二人で食事を済ませた後のこと、夜はまだまだこれから、私たちはカラオケにでもと言って、場所を移動していた。


「まぁ、信じる信じないはそっち次第だけど、今さら嘘で誤魔化してもしょうがないからな。後はお前の判断に委ねるよ」


 近道をしようと暗い路地に入ったところで、偶然大輝を見かけて、その場面に思いも寄らない衝撃を受けて、私は後の予定もそっちのけで走り去った。


「礼子ちゃんに説明して、後をお願いしたのが悪かったのかな。だけどあの時はお前を追いかけることもできなかったからな」


 ホテルの前で見知らぬ女性と絡んでいる大輝を見て、てっきり中から出てきたところだと思い、思わず走り出したのだけれど。


「お前、礼子ちゃんがこの話しようとすると、はぐらかして聞こうともしなかったんだってな? あの後始末まで付き合ってくれた彼女は真実を知っていたのに」


 そう、大輝は別に浮気をしていた訳じゃあなかった。


 その女の人はかなり酔っていて、フラフラになりながら歩いていた。


 連れの人達とはぐれて、一人で裏路地に入ったらしく、大輝とはたまたまぶつかってしまったと言うのだ。


 ぶつかった拍子に胃の中にあった物を全部ぶちまけられて、彼のジャケットを汚してしまった。


 その時、彼女を支えていた姿勢が、私には抱き合っているように見えたのだ。


「でもなんであんな所にいたのよ?」


「何でだと思う?」


「えっ? なんでって……はっ!?」


「思い出したか?」


 そうだ、私たちが行こうとしていたカラオケに呼び出したんだ。


 彼の家から予定していたお店に行くには、あの道が近道。


 しかもよく考えれば、電話した時には自宅にいたはずの彼が、あのタイミングで誰かとえっちをしていたはずもない。


「な、なんでもっと早く言わないのよ!?」


「……誰が聞く耳を持たなかったんだ?」


 うう、昔からよく言われます。人の話は最後まで聞くようにと。


「私たち、またやり直せるよね?」

「そもそも俺は別れたつもりもないのだが?」


「へへっ」


 私は彼の右の手を取り、そっと撫でた。


 この手が私を救ってくれたのだ。


「ねぇ、今からカラオケ行かない? お腹も減っちゃった」

「はいはい」


 これからはもっと、ちゃんと人の話を聞くようにしよう。


 少なくとも彼のことは誰よりも信じて、先走らないように。

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