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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
34/102

第 34 夜   『75日の真実』

語り部 : 掘久真輔クツクシンスケ

お相手 : 佐藤紀子サトウノリコ

 うちの学校でも有名な悪女。


 噂では彼女は数多くの男子生徒に、告白をする告白魔だとか。


 しかし相手にOKをもらった途端に、相手に対しての態度が悪くなり、嫌われようとする。


 すぐに別れては次のターゲットを見つける。


 そんな彼女に逆に交際を申し込んだやつは、決していい返事はもらえなかったとか。


 なんて噂を信じているでもなし、第一彼女みたいな美人が、俺なんか相手にするはずもない。


 なんせ彼女が告るのは、みんなが認める二枚目だけだそうだから。



   第 34 夜

    『75日の真実』


 噂の彼女が俺の目の前にいる。本当に聞いていたとおりの美少女だ。


 だけどなんでだ? 俺と彼女の接点なんて何もないというのに。


「私のこと、彼女にしてもらえませんか? 私と交際して下さい」


 噂は本当だったのか? でないと俺が告白を受けるなんて考えられない。


 なんで俺なの? って聞けばよかったのかもしれないけれど、そんな余裕は全くない。


 俺は二つ返事でOKを出した。


 あれから3日。

 今日は初デート、彼女の要望で場所は動物園。


 休みの日の動物園なんて、家族連れとカップルの巣になる所じゃないか。


 そんなところでツンケンした彼女と連れなすなんて、何の拷問だって言うんだ。


 しかも今日は文句なしの晴天。人多いんだろうな。

 何はともあれ初デートだからな。


 相手を待たせるのも悪いと思い、20分前には待ち合わせ場所に到着していた。


「掘久くんおはよう」


 もしかしたら長時間待たされたりもするのか? とも思っていた彼女が先に来ていた事に正直驚いた。


「おはよう佐藤さん、早いね」


「掘久くんだって早いじゃない。まだ20分あるよ」


 その俺を待っている君は、いつからここにいるんだい?


 そう続けるのも自然でよかったのかも知れないけど、白い肌によく似合う白を貴重にしたワンピース姿がまぶしくて、しばらく言葉を失った。


「掘久くん?」


「えっ? あぁごめん。行こうか」


「うん♪」


 今のところおかしな感じはない。


 やっぱり噂は噂ってことかな? 


 折角だから楽しむのが一番だな。気持ちを切り替えよう。






 陽気に誘われて、多くの人が訪れている動物園。


 俺達は人の流れに準じて、園内をゆっくりと回った。


 本人の指定だけあってか、彼女のはしゃぎ様は、見ているこっちまで嬉しくなってくる。


「ねぇ、あっちカバ! 泳いでるのかな? 陸の上で見られるかな?」


 楽しそうに走り回る佐藤さんを見ているだけで、俺は満たされそうになる。


「カバってこう見えて、すんごく凶暴な一面もあるんだってね」


 俺はテレビからの受け売りまんまの話題を振ってみた。

 あれ?


 今まで俺のどんなにつまらない軽口に対してでも、ちゃんと相づちをくれていたのに?


 なんだかあらぬ方向を見ていて、完全に無視されてしまう。


「えっ、なに?」

「ああ、いやなんでもないよ」


 気のせいだよな?


 そうさ、ちょっとタイミングが合わなかっただけだよ。


 こんな些細なことで思い返されるのは、なんで俺なんだ? ってこと。


 その後も何度となしに、彼女の心がここにない瞬間が垣間見えて、少し困惑気味な俺に、彼女は座ろうと提案してくる。


 園内の芝生で入ってもいいと言うエリアで、手頃な場所を見つけてレジャーシートを敷いて腰を落とす。


「今日のお弁当ね、手作りなんだ。でも正直言って、少しだけお母さんに手伝ってもらったんだけど、口に合うかがちょっと心配」


 初デートで全力の彼女、でもたまに見せる素っ気ない態度、噂なんて気にしていない。そのはずなのに頭が理解できないと言って、時々仕事を放棄しようとする。


 お弁当は本当においしかった。


 形の崩れた卵焼きも、焼きすぎたウインナーも、お世辞なしにおいしかった。


 でもその後も本当に時々だったけど、彼女は疲れたような顔を覗かせていた。


「今日は本当に楽しかった。ありがとうね」


 その満面の笑みに作り物はない、そう感じた。……けど。


「本当に?」


「えっ? う、うん楽しかったよ?」


 本当に小さいことなのに、気になり出すと、何よりも重要な事のように思えてくる。


「ほんとう?」


「……なんでそんな風に聞くの?」


 初めて彼女の怪訝そうな顔を見た。


 今日の彼女は笑顔しか作っていなかった。


 時々見せた気の抜けたような表情以外は、もう全部そうだった。


「いや、ちょっと……」


「もしかして掘久くん、あの噂のこと気になってる?」


 彼女のその目は、今日何度か見せた、俺が気になっていたあの目だった。


「噂のことは知ってるよ。でも気にはしてなかった。君からの告白を受けるまでは」


「そう、じゃあ私が告白しまくってる、何考えているか分からない女だって思ってたんだ?」


 この雰囲気は言葉を選んでもダメな感じだ。俺は思うままに言葉にしようと考えた。


「正直言って、君みたいな可愛い子が、なんで俺みたいなパッとしないヤツに興味を持ったのか分からなかった。どこかに接点があって仲良くしていた事があるならまだしも、俺には君から好かれる理由が、全く思い浮かばなかった」


「……」


「それに今日、楽しそうに振る舞う君が、本当に何度かだけど、たまにつまらなさそうにしている顔を見て、何が本当のことなのか分からなくなったんだ」


「……そう言うことか」


 俺が心に引っかかっていた事を全部打ち明けたら、彼女の表情は一変した。


 先ほどまでの嬉しそうな、優しい笑顔が戻ってきた。


「真輔くん、私のこと覚えてない? 子供の頃の水泳教室とか」


 確かに俺は子供の頃スイミングスクールに通っていた。


 その教室は市内のあちこちから子供の集まる人気スクールで、俺がいた頃も30人くらいはいたんじゃないだろうか。


「佐藤規子って子がいたの覚えてる?」


 確かにいたけど、その子は俺より2歳年上で、今俺の目の前にいる佐藤紀子さんと同姓同名ではあっても、あの子が大きくなっても、こうはならないと思える。


「私が入った時、もう規子さんはノリちゃんって呼ばれていて、私のことも名前で呼んだらややこしいからって、別の愛称で呼ばれたんだけど」


 そう言って彼女は俺に向かって、自分のポッシェットを掲げた。


「これって、うさぎ? ……あっ! ミミちゃん!?」

「そう!」


 同い年の練習生だっミミちゃんはウサギが好きで、よく身につけていた小物やシャツに、イラストやプリントの入ったウサギがトレードマークのような子だった。


 その子はなかなか水に顔をつけることができなくて、みんなからはドンドン放されていった。


 同じグループにいた俺は、割と順調に泳ぎを覚えていき、その差も当然開いていった。


 泣きベソをかきながら、それでも頑張って水に顔をつけようとする、でもできなくてまた泣き出す女の子を、俺は一生懸命励まそうとして応援したことを覚えている。


「住んでいる町が違っていたから、あれからずっと会うこともなかったけど、高校に入って掘久くんを見つけた時、本当に嬉しかったんだ」


 そうか、どこにもないと思っていた彼女との接点が、まさかそんなところにあっただなんて。


「それと今日の態度、本当にごめんなさい。まさかそんなに気になっていたなんて思わなかったから」


「あ、いや、それは気にしていないと言いながら、結局気になっていた俺の方が悪かったんだし」


「うぅうん、誤解を生むような事したのは私だから、……あのね、告白するって決めた時から、デートの日を決めた時から私、あんまりちゃんと寝てないの。凄く緊張して、すごく楽しみで」


 眠気を堪えていた? のかぁ……。


「私もね、あの噂の所為で、掘久くんが私を遠ざけるようなことがあったら、どうしようってずっと思っていたの。でもそれじゃあいけないなって勇気を振り絞って! 実はあの噂のお陰で告白できたのよ」


「あの噂って、本当はなんだったんだろう? どこから生まれたもんなんだ?」


「さぁ……。でも人の噂も75日って言うし、私が動じていなかったらそのうち消えるだろうと思って気にもしなかったし、まぁ噂の半分は本当だしね」


「半分、本当って?」


「私、誰の告白も受けなかったから、全部断っていたから」


「もしかしてフられたヤローが腹いせに噂を流したとか?」


「さぁね、でもそんなの別に気にならないよ。あなたとお付き合いを続けていけるのなら、誰もそんな噂なんて信用しなくなるだろうし」


 そうだよね。


 俺達が一緒にいる姿を目にすれば、自ずと消滅していくはずだよな。


「その為にも掘久くん、私とこれからもお付き合いをしてもらえますか?」


 それは2度目の告白だった。無論僕にそれを断る理由はない。


「昔のように名前で呼んで貰ってもいいかな? ミミちゃん」


「ちょっと、真輔君! そのミミって言うのは止めて!? ……私も紀子って呼んでくれると嬉しい」


 そうかミミちゃんというのは封印されてしまうのか、なんか残念ではあるけど、ことある事にちょっと覗かせるのはありかな。


 今度はよく寝て、スッキリとした君とデートがしたいなと言うと、彼女はかわいらしい舌をちょっとだけ見せて微笑んでくれた。

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