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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
3/102

第 3 夜   『いつもと違う時間』

語り部 : 宇野啓介ウノケイスケ

お相手 : 北真理子キタマリコ


盛立役 : 世良幸夫セラユキオ

 朝から何度目になるか分からないメールチェック、コールしても繋がらない携帯。


 人生十数年、一番長い一日を過ごし、もうすぐ終わろうとしている。


「まったく、どうしたもんかな……」



   第 3 夜

    『いつもと違う時間』


 昨日のことである、小学生の頃からの悪友に、他の大学の女の子達とコンパがあるから付いてこいと言われた。


「お前は俺に彼女がいるのは知っているはずだが?」

「知ってるよ。それとコンパに行くのと、なんの関係があるんだよ」


 こういう事を真顔で言えるヤツなんだよな。


「いやだよ。変な誤解生むだけだからな」

「頼むよ。向こうの子達の中に、、お前の写真見てヤケに気に入ったって子がいてさ。お前連れてくるならオッケー! って言われてんだよ」


 それこそ彼女持ちを連れて行く話じゃないだろ。


「いや、その子にはちゃんとコブ付きっていうのは言ったんだけど、ただの飲み会なんだから別にいいじゃないってさ」


 なんだかやけに根回しがいいなぁ。


 その場限りの出任せっぽくもあるけど、それこそ確認のしようのないこと。


「しかし、あいつにどう説明したもんやら、……たぶん許してもらえないだろうしな」


「そんなのわざわざ言う必要ないじゃんか、俺らがコンパしている店なんて、分かりっこねぇし、電話かかってきても無視して、後から適当に誤魔化せばバレっこねぇって」


 そりゃそうなんだろうけど。


「サークルの飲み会。って言っておけば大丈夫だって」


 まぁ、そう言って飲みに行く事なんて確かにしょっちゅうだけど。


「いいだろ?」


 こうして無理矢理首を縦に振らされた俺は、コンパ開始一発目に「彼女持ちですがよろしく」って、思いっきり場を白けさせる自己紹介から始まった。


 4対4の8人飲み会は、特に珍しいイベントもなく、飲んで、食べて、くっちゃべって、ふつうに盛り上がって、盛大に出来上がって。


「へぇ、それじゃあ彼女さんとはバイト先で出会ったんだ?」


「ああ、高3の時にね。どっちも受験生だったけど、俺は別にどこの大学でもいいって感じで、まじめに勉強漬けって事もなくて小遣い稼ぎ、向こうは目標の大学があったみたいだけど、あまり親に面倒かけたくないとかで学費稼ぎしてて」


 こんな人のなり染め話なんて、聞いていておもしろいのだろうか?


 俺が最初から壁を作ったもんだから、ご指名をくれたこの子も、線が見えるのかして、必要以上に入り込んでこない。割と好感触を得たけど、あまりこういうのは話すのも恥ずかしいから、これ以上は勘弁して欲しい。


 ため息混じりで店の外に顔を向けたときだった。


「!? ……、こんな偶然、ありっこねぇよ」


 それから後は、どんな話をしたかよく覚えていない。


 二次会にも参加しなかったし、それどころじゃなかった。


 一人になってスマホを取り出し、着信メールがあるのに気付いて開いた。


『信じらんない!?』


 やっぱり見間違いじゃなかった。


 俺は慌ててコールしたが、着信拒否かよ。


 事の顛末を書き込んでメールを送信。

 ……十分経っても、二十分経っても返信はなし。SNSで送った方は未読のまま、これでは読んだのか読んでないのかも分かんねぇけど、完全に無視する姿勢なのはよく分かった。


 とりあえず時間を置くしかない、そう思ってその日は寝た。


 そんでもって今日、起きてすぐに携帯を確認したが……。


 徹底して俺との交信を拒否してやがる。


「あいつってこんなに融通効かなかったっけ?」


 融通とかそう言った事じゃないのは分かってるけど、なんだか疲れてきた。


「俺って、なんであいつと付き合うようになったんだっけ……」






 俺は夏期講習やゼミの模試から逃げるようにして、夏休みの大半にバイトのシフトを入れていた。


 毎回長期休暇の時にはお世話になっている、ファミリーレストランのホール係、高3の夏、その子はそれまで働いていたバイト先が店じまいになったと言って、新しく入ってきた。


「へぇ、じゃあここの前は、ファーストフードの店で働いていたのか」


 掃除の時間とかに自然に話をするようになり、仕事仲間として、割と早々に仲良くなった。


 彼女のあだ名は最初の一週間で決まった。“奢ってちゃん”っと。


 ちょっと失礼なニックネームだが、自他共に認める奢らせ上手は、朗らかなよく笑う女の子だった。


「ねぇねぇ、今日の晩ご飯一緒しない?」

「って、自分で出す気ないだろう」


 次の一週間で、どうも俺の財布に照準を絞ってきていることに気が付いた。


「デートしてやろうってんだ、男として、それくらい出すのが当然でしょ」


 まぁ、奢らせると言っても、無理させようって気はないらしく、牛丼やハンバーガーでもOKだから、可愛げがあるっちゃあ、あるんだけど。


 3週間目、俺はゼミに出ないとならないので、この週末でバイトは終わり、その最終日に彼女から告られた。


「彼女にしてって言うんじゃないんです。お友達としてでもいいから、たまに会って遊んでやってください」


 真っ赤になってそれだけを俺に告げ、黙ってしまう彼女に、「じゃあ彼女としてなら」と言って、OKの返事をした。


 彼女は満面の笑顔を俺にくれた。

 俺は人生初の癒しを感じた。






 それからも彼女の“奢ってちゃん”は健在。


 バイトも続けていて、勉強も追い込みにかかっていたから、デートは図書館が常で、特別なイベントとかは、お互い大学合格が決まってから。と言う暗黙の了解があり、食事もファーストフードやファミレスでノート持参。特別楽しい事は本当になかった。


 俺は13校受けて、4校の合格通知をもらった。


 あまり勉強に打ち込んでこなかったんだから、これでも上出来な方だろう。


 適当に適当な学部を選んで、入学の手続きを済ませた。


 彼女も目的の公立校の栄養学部に合格して、二人して現役合格を成し遂げた。






「一緒にいて、あんまり楽しいことがあった訳でもないのに、なんでこんなしんどい思いしなきゃなんないんだろ」


 そりゃあ、黙って合コンに行った俺が悪いんだから、ヤキモキするのも当然の罰なんだが、それよりなにより、俺はあいつと別れる事だけはさけたいと思っている。なんで?






「へぇ、栄養学部なんだ?」


「うん、家は裕福な家庭って言うのからは、ちょっとかけ離れていて、なのにお父さんは私の大学まで考えてくれているんだけど、私の下にはまだ4人も弟や妹がいるから、公立大学って言うのは必須条件で、栄養学部って言うのは……」


 俺は漠然と大学へ行って、適当に就職口が決まればいいや。くらいにしか思っていない。


 周りにもそういったビジョンみたいなものを持ったやついないから、つき合って直ぐに聞いた話だったけど割と新鮮で、このとき初めて彼女が輝いて見えた。


「それと、楽しい生活はまず健全な食からだって、思うから」


 彼女の将来は結婚、出産、育児、そして余生まで続いていた。


「結婚する前に社会人を経験しておきたいんだ?」

「うん、出来たら育児休暇とっても、しばらくしたら復帰できるくらいには頑張りたいんだぁ」


 本当にこの子は今まで、俺を含めた周りにいたどんなタイプの人間とも違う。

 キラキラした目でそんなことを語る彼女、メルヘンではなく、その家族計画に俺を盛り込んでくれているのが本当に嬉しかった。






 ピンポーン♪

 なんどメールしてもコールしても繋がらない。


 もうしばらく時間を置く必要があるのかと、今日は諦めるかとため息をついていた俺の溜め息を遮るようにインターフォンがなった。


「はいはい、どちら?」


 実家から程なく離れず、俺は一人暮らしを始めていた。

 あいつが言うところのそこそこ裕福な家庭に育った俺は、温室を親に用意してもらって、独り立ちはまだまだ先だが、一国一城の主として応対した。


『……私』


 突然の訪問、完全に意表を付かれて、俺はしばらくフリーズしてしまった。インターフォンを連打されるまで。


「い、いらっしゃい」

「……」


 ああ、沈黙が重い。

 入室を願ってから3分、どちらからも言葉を切り出せないでいる。


「……あのね」

「な、なに?」

「昨日のこと、世良君から聞いた」


 世良幸夫、俺を合コンに誘ったヤツだ。


「早とちりで誤解してた……」

「いや、誤解って、事もないし、俺も軽率すぎたって、今日一日反省してた」


 野郎が俺たちの事を気にして、責任を感じ動いてくれたお陰で、どうにか事なきを得たが、お互い改めて相手のことを考える、いい機会にもなったんじゃないだろうか。って、どうにかなったから言えることだけど。


「合コンとかに限らず、黙って何かするのはなしにしようね」

「いや、もう合コンはパスだな」

「えー、なんで? 私も行ってみたいなぁ」


「行ってみたいって、堂々と浮気宣言ですか?」

「違うよぉ~、私たちが主催でコンパ開くってのはどうかなって」


「ああ、そう言うこと? いや、よそう、どうせ世良のヤツが首突っ込んできてシッチャカメッチャカになるのがオチだよ」


 まぁ、将来のパートナーが、本当にこいつになるのかどうかは分からないが、今を大切に、くだらない喧嘩はなるべくせずに済むようにやっていきたいもんだ。

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