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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
29/102

第 29 夜   『doesn’t have』

語り部 : 小坂輝久コサカテルヒサ

お相手 : 大城桜オオシロサクラ

 出会いは高校一年生の春、やたらとちっこくて可愛い子がヒョコヒョコ歩いている風な、強い印象で今でも鮮明に頭に残っている。

 切っ掛けは彼女からの告白、俺は実感が湧かずに、それじゃあ友達からなんて、曖昧な言葉で交際を始めた。

 それから何気なく二人の時間が増え、いつからだったか、俺は真剣にこの子と向き合い、本気で好きになっていた。



   第 29 夜

          『doesn’t have』


 クッキング部2年、大城桜、身長138cm、身長に合わせたような童顔はとても同い年には見えない。

 バスケ部2年、小坂輝久、身長186cm、図体ばかり大きい肝の小さい小心者、ってのが俺なのだが。

「ほら、輝くん! またご飯粒ホッペタに付けてるよう」

 一緒に歩いていても、年の離れた妹か、兄弟の子供、つまり姪に思われたことがある。

 それは桜が幼く見えるのもあるけど、俺が高校生に見られないってのもある。

「はいお茶、慌てて食べると変なところに入っちゃうよ」

 でも実際は桜の方がよっぽどしっかり者で、俺は面倒ばかりかけてしまっている。

 体を動かすのは好きなんだけど、それ以外はてんでからっきしな俺は、今日もけだるい授業に欠伸が止まらない。

 今日は体育もない一日中座りっぱなしの日、中学生の頃までは、休み時間事にグラウンドで走り回っていたもんだが、高校生になってそう言うのもやらなくなったなぁ。

「輝くん、今日も眠そうだね。昨日の夜って言うと、ラジオ番組聞いてるんだっけ?」

 お気に入りのパーソナリティーがやってる情報バラエティー、絵がないからこそ楽しめる、想像力を掻き立てる世界が何とも言えない。

「生番組の臨場感とかね、録音じゃあなんか物足りなくってさ」

 夜寝るのが遅いから眠いのは分かっているんだけど、どうしても外せない。いや、それが無くても他の物で時間潰しているんだろうけど、ようは夜更かしがしたいんだな。

「今日部活ないんだぁ~、先生が出張でね。だから今日はずっとバスケ部の練習見てていいかな?」

「いいんじゃないの? 桜、人気者だし、ヤロー共も喜ぶと思うよ」

「へへっ、何おだてちゃって、それで輝くんは?」

「ばーか、俺のこと今さら確認することでもないだろ」

「そう言うフリで、いつもこう言うのハグらかすんだもん、ちょっと寂しいよ」

 いかん、この顔を見ていると、つい頭を撫でたくなる。

 こういう表情がこいつを人気者にしてるんだよな、俺もこういうちょっといじけたような表情がたまらないファンの一人なんだけどな。

 気が気じゃないんだよな。なんで俺なんかって思うことが多々あって、桜の無償の愛を疑うことは無いけど、もっとしっかりしなきゃ、いつか捨てられるのは俺の方なんじゃないのかって。

 放課後まで後一時間、ちょっとは真剣に授業を受けてやるか!






 見事に眠っちまった。

 お陰で元気いっぱい、部活には身が入ると思うけど、もう高2なんだし、ちょっとは勉強の方も頑張らないといけないよな。

 ……過ぎたことはしかたない、俺は練習着に着替えて気合いを入れ直し、体育館に向かった。

「よろしくお願いしまぁ~す」

 今日もギャラリーはいっぱい、それぞれに目当てのプレイヤーがいて、女の子達は練習の段階から声援を送ってくれる。

 スタメンは例に漏れることなく、ファンが付いていて、試合さながらの緊張感を得られるといって、練習中も二階はオープンにされている。

 かく言う俺にもファンはいる。

 俺にとってはただ一人で百人力のちっこいの。

 それと一応はレギュラーだからなのか、数人の自称ファンの子達。

 そりゃあ悪い気はしないけど、自分の彼女の手前、あまり大きな声で応援されるのも複雑な気分になる。

 人それぞれかもしれないけどさ。

 そんなことはさておき、今日一日運動らしい運動をしてないからな。ここで発散しなきゃストレスたまっちまう。

 黄色い声援の飛び交う中、やる気は満点。

 時間の経つのも忘れてしまい、気が付いたら息も切れ、日も暮れていた。

 最後まで走り続けた全身は、もう汗だく。

 汗を拭い、着替えて荷物をまとめた。

「お待たせ桜」

 部室から出たところで、いつも待っていてくれる桜の姿がない。

「あれ? どこ行ったんだ。おーい桜?」

 もう日も落ちてるし、一人でいると妙なおじさんに声かけられたりしたら大変なのに。

「輝くん……」

「ああ、いたいた」

「これから私の家に来てもらってもいいかな?」

 何かあったのか? なんか声がおかしい。

 桜にうつむかれると、本当に表情が読めなくなる。

「別にいいけど、腹減ってるから飯食ってからでいいか?」

「お願い、直ぐに行こう」

 すっかり遅くなってしまったし、確かに寄り道していたら、かなり遅くなりそうだな。

「わかった」

 まっすぐ向かった道中、特に会話もなく、久しぶりに入る彼女の部屋も特に変化はない。

「なんかあったのか、桜?」

「輝くん、私ってやっぱり女としての魅力、何もないのかな?」

 なにかこういきなりな、話の展開について行けない。

「輝くん、私を大事にしてくれてるのは分かるけど、一年近く付き合っていて、何も進展無いのはおかしいって」

 誰にそんなこと言われた? それはまぁ、青少年少女の真理とも言えるけど、一つのお約束みたいに感じてしまいそうだが、決してそればっかりじゃないぞ。

「お、おい桜……」

「後ろ向いてて……」

「えっ?」

「後ろ向いて!」

「はい!?」

 気迫に気圧されて言葉も続けられず背を向ける。

 壁に掛けられた時計の針の音が気になる。な、何か言わないと……。

 言葉を探す俺の後ろから、また別の音が聞こえてくる。これって、衣擦れの音?

 桜の荒くなった呼吸と、なんだろうガチガチと何かがぶつかり合うような音もする。歯のぶつかり合う音?

「桜、いったい何を」

 思わず振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、制服のスカートを脱いで、ブラウスのボタンに手を掛ける桜の姿。

「ちょ、お前なにしてんだ!?」

「だって、私みたいな幼児体型で感じてくれるか分からないけど、何もしないで輝くんが離れていったらやだもん」

「な、何があった? 何かあったんだろ?」

 とりあえずブラウスのボタンを掛け直してやる。

 シャツの隙間から白い肌と、白い下着がちらりと見える。

 えーい、自制しろ俺。

 少し落ち着かせてから話を聞く。

 今日の練習後、俺が帰り支度をしている間のこと、自称俺のファンの子達に捕まった桜は、あれよあれよと質問攻めにあう。

 そこで付き合いだしてから一年あまり、俺が全く手を出そうとしないことを知った彼女たちは、それは桜に全く魅力を感じておらず、きっともっとステキな子が現れたら捨てられるに違いないとか言われたらしい。

 本当はもっとえぐいことを言われたんだろう。そうじゃなきゃ、桜がこんなことまでくるとは思えない。

「全くバカな心配だよそんなの。俺が自分を押さえているのは、桜との付き合いをもっとずっと先まで真剣に考えてるからなんだよ。自重しながら成長してから、それからで十分なことだからさ」

 本当は、あまり無茶なことをして、嫌われるのが嫌だから何だけど、それを言ったらこいつはまた、震えながらシャツを脱ごうとするに違いない。

 俺は何より桜の嫌がることはしたくないんだ。

「でもそうだな、これくらいはしておいてもらおうかな」

 俺は本当に触れる程度の一瞬だけ、桜の唇を俺の唇で感じた。

「俺もさ、桜があんまり可愛いから心配になることだってあるんだぜ。変な男に取られないようにって、心では必死にもがいてるんだ。本当にお互い様なんだよ」

 彼女にここまでさせたのは、俺にも責任がある。

 恋の駆け引きっていうのも大げさかもしれないけど、俺が今どうしたいかをさり気なく伝える術を身につけないといけないな。

「ありがとう……」

 他の誰にも見せないこの至極の笑み、これが見られるだけで、今は十分なんだけどな。

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