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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
28/102

第 28 夜   『プロポーズ発表会』

語り部 : 植松晋也ウエマツシンヤ

お相手 : 金子尚カネコナオ


盛立役 : 青島貞夫アオシマサダオ

      千葉益美チバマスミ

 仕事場での地位は上々、会社自体も今のところは安定している。


 俺は付き合いの長い彼女に、一大決心を打ち明けようと、喜んでくれるであろう指輪を買った。



   第 28 夜

          『プロポーズ発表会』


 小学校の時に知り合って、中学の時に恋に落ちた。


 彼女を追って同じ高校へ行き告白、交際を続けて大学も卒業し、別々の進路に進んだが、二人は交際を続けた。


「そうか、とうとうプロボーズするのか」


 こいつも小学校の頃からの友人で、名を青島貞夫と言う。


「いや、こいつを買ったのは、もう一月も前なんだ」


「なんだ? 何かの記念日を待ってるのか?」


 俺は正直に話した。


 この指輪を買ってから一月、彼女をデートに誘ったのが3回、夕飯に呼んだのが7回、その尽くでプロポーズの言葉が口をつかず、未だ成功に至っていないことを。


「今時貴重だな、その内気っぷりは」


 本当に笑い事ではない。


「尚ちゃん待ってるんだろ? それ系の雑誌とか買ったりしてさ」


 プロポーズするなら「それ買ってきて」みたいなネタ披露してた芸人がいたっけ? あれCMか?


 でも実際には、そんな気軽にお願いできるもんでもないんだよな。


「なぁ晋也、今度飲み会しないか? 小中で仲良かったやつら集めてさ」


 今はプロポーズの事で相談しているのに、いきなり飲み会って?


「だから、二人だと緊張するんなら、みんなの前で発表って形にしてさ」


「いや、それこそ緊張して、何も言えないって」


「言えないなら、それはそれでいいじゃないか、とにかく色んなシチュエーションでチャレンジしてみるんだよ」


 確かに二人でできないなら、的発想は悪くない。


 違う状況を作れば、気持ちの変化が生まれるかもしれない。


 みんなの前で言おうとするくらいなら、彼女一人に言う方が楽だって理解するとか。


「段取りは任せとけ。お前はかっこいいプロポーズの言葉でも、一から洗い直しておいてくれ」


 子供の頃からの親友は、本当に頼もしかった。


 極度の内弁慶な俺には、本当に何かとお役立ちなこいつのお陰で、今回も活路を見出だす事ができた。






 男5人、女3人、割と仲のよかった男女が寄り合って、いよいよ一大イベントを隠した飲み会が始まった。


 俺はやっぱりみんなの前でと言うハードルを飛ばず、飲み会前に彼女と二人っきりになり、プロポーズする道を選択した。


 その為に貞夫から、態とらしく買い物を頼まれて、二人で買いに行くと言うシチュエーションを用意してもらった。


 買う物は彼女が言付かってきたので、俺は打ち明けるタイミングだけを探っていたんだけど、結局これと言った場面を見つけられず、みんなと合流、飲み会会場の居酒屋へ。


 乾杯をして、プロポーズをかけた雑談スタート。


 ……よく考えたら、この雰囲気でプロポーズって、二人でいる時より、もっとタイミングが計れないのではなかろうか?


 彼女も仲良し3人組で話を盛り上げているし、男どもは女子なんかそっちのけで、猥談をしていやがるし。


「おい、やっぱり既に、計画は頓挫したんじゃないのか?」


 耳打ちで貞夫にクレームを申し立てると。


「安心しろ。見せ場は作ってやるから」


 見せ場って何だ? もしかして独演ムードを作り上げて、発表させられるんじゃないだろうな。


 と言うか、この企画にのった時点で気付くべきだった。この場で打ち明けると言うことは、どうしたって発表会になるのだ。


 ああ、ダメだ。絶対こんな状態でプロポーズなんてできっこない。


 自分の意気地の無いのを棚に上げ、策におぼれた貞夫を見やり、視線で殺そうと黙殺するが、当然そんなことではヤツはビクともしない。


 飲み放題食べ放題で、制限時間のある飲み会は、もう時間も押し迫り、やっぱり今回も失敗の色を濃くしてきた。


「それじゃあ、ここで」


 って、もしかしてやっぱり、独演発表会をするのか?


 ちょっと待て、この期に及んでかもしれないけど、まだ心の準備は整ってないぞ。


「尚ちゃんがみんなに伝えたいことがあるそうで~す」


 貞夫の口から出た名前は、俺じゃなかった。


「どーも金子尚です、初めましてぇ」


 尚のやつ飲み過ぎじゃないのか、なんか今一つ呂律も回っていないようだけど。


「大丈夫、尚~?」


「益美ちゃん、だいじょうぉぶ! 私はここにいるよう」


 まぁいいか、尚はへべれけでも、俺は一大イベントの緊張感のお陰で、ほとんど酔ってないから。


「えー、私こと金子尚は今度結婚をしたいと思います」


 なに!? ちょ、ちょっと待て! 何が起こっているんだ!?


「植松晋也! ちょっとそこに立ちなさい」


 本当に大丈夫なのかこいつは? 


 しかしここで逆らったら、何を言い出すか分からない。


 俺は素直にその場で立ち上がった。


「一度しか言わないからな。ちゃんと聞いていてよ」


 って、何を言うかはもう言っただろ、結婚って! あれ、相手って俺?


「私と結婚して下さい」

「えっ?」


「だから一度しか言わないって、私と結婚して下さい」


 一度だけと言いながら、もう一度言った。


 しかし俺は何が起こっているのか、まだ頭を整理できていない。


「おめでとう!」


 貞夫と他4人がクラッカーを鳴らす。


「ば、ばかお店に迷惑だろ」


 俺と尚がここに来る前に買いに行かされたのはこれだったのか、しかし時間的に店内は結構な混み合いとなっていて、そんな中でこんな大きな音を出せば、お店に迷惑を掛けるのは必至。


 だけど……。


「おめでとう」

「本当に、めでたい日だわ」

「二人ともお幸せにぃ」


 と、見知らぬ人たちから、黄色い声援が飛ばされる。


「貞夫、これって?」


「クラッカー鳴らす許可なら、お店にもらってるよ。そんで他のお客さんに了承をもらえるように、お店の方からお願いしてくれたんだよ。それより晋也」


 尚は左手を俺に向けたまま止まっている。


「なに? って、あっ!」


 俺はポケットの中から、大切なあれを取りだした。


「尚、知っててくれたんだな」


「そんなの当たり前じゃない。いつまでも待たされるし、あげくにはこっちからプロポーズさせられるし、晋也って……やっぱりどこまでも晋也なんだから」


 俺は尚の左手の薬指にエンゲージリングをはめた。店のあちらこちらから拍手が聞こえてくる。


「いいなぁ、尚が一番手かぁ」


「へっへー、いいでしょ。でも待ちに待たされた挙げ句だよ。本当に苦労したよぉ~……」


「お、おい尚!?」


 尚はヘナヘナっと腰が砕けたように座り込み、そのまま安らかな寝息を立て始めた。


「尚ちゃんも人前で発表とかするタイプじゃないもんな。でもこの為にお酒も目一杯飲んで頑張ったんだな」


 貞夫の言うとおり、本当に尚からのプロポーズには驚かされた。


 だけどこの頑張りは、俺があまりに不甲斐ないから見せたんだよな。


 これ以上男としてイニシアチブを渡さないためにも、俺ももっとしっかりしないといけないな。

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