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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
24/102

第 24 夜   『見えない明日』

語り部 : 坂口可乃子サカグチカノコ

お相手 : 道塚浩二ミチヅカコウジ


盛立役 : 西野京ニシノミヤコ

      里中今日子サトナカキョウコ

 どうしよう、どうやって返事しよう、どう返していいか分かんない、誰か替わって欲しいよぉ~。


 で、でも替わるのはやっぱりパスー! ああどうしよう、でもどうしよう、そうだ! ……どうしようぉ~……?



   第 24 夜

          『見えない明日』


 彼と仲良くなれたのは、一年生の時の文化祭。


 二人でクラスの実行委員に選ばれて、頼れる相棒のお陰で、クラスの催し物は滞りなく成功となった。


 打ち上げは二人でカラオケにいった。


 男の子では一番の友達となり、何かあれば助け合いの精神で、本当に一年生の半分は楽しかった。


「の子、どこ行ってたの?」


 昼休み終了間際に教室に戻ってきた私を、西野京が呼んでいる。


「ああ、えっとねぇ、部活棟の女子ロッカー室に」

「お弁当箱持って? なにしに……」


 どう言って説明すればいいのかに悩んだけど、直ぐにチャイムが鳴って授業が始まったので、とりあえずは後回し、一時間かけて整理することにした。


 でもどういう風に言ったらいいんだろう?


 その時間は先生に指されることなく、一時間分キッチリ考えることができたのに、きれいにまとめることはできなかった。


 しょうがない、状況をそのまま説明するしかないか。






「へぇ、よかったじゃない、向こうから告白してきたなんて、の子もずっとタイミング狙ってたんでしょ?」


「うーん、それなんだけどね、みやちゃんって、彼氏とどんな風に過ごしてるの?」


 結局放課後まで待ってもらい、昼休み同様に部活棟の女子ロッカー室まで来た私たちはそこでお喋り。


 お昼にここでお弁当を食べたと打ち明けたら、大うけされたけど、本題はそこじゃない。


「どんなって、別に特に何って事はないよ。他の友達ともすることを二人でしてるだけ、ただ誰よりも長く一緒にいるのが彼なだけよ」


 それって確かに特別じゃないな、私と浩二くんの関係も今のに近いし。


「って、いうか、今まで付き合ってなかったって事の方がビックリよ」

「今日子ちゃん?」


 突然、里中今日子ちゃんが登場して会話に加わる。


 キャプテンと先生が今度の試合会場の下見に行っちゃって、私達三人が所属しているテニス部は、今日はお休み。なので今日テニス部のロッカー室を使う人はいない。


 今日子ちゃんも忘れ物を取りに来ただけだそうだ。


「あんたと道塚くんって、いつも一緒だから、てっきりっていうか、とっくに彼氏彼女になってると思ってたわよ」


 そんなに一緒かな?


「そうだね。の子って、独占欲強いから、道塚が他の女の子と喋ってると、必ず入っていくよね」


 それは何を喋ってるのかが気になるからだよ。


「それに男の子達と遊んでばっかりいると、機嫌悪くなるしね」


 それはせっかくの新発見や情報を、一番に教えてあげようとしてるのに、入っていける空気じゃなかった時だ。


 みやちゃんと今日子ちゃんに交互に攻められて、どうも私達は一般的には、立派に付き合っている仲らしいんだけど。


「ところでこれってなんの会合?」


 すんなり入ってきたのに、その実態を掴んでいなかった今日子ちゃんからの質問。


 また一から説明ですか?


「……と言うことなの」


「ふーん、それでなんで逃げ回ってるの?」


「うん、告白を受けたのが五日前でしょ、それで返事を求められたのが昨日なのね」


「随分気の長い話ね」


「申し込まれた日に、ちょっと待って! ってこっちから言ったから」


 それで時間を置いた昨日、改めて聞かれたんだけど。


「その時もはぐらかしちゃったと。でもなんで? 答えなんてとっくに出てるんでしょ」


 そう、そこなのよ。


「友達でいるのと彼女になるのって、どう違うんだろう。今まで通りじゃ、なんでダメなのかなって」


「今まで通り?」


「そう、ずっと仲良くしてきたのに、特別になって辺に意識しちゃうのって、今まで通り隣にいるのになんか損した気分になっちゃわない?」


 みやちゃんの問いに答えると、今日子ちゃんと視線を交わす。今の私の言葉は二人には理解できなかったようだ。


「さっきの質問に戻るけど、あんた達って本当にまだ付き合ってないのよね」

「そうだよ」


「でもどう見ても端からだと仲睦まじく見えるし、彼女だって認めたからって可乃子はどう変わるって言うの?」


 変わる? やっぱり何か変わっちゃうのかな?


「なるほどね、可乃子は道塚くんと付き合うのが嫌なんじゃなくて、彼女って立場になるのが、そうなって何かが変わるのが怖いのね」


 怖い? あぁそう言うことなんだぁ、だからどうしていいか分からなくて足掻いてるのか、私は。


「そんなのさぁ、なってみないと分からないし、なったからってそれで壊れる関係なら、いらないって事じゃない?」


「えー、ヤダよ。浩二くんと遊べなくなるのぉ」


「あんたがそう言えるうちは壊れたりしないわよ。ね、京」

「そうね」


 なんかやっぱりよく分かんないよ。二人はなんでそう言いきれるんだろう?






 今日はどうにか彼に会わずに済んだ。


 でもなんだろう、心にポッカリ穴が空いた感じ。


「彼女かぁ~、特別って言われてもって、端から見たらもうとっくに特別な関係になってるらしいし、浩二君は何を望んでるんだろう?」


 毎日見上げている自分の部屋の天井なのに、なんだかこのところ凄く高く感じる。


 私は自分の携帯電話を意味もなく弄りながら、無為な時間を過ごしていた。


 心が無防備でいたから、携帯の着信音が鳴った時は本当に驚いた。


「は、はい! もしもし」


 誰からの電話かも確認することなく出てしまった。


『やっと捕まえた』


 浩二くんからだった。って浩二くん!?


『いきなり切ったりするなよ。坂口は今自室だよな。窓から外覗き見てくれ』

 外?


「よっ!」

 家の前に浩二くんがいた。


 もう逃げ場はないよね。この状況で無視したりはできないもんね。


 私は潔く外に出た。


 なんか難しそうな顔して立っている浩二くんと、近くを散歩しながらお話しすることになった。


「お前がこのところ変なのって、俺が交際を申し込んだからだよな」


 淡々と喋ってるなぁ。こういう時ってちょっとだけ怒っている時なんだよねぇ、浩二くん。


「そんでお前のことだから、交際宣言したからって、今までとどう変わるのかとか、もし変わるとしたらそれはどうなるんだろうとか、それこそ今考えても出ない答えで、一人悶えてるんじゃないのか?」


 ずぼしってどう書くんだっけ?


「本当に俺がよく知っている坂口可乃子でいてくれて嬉しいよ」


 今のは絶対褒め言葉じゃないよね?


「そうだな、多分これで理解して貰える言葉を用意してきたんだが、聞いてくれるか?」

「う、うん!」


「俺達の関係は今までのままでいいんだ。まぁ、いろいろと期待している未来ってのもあるけど、現状は今のままでいいよ。俺が欲しいのはそうだな、二人の距離感ってやつだ」


 また漠然とした説明だなぁ~。


「待てよ、今のじゃ絶対分かってないよな。えーっとだな。つまり……、俺は大手を振って、俺の彼女ですって言って、他の男がお前に寄ってくるのを避けたいんだよ」


 おお、それなら分かるよ。私だって浩二くんが他の女の子とお喋りしているの、あんまりいい気分してなかったんだよね。


「それに、俺が友達と馬鹿話している時、入って来づらそうにして、不機嫌そうになるけど、そんな時でも彼女って事なら、気兼ねなく話題に入ってこれるだろ」


 なんかいい事だらけじゃない。


「……たぶんだけどな、お互いこれからどんな風に変わっても、俺はそれを楽しんでいけると思うんだ。だから少しずつでいいから、前の日より今日、距離を縮めることができたら嬉しいんだよ」


 少しずつ、そう、だよね。少しずつでいいんだよね。


 友達から彼女になったからって、いきなり何かが変わったりする訳じゃないんだ。


 それに変わるのだとしても、二人一緒ならきっと楽しいことになるよね。


 私はいきなり浩二くんに抱きついてしまった。


 五日間もまともにお喋りできなかったんだもの、これからは毎日誰の目も気にすることなく、彼の隣にいられる。


 なんだ、何悩んでたんだろう、すんごく損しちゃったな。


 今日より明日、私達の距離はどれだけ縮まるんだろう?


 私は変わっていく明日への期待を胸に、昨日までのくだらない悩みを抱えた自分を心から追い出してやった。

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