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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
23/102

第 23 夜   『本気と書いてなんと読む?』

語り部 : 間瀬優作マセユウサク

お相手 : 蘭場美尋ランバミヒロ


盛立役 : 大宮順オオミヤカズ

      倉橋詠美クラハシエイミ

 交際を申し込んできたのは彼女からだった。


「もう終わりにしましょう」


 なぜそんな事を言われているのか、身に覚えがなさ過ぎて、何を言われたのか、直ぐには理解できないでいた。


 彼女が立ち去った後もしばらく、訳も分からず立ちつくしていた。



   第 23 夜

          『本気と書いてなんと読む?』


 あれからよく考え直したが、何が悪かったのかが未だに分からない。


「お前が悪いよ。どう考えたって」

「そうね。美尋よく我慢したと思うわ」


 同じ野球部のチームメイトでクラスメイトの大宮順と、その彼女の倉橋詠美に挟まれて、懇々と攻められている。


「お前さぁ、美尋ちゃんの愛に甘えすぎ何だよ」


「そうね、確かに甘やかしすぎたあの子にも責任はあるけど、間瀬くんは……、って本当に気付いてないの、理由?」


 この状況でここまで言うからには、言われていることに間違いはいないんだろうけど、だから何がいけなかったのか、って事なんだけど……。


「いつもクラブ終わりまで待たせていたのはしょうがないよ。向こうは文化部で、運動部より早く終わるんだからさ」


 そうだよ、それも分かってるから先に帰っていいって言うのに、待っていたのは向こうだし。


「けどお前、部活出たところで美尋ちゃんが寄ってきたら、他の部員とラーメン食いに行く約束してるからって言って、帰らしたりしただろ」


 約束したんだからしょうがないだろ、美尋とは一緒に帰るのが当たり前にはなってたけど、別に約束してたわけじゃないんだから。


「約束すっぽかした事もあったでしょ」


 あれは約束していた日を一週間間違えていたんだ、日にち指定の野球観戦チケット、楽しみにしていたのは俺だし、ちゃんと埋め合わせはしたぞ。


「今年の彼女の誕生日、お前野球部の練習だからって、祝ってやらなかったんだって?」


「それこそしかたないだろ、私事で休めないじゃないか、部活は」


「いや、お祝いを別の日にして、やつてやるぐらいできただろ」


 それからもあれよあれよと駄目出しの嵐、俺がおとなしく聞いているのをいいことによ。


「つまり俺はどうすればいいんだ」

「どうするも何も、もう引導を渡されたんだろ?」


 順の野郎、言いたいこといいやがって、……本当にもうダメなのか?


「うーん、美尋って本当に間瀬くんのこと大好きだったからね。だからこそギリギリまで堪えたって思えるけど、逆に気付いて欲しいから冷たくしたとか?」


 詠美ちゃんは美尋と凄く仲がいい、その辺り何か聞いていないのか?


「あの子って、人に頼るって事ほとんどしないからね。今回のことも一人で決めちゃったみたいだし、私から聞いてもいいけど、逆効果になると思うよ」


 ああもう、結局どうしていいか分からないじゃないか。


「とにかく謝ってこいよ。何が悪いのかは、どことなく分かったんだからさ」


「ちょっと待って、謝ったからって上手くいくとは言えないよ。間瀬くんが無頓着で朴念仁だって事くらい、あの子も告白する前に分かっていただろうし、色んな事がいっぱいありすぎるけど、それでもそれで怒っているとは思えないんだけど」


 なんだろう、この二人に何かを言われるたびに落ち込んでしまう。






 そもそもあいつは、俺のなにを気に入って、付き合おうって言ってくれたんだ?


 去年は同じクラスだったけど、あまり話もした覚えがない。


 俺は野球部、あいつは被服部、文化部と運動部の交流なんて、珍しいことだし、実際一緒に何かをやったって事もない。


 接点があったとすれば、春休みにバイトした時、美尋もいたって事くらいだけど。


「どう考えてもその時くらいだよな。シフトも一緒だったこと多かったし」


 この辺りでは有名な春のイベントで、屋台でアルバイトしたんだけど。


「そういや、夜の客が結構タチ悪くて、俺ら絡まれてりしてたもんな。一緒に苦労したから、親近感が沸いたのかな?」


 告白を受けたのは新学期早々だったし、その時のことで間違いないと思うけど。


「いつかが分かったところで、何でってのは分からないよな」


 つきあい始めた頃は、結構俺もマメに色んなところへ遊びに行ったりしてたけど、あいつの「あんまり気を遣わないで」の言葉に甘えてその後は、一年の頃のように部活をメインにするようになっていた。


 それでもあいつは毎日帰りの少しの時間でも一緒にいようと待ってくれていて、そうか、それにも甘えていたんだなぁ。


 こうやって考えれば考えるほどに、あいつが俺を選んだ理由が見えてこなくなる。


「ダメだ、考えるだけ無駄だよ。ダメもとで謝りに行くしかないか」


 思い立ったが吉日、俺は自転車にまたがり、三つ町向こうの蘭場家に向かった。






 もう辺りは暗くなっている。


 晩飯食ってからにすればよかったかな、でも家の晩飯の時間を考えると、それから訪問するのは失礼かなと……。


 思いきって飛び出したけど、腹減ったなぁ。


 泣き言は後回しにして、全力でこぎ続け、彼女の家に付いたのは俺ん家の晩飯の時間。


 空腹もピークのままインターフォンを押した。


『ハイハイ、どなた?』


 インターフォンで応対してくれたのは彼女のお母さんだった。


『優作……』


 それから程なく出てきたのは美尋、俺のこと、家の人にはどう言ってるんだろう。


「ごめんな、こんな時間に、晩飯時だった?」

「うぅうん、家はもう少し早い時間に食べるから、今日はもう終わってる」


 俺を待って帰っているいつもなら、まだ食べていないはずの時間、そうか、こんなところでも彼女は俺に合わせてくれていたんだ。


「優作のところは、今時分だよね」


「多分家族は、今ちょうど晩飯食ってると思うよ」


「優作は?」


「いや、まだだけど……」


 そう言うと美尋は、一度扉を閉めて中に入ってしまった。


 なにがあったのかと戸惑っていると、直ぐにまた出てきた彼女に「入って」と招き入れられて、彼女の部屋に通された。


「家の残り物だけど」

「なんだか悪いな」


 晩飯もらうために来たんじゃないけど、これはありがたい。


 俺はがっついて、ペロリと平らげた。


「それで何しに来たの?」


 自分のベッドに腰掛けて、クッションを抱えて、一切こっちを向こうとしない美尋が本題へと導いた。

 そうだ、そっちじゃないか肝心なのは。


「いや、あのな、……今更かもしれないけど、終わりにするって言う話さ」

「うん……」


 ダメだ続きが出てこない。


「あ、あのさ、美尋にとって、俺のどこが良かったのかな?」

「そう言う持っていき方、ズルイ」


 そう、だよな……。


「でもそう言うところも、優作なんだよね」


 俺はどういう風に話を進めればいいのかを悩んでいたが、美尋は優しい微笑みを浮かべて、俺の真正面に座った。


「私はね、優作のあっさりし過ぎているところも、私のことを一つも気遣ってくれないことも、私が困っていた時助けてくれたのに、サラリと流してくれたところも、みんな好きなんだ」


 春のアルバイトの時、難癖を付けてくる客に、絡まれていた美尋をかばったことがあった。


 その後、雇い主も加わり、問題は大事にはならなかったけど、美尋はその事で怯えを抱くようになり、接客が上手くいかなくなっていた。


 人手が足りない時間帯、使えないヤツはいらないという流れになったが、俺が二人分頑張るからとオーナーに掛け合って、美尋は首を切られることだけは免れた。


「あの時心からお礼言いたかったのに、お礼ならさっき聞いたからって、軽く流してその後も普通に接してくれて、それも格好付けたとかじゃなく、素でそんなことができる人なんだって分かった時は、本当にキュンってしたんだ」


 な、何だろうこの流れは?

 一体彼女は何を言おうとしているのか?


「今回はごめんなさい。来てくれなかったらどうしようって、ずっと後悔してた」


 一体何が? 俺、置いてけぼり食らってないか?


「あの、怒らないで聞いてね。私はね、別に部活待ちしてるのも、待っていたのに帰らされたことも、休みに遊んでくれなかったことも、誕生日を祝ってもらえなかったことも気にしてないの」


 これは嘘だな、どうやって穴埋めしたものか……。


「本当は別れ話なんて考えたこともないの」


「って、言ったじゃん」


「だからごめんって。タダね、別に気にしてないって言っても、やっぱり寂しいの、相手して欲しいんだ、もっともっと」


 別れ話を切り出して、俺が受け入れたとしたら……。


 その後のことは何も考えていなかったが、でもやっぱり縒りを戻したいって言ったら、俺なら黙って許してくれるとは思っていたらしい。それは多分正しい見方だ。


 確かになぁ、言葉と本音は一緒だとは言えないもんな。俺ってそう言うところ、本当に気付かないんだもんな。


「美尋、今回のことはお互い様って事でいいかな? 調子よすぎだとも思うけど」


「うん、その方が優作らしくていいよ」


「そこで提案、俺は多分いつまで経ってもこんなだから、美尋も一切気は遣わずに、いつも本音をぶつけてくれ。俺、何言われても怒ったりしないことだけは自信あるから」


「知ってるよ、それも。でもそうだね、うん分かった。私も言いたことドンドン言うようにするね」


 用事も済んで、時間も時間だから、お茶を出してくれた美尋のお母さんにはお礼だけ言って、俺は帰ることにした。


 俺は帰り道も全力で自転車をこいだ。高揚感が足を軽くする。


 これからは俺らしくないと言われたとしても、少しは彼女のことを気遣えるようになりたい。

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