表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
21/102

第 21 夜   『恋道一直線』

語り部 : 日向雅臣ヒュウガマサオミ

お相手 : 松平杏奈マツダイラアンナ


盛立役 : 木村大悟キムラダイゴ

      寺尾桃哉テラオトウヤ

 高校に入って始めた柔道、一年の間は基礎練習を反復した。


 二年生になり黒帯を取った。


 今度の練習試合では、先鋒を任されることになっている。


「今度の試合、無様な事はできないからな」


 部のため、選抜メンバーのため、自分のため、そして……。



   第 21 夜

    『恋道一直線』


 もうすぐ大会の為のメンバー選抜を兼ねた練習試合がある。


 とりあえず、分けられた3つのチームのAチームで先鋒を勤めることになっている。


「先鋒か」


 勝ち抜き戦の一番手、勝つのが最良だが、負けるにしても相手の選手に疲労を溜めておかないと、チームに貢献できないまま終わってしまうことになる。


「とにかく無様な結果だけは避けないとな」

「本当だよ」


 基礎トレーニング中の俺の背中に言葉を投げかけてきたのは、柔道部マネージャーの松平杏奈、俺と同じ二年生。


「先鋒がどれだけ重要なポジションか分かってる?」


「分かってるよ。俺なんかを先鋒に回してくれた他のみんなのためにも、絶対結果を出すさ」


 それに試合で活躍すれば、きっとあっちも上手くいくから!


「ところでなんでいるんだ?」


 もう他の部員はみんな帰ってしまって練習しているのは俺だけ、顧問監督の先生に許可を得ているから、あと10分くらいはここを使える。


「戸締まり、先生ってば私に任せて職員室に戻っちゃったから、あんたが終わらないと私も帰れないの」


「なんだ、だったら鍵もらうよ。俺のために待たせるのも悪いし」


「ここまで待ったんだからついでだよ。そろそろ完全下校時刻だよ」


 そうだな、今日はこの辺で上がるか。


 挌技室にあるシャワーで軽く汗を流し、制服に着替えて道場に出ると、松平は戸締まりの最終チェックも終わらせて、俺のことを待ってくれていた。


 校内はもうどことも電気が消えていて、明かりがついているのは職員室と用務室だけ。


「悪かったな、遅くまで付き合わせて」


「敏腕マネージャーとしては、選手の状態も見ておかないとね。特にあんたは練習と試合で全く成果が変わるから、どうして試合になると実力発揮できなくなるのか」


 まずい! それだけは、こいつにだけは見抜かれてはいけない。


「と、とにかく今度の練習試合では、いつものような無様な事はしないからさ」


「どうだか、あんた試合の時、必要以上に力はいってるでしょ、なにを気にしてかは知らないけど、格闘技は集中力だよ」


 言われなくても解ってるって。集中しなきゃな、本当に。


「腹減ったぁ」

「本当、こんな時間まで付き合わされたんだから、なんか奢ってもらわなきゃね」


 それが狙いで待ってたな。


 でも俺も帰るまで我慢するにはちょっと腹減りすぎだし、軽くなら食っても晩飯はちゃんと食えるし。


「駅前でハンバーガー、それ以上はムリだからな」


 一応寄り道していくことを家に電話し、向かったのは駅前バーガーショップ。


 俺はハンバーガー類のセットメニューと単品でフィッシュバーガーを注文した。


「って、おい、お前四つも食べるの?」


「うん、これ夕飯だし、今日はおやつも食べてないから、これくらいは……」


「夕飯?」


「お母さん今日はお父さんのところ行ってていないの」


 そうか、お父さん単身赴任って言っていたっけ。


「妹はおばあちゃんの家に行ってるから、帰っても一人で食べることになるんだよね」


「それならそうと言えよ。最初から外で食べるつもりだったんだろ?」


 結局奢りって話はなしにしてくれたのだが、それはこういう事だったからなのだろう。


「もっと他の物の方が良かったんじゃないのか?」

「うん、別にそうでもないよ。一人でどこかに寄るより、誰かと食べた方がいいし」


 そう言う意味じゃあないって。


「もしもし、あ、母さんごめん、俺今日は外で晩飯食うわ。え、あぁいや、部活の友達が今日は一人で外食だって聞いたから、……うんうん、わりぃ、そう言うことだから」


 俺は追加のために、レジに向かった。


「席、取っておいてくれ」


 俺は追加にバーガーを3つとナゲットを手に二階に上がる。


「割と混んでるなぁ……、どこだろ? って、いたいた」


 彼女は窓際に腰掛けて、まだ何にも手を付けず、俺を待っていてくれた。


「お待たせ」

「お帰りぃ」


「なんだよ、そのノリは」

「へへっ」


 先の俺の分のトレーも運んでもらっていたので、テーブルはもういっぱいいっぱい。


 俺は後から持ってきたトレーに自分の分をまとめて、空いたトレーに重ねた。


「でも本当にこんな夕飯でよかったのか?」


「うん、私は何でもよかったから、もしかして日向くん、食べたいものとかあった?」


「俺も別に問題なし、でもそうだな選ぶんならカレーが良かったかな」


 三軒隣に馴染みのカレー屋がある、ここじゃなかったら、あそこが良かったかな。


「カレーが好きなの?」


「ああ、うんと辛いヤツね。松平は何が好きなんだ?」


「私はケーキ、生クリームのいっぱいのったヤツ、日向くんは甘いの嫌い」


「そうでもないよ、何か旨いのあるなら教えてくれよ」


 それからしばらく、お喋りをしながらの夕飯を済ませ、外に出る頃には、それなりに遅い時間になっていた。


「送ってくよ」

「ありがとう」


 仮にも柔道部だ、ボディーガードとして、ちゃんと最後まで責任を果たしましょう。






 もう今日は他校との合同練習&練習試合の日。


 今朝はいつもより少し早い時間に出てきて、道場の掃除をする。


「なぁ、雅臣よ聞いたか、木村のヤツ、松平に告白して玉砕したんだってよ」


 またか、これで柔道部員の2年生のほとんどが、断れたことになるんじゃないか?


 松平に告白したのは俺が知る限りでこれで3人目、1人目の時に松平が「柔道部に好きな人がいる」と言ったらしく、それからと言うものの、それは俺じゃあないのかって、みんなが思うようになって、アタックを試みている。

 かく言う俺も、去年から気になる存在である彼女に、想いを伝えたいと思っている。


 その切っ掛けとして、試合で結果を出したいと思っているのだが、その事が頭にある所為か、ここのところ活躍できたためしがない。


「それでよう、木村が思いきって好きなヤツが誰かを聞いたんだってよ。そしたら二年生で、現在フリーのはずのヤツだって言ったらしいよ」


 二年生の柔道部員、って俺も入ってるよな。


「もしかしたら断るための口実かもしれないけど、もしそれが本当なら、もうお前だけしか該当者がいないことになるんだよな」


「って、お前も該当者ってやつだろう?」


「いや、俺は先月告って、夢破れたから」


 いつの間に!? で、でもそうなると必然的に俺って事になるのか……、断る口実でなければ。


 まずいぞ、これはいつも以上に集中力を欠いてしまいそうだ。


 俺はこのまま試合に臨めば、散々な結果が待ちかまえていそうなので、これはもう先に結果を得なければと思い、急いで松平を捜した。


「こんなところにいたのか?」


 彼女は部室棟の柔道部のロッカー室にいた。


「日向くん、何か用?」


「あぁ、うん、うんとな……。こ、これから大事な試合なのに、不謹慎かもしれないけど、大事な試合だからこそ、その前に言っておきたいんだ」


 もし寺尾の言う通りなのなら、脈は俺にあるはず。


「ごめんなさい。私、柔道部に好きな人がいるから」

 そうか、口実の方が正解だったんだな。


 こんな事なら、試合前なんかに言うんじゃなかった。


 いや、これで良かったんだよな。


 これで試合にだけ集中できるってもんだ。


「そっか、悪かったなこんなタイミングで、できたら忘れてくれ、俺らの関係は今まで通りで、な」


 なんか心が軽くなったよ。


 そして何となく沸き上がってくる燃え上がるもの、この全てを相手選手にぶつけてやる。






 今日の俺は大活躍だった。


 先鋒だけでなく次鋒まで勝ち抜き、中堅には敗れるものの、いい試合をこなし、こちらの中堅が相手の大将までも打ち負かすという結果となった。


「おーつかれ」

「お、おう」


 ウォータークーラーで水を飲んでいた俺の元に、タオル持った松平が来てくれた。


「やっぱり日向くんは、集中さえしていれば強いんだよね」


 うちが完勝したのが、よほど嬉しいのだろう。


 満面の笑みのまま、持った団扇で扇いでくれた。


「ねぇ、私の好きな人なんだけどね」


 なんだ、完勝ムードを袖で振るうかのような、この追い打ちは。


「その人ね、いつもみんなが帰った後、一人で練習し続けていたんだよ。好きな食べ物はカレーライス、しかも激辛! 私には食べられないけど、その人は甘い物も平気だって言ってたから、今度ケーキ作って持ってこようと思うんだ」


「松平それって」


「日向くん、いつも試合の時、私のこと気にしてたでしょ。でも今日はそんなことしなかったよね。すんごく試合に集中してた」


 もしかして俺のために俺を振ったのか? で、こっちが本音だとしたら?


「今度からは私のこと忘れて、試合に臨めるよね。でなかったら、心にもないことを言って傷ついた私が、かわいそうだもんね」


「まさか松平に一本取られるとはな」


 しまったなぁ、本当はあんまり甘い物得意じゃないのに、ケーキ作ってきてくれる前に、克服できるように頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ