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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
20/102

第 20 夜   『リア友? リア彼女?』

語り部 : 三波優希ミナミユウキ

お相手 : 清水智宏シミズトモヒロ

 フリーパスチケットをもらったとかで、清水智宏が私を誘ってくれた。


「行く行く、遊園地なんて久しぶり。それもタダで遊べるなんて最高じゃない」


「それじゃあ今度の休みな」


「他には誰が来るの?」


「お前なぁ~、フリーパスチケットなんて何枚ももらえるわけないだろ。それになんで他のヤツ呼ぶんだよ。二人だよ」


「えっ、二人っきり? なんだ」


「なんだよ。不満そうに」


「いやいやウソウソ。本当に嬉しいから、気を悪くしないで」


 これは絶好のチャンスだ。


 この機会を活かして、絶対に今度こそ清水に告白するんだ。



   第 20 夜

    『リア友? リア彼女?』


 口臭チェック、よし! 忘れ物なし! 髪型、OK! コーディネートも今日のためにさんざん迷いに迷って、これなら申し分ないはず。


 極めつけに、うっすら赤いリップをさしてきた。


 完璧だよね……。


「おーす、お待たせ」

「あ、おはよー。今日はよろしくね」


 お天気にも恵まれて、朝からテンション高めの私、ハイタッチを求めたけど、これはさすがにスルー……、そりゃそうか。清水はそんなタイプじゃないもんね。


「お、今日はいつものピンクじゃなくて赤いリップにしたんだな。いいじゃん」


「へへっ、ほめられたぜ」


 こういうちょっとしたことにも、ちゃんと気付いてくれるんだよね。嬉しいなぁ。


「最初はどうする?」


「そりゃあ絶叫系でしょ!」


「優希って、本当にそう言うの好きだよな」


 あれ? 今までは三波って、名字で呼んでたのに、いや待てよ最近は名前を呼んでくれてたっけ? でもなんか嬉しいな。すんごく近くなった気分。


「ふふん、さぁ行くよ智宏くん」


 さり気なく名前で呼んで、さり気なく彼の手を取って、ドキドキしながら引っ張っていく。


 フリーチケットなんだから、遊び尽くさなきゃ損だもの。


 私はもうあっちこっちに、とりあえず絶叫マシーン制覇の為に走り回る。


「ほらこっちこっち、今度のはこの遊園地で一番レールの長いコースターなんだよ」


 この遊園地の案内は前もって検索済み、もう楽しみで楽しみで、昨日はなかなか眠れなかったけど、眠気なんてどこにもないよ。全力で遊び尽くすのだ。






「はぁー、乗ったねぇ」


「お前ずっと飛ばしすぎだよ。もう二時になるのに昼飯まだなんだぞ」


「ごめんね。でも楽しいよね。はぁ、私もお腹空いたぁ~」


 私たちは荷物を預けているロッカーまで行って、中からカバンを取り出す。


「じゃーん、今日のお弁当は私が作ったんだよ」


「おおー。スゲーじゃん! サンドイッチにサラダと、これは? ああ、デザートまであるのか」


 ううー、なんかカップルっぽい会話だなぁ。


 智宏くんはおいしそうに食べ進めて、あっと言う間に平らげてくれた。


 まだ物足りなさそうな顔をしているので、私の分もお裾分けするとそれもペロリと食べ尽くす。


「ごめん、足りなかったね」


「いや、腹は満たされてるんだけど、美味いもんは別腹だよな。いくらでも入っていくよ」


 ああ、ダメ、もうダメ、この顔が見られただけでもう幸せ。


 この幸せをずっと続けていきたい。


 やっぱり告白っきゃないでしょ。


 私は気合いを入れて、チャンスを覗う。


 絶叫マシーンじゃあ、告白って訳にもいかないよね。


 じゃあ観覧車、なんか個室で二人っきりじゃあ、緊張しすぎて失敗しちゃいそう。


 コーヒーカップって、なんかムード作りができるイメージ沸かないしなぁ。


 だいたいお天道様の元って言うのがちょっと恥ずかしい。


 人気のない少し静かで何となく薄暗いところ。


「あれ、入ろう、ね!」


 あそこならと選んだアトラクション。


「お、おいあれって、お前本当に!?」


 入って三十秒、私は後悔した。


 そうだった。私お化け屋敷が大の苦手だったんだ。


 なんて、これは計算の上での行動だったんだけど、やっぱり苦手な物は、苦手以外の他ならぬ物にはなりませんでした。


 恐いところなら冷静さを失い、普段なら恥ずかしくってできない告白もできちゃうんじゃないかって、浅はかすぎました。


「大丈夫か、出口まで耳塞いで目閉じてろよ。俺が誘導してやるから」


 お言葉に甘えて、私は両手で耳を塞いで目をつぶった。


 腰に手が回される。智宏くんは腕で抱え込むようにして、私の進路を示してくれる。


 智宏くんの体温かい。私も腕を彼に絡ませてしまいたくなるけど、塞いだ耳から手が外せない。


 恐怖と幸福の狭間で、私は早く終わって欲しいけど、ずっと続いて欲しい矛盾に板挟みにされました。


 お陰でかなり疲労がたまり、無事お化け屋敷から出ると、近くのベンチで項垂れてしまって。


「本当に大丈夫か? ああいうの無茶苦茶苦手なくせにビックリしたぞ」


 智宏くんはそう言うと、隣に座って手を握ってくれた。

 ああ、なんかしあわせぇ~。


 それから暫く、復活に時間がかかったけど、どうにか今日中に告白したい。


 私はあれでもないこれでもない、あそこでもないここでもないと、一生懸命タイミングを探るんだけど、尽く失敗。


 気ばかり焦り、動転してしまい、気付いたらもうすぐ閉園の時間。


「何かお前、お化け屋敷入ってからおかしいぞ。ちょっとゆっくり落ち着いたほうがいいな」


 そう言って彼がチョイスしたのは大観覧車。

 少しベタで、やっぱり緊張しそうだけど、もうそこしかない。


「た、楽しかったね。今日一日」


 ダメダメ、意識しちゃダメだって。


「本当にどうした? 午前中はハイテンションで、メシの後からはハチャメチャで、なんか心配になってきたけど」


 あうぅ、ダメだな私、一人で舞い上がって迷惑かけて、あげくに心配までされて。


「言ってみ」


「……、ねぇ、私と一緒にいて楽しい?」


「えっ? そりゃあ、まぁ……」


「私が今日みたいに迷惑かけても腹立ったりしない?」


「今日みたいにって、何か迷惑かけたのか? 俺には分からなかったんだが」


 智宏くんは本当に私に気を遣ったりしてない? 言いたいことあるのに我慢してない? そんなこと考えるヤツじゃないことは知っているけど、何から何まで気になってしまう。


「私今日こそはって、気合い入れて来たんだけど、どうにも空回りしちゃって……」


「気合い入れて? ってまさか!?」


「私、あなたともっと仲良くなりたい。今日みたいにもっと二人で色んな事したいの」


 言えた。シミュレーションしたシチュエーションとは違ったけど、今の内容ならきっと伝わっているはず。


「はい?」

 あれ?


「いや待てよ。俺はこの流れからまさか、付き合いだしたばかりで、もう別れ話でもしようとしているのかと……」


 ほえっ? 付き合いだしたばかり? 別れ話?


「いったい何の……」


「って、そう言えばお前誘った時もおかしなこと言ってたな。みんなで行くのか、二人なのかとか……、もしかしてお前、先月教室で俺から告白した事、覚えていないとか……」


 なに、先月教室で? 告白って?

「先月って、放課後二人になった時の?」


 智宏くんに話があるからと呼び止められて、みんなが帰った後二人になったことは覚えてる。


 その後、しばらく雑談して、で急に智宏くんが真剣な顔になって、……ダメだ、その後のことが思い出せない。


 もの凄く衝撃的な事を言われた気がするけど。


「そう言うことだったんだな。……じゃあ俺の彼女になってくれるって言ったのも覚えてないんだよな」


 私はなんて勿体ないことを! きっとあまりの幸せ発言に、混乱したに違いない。

 なんて勿体ないことを!!


「そんじゃあ、改めて言うぞ。……俺の彼女になってください、俺と付き合ってください」


「あ、なんかデジャヴー」


「いや、既視感じゃなく、実際あったことだから」


 そうか、それで最近二人で出かける機会が多かったのか。


「さっき言ってくれたこと、本気にしてもいいんだよな。あの放課後でのOK、もらったことにしていいんだよな」


 私はアカベコのように首を縦に振り続けた。

 ホッした表情の彼を見て、つい笑ってしまった。


「ホント、ひどいヤツだな」


「ごめんごめん、ありがとう智宏くん」


 観覧車は頂点に達する。真っ赤に燃え夕日が、私の心を穏やかに照らしてくれた。

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