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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
14/102

第 14 夜   『心の隙間』

語り部 : 鮎沢咲羅アユサワサクラ

お相手 : 谷口隆也タニグチタカヤ


盛立役 : 新沼雄ニイヌマユウ

      荒川アラカワミンク(くんちゃん)

「タカちゃん帰ろう」


「咲羅か? わりぃ、今日は京子ちゃんとお茶して帰るから先帰っててぇ」


「うん、分かった……」


 今日も一人かぁ。



   第 14 夜

    『心の隙間』


 お昼ご飯を食べ終わり、お弁当箱をカバンに入れたところで、タカちゃんが教室に入ってきた。


「えぇー、もう弁当食べ終わったの? しょうがないパンでも買いに行くか、今からじゃああんまりいいのは残ってないだろうけど」


 タカちゃんのクラスは4限目体育だったっけ、それにしても授業の後、どこに寄り道してたらこんな時間になるの? お昼休みあと10分じゃん。


 てか、今の口調だと、私のお弁当を狙ってたのか?


「タカちゃんのお弁当もあるよ。おばさんが渡してくれたの、タカちゃんお弁当忘れて行ったって」


 朝、いつものように迎えに行ったら、既に家を出た後だった。


 各休み時間にも、タカちゃんのクラスを覗きに行ったけど、ずっといないまま。


「もしかして今登校したの?」


 大急ぎでお弁当をかき込むタカちゃんに、お茶を出してあげて、もしかしたらと思って聞いてみた。


「ああ、用事があるからって、学校に電話入れて、午前中抜けたんだ」


 タカちゃんがそんなに早起きまでして、行くところって?


「もしかして何かの発売日?」


「そうそう、メーカーSHOPオンリーの限定商品で、今朝5時に出て行ったんだけど、買えなかったぁ」


 なるほど、お弁当は忘れたのじゃなくて、まだできる前に出て行ってしまっていたのか。


「行き先、おばさんにだけでも言っておいた方がいいよ。心配してたし」


「朝飯も抜いたからなぁ。ふぅ、落ち着いたぁ」


「今日も誰かと約束してる?」


「いいや、今日は予定なし」


「そう、じゃあ放課後、教室まで迎えに行くね」


「おう!」


 食べ終わったお弁当箱を持たずに立ち上がり走り去った。タカちゃん、これ私が持って帰るの?


「咲羅ぁ、谷口のヤツ、一回シメた方がいいんじゃない。日に日に増長してない?」


「くんちゃん、そうでもないと思うよ。あれでタカちゃんもちゃんと私のこと大事にしてくれるし」


「でもだからって、あんな浮気癖の強いヤツ、私だったら絞首刑ものだね」


 そこまで言わなくてもいいのに。


「浮気癖って、別に私たちつき合ったりしてないし、だから浮気も何もないよ」


 私とタカちゃんはずっとご近所さんで、生まれた時から一緒に育ってきたみたいなもんだから、自然に一緒にいる時間が増えただけだし。


「私があいつの立場なら、咲羅を目一杯かわいがるのになぁ。こんなに可愛い子が側にいて、あいつは何が不服なんだ」


 可愛いって言うのは、私の身長のことだろうか? 147センチメートルしかないから。


 186センチあるタカちゃんからしたら、まるっきり子供なんだろうな。


 人気者のタカちゃんが、いろんな女の子に誘われるのも無理からぬものだし、くんちゃんが言うところの不服ってのも、いろいろ心当たりがあるってもんだよ。






 放課後、タカちゃんのクラスまでやってきた。


「あれ、いないや。……あのー、谷口隆也くんどこ行ったか知りませんか?」


「谷口? さてどこ行ったっけ、誰か知ってるか?」


 クラスの男の子に声を掛けて聞いてみたんだけど、誰もタカちゃんの行き先を知らないようだった。


「君、鮎沢咲羅さん? 谷口探してるんだよね」


 外から入ってきた男の子が、私を見て寄ってきてくれた。


 タカちゃんの事を知っているみたいだ。


「あいつ、C組の千堂さんと帰ることになったから、君のこと見かけたら言っておいて。って言われてさ」


 今日もかぁ~。


 正直言えば、もっと構って欲しい。


 いつも一緒で、何をするにも一緒だったから、一人だと何をすればいいのかが分からない。


「帰りに本屋さんにでも寄ろうかな」


 正門に向かう。あちこちからクラブ活動の、活気づいた声が飛び交っている。


 私もいまからでも、どこかのクラブに入ろうかな。


「鮎沢さん」


「はい?」


 ボーッと考え事をしながら歩いている私に、誰かが声を掛けてきた。

 この人って、先輩だよね。えーっと、誰だっけ?


「俺、2年B組の新沼って言うんだけど」


 新沼先輩? ああ、吹奏楽部の。

 春の体育祭でブラスバンド演奏の最前列にいた。クラブ紹介でMCをしていた人だ。


「突然呼び止めてごめん」

「ああ、いえいえ」


 なんの用だろう? 声を掛けられたのはいいけど、その後の言葉が続かない。


「どうかされました?」

「いや、あの、これ読んで」


 手紙?


「それじゃあ、また」


 あ、行っちゃった。何だったんだろう?


 これを読めって言ってたな。


「これって、……ラブレター?」


 内容から言って、間違いないだろうな。誰宛だろうってのは、呆けすぎだよね。

 こんなのもらったの初めてだぁ~。






「どう見てもラブレターだね」


 どうすればいいのか分からなくて、くんちゃんに受け取った手紙を見てもらった。


 やっぱり誰の目から見てもラブレターか。


「ど、ど、ど、どうしよう?」


「どうしようもなにも、咲羅は一応フリーなんだし、いいんじゃない? たまには他の男と遊ぶのも」


 そんな無責任な。


 他の男の子と二人っきりで何かするなんて、想像もつかないよ。


 返事は急がなくてもいい。って書いてくれているから、暫く考えることにしたけど、いくら考えても答えが出せない。


「タカちゃんに聞いてみようかな」


「谷口にはまだ言ってないんだ」


「言わなきゃダメかな?」


「ダメって事はないでしょ、あいつだって好き勝手してるんだし、第一あんた達つき合ってる訳じゃないんでしょ?」


 ああそうか、答えが出せないんなら、タカちゃんみたいにするのもありかな?


「くんちゃん、私先輩のところ行ってくる。もしタカちゃんが来たら、直ぐ戻るからって言っておいて」


 とにかくやってみよう。そうすれば何か見えてくるはずだよね。






 一昨日、新沼先輩のところに行って返事をし、教室に戻るとみっちゃんから「谷口に説明したら、なんか知らないけど慌てて飛び出して行っちゃった」と言われた。


 昨日もタカちゃんの顔を見ていない。


 校内にはいるみたいだったけど、目撃情報はもういろいろすぎて、私は捕まえることができなかった。


 今日も放課後まで彼の姿を見ていない。


 もしかして避けられているのかな?


 彼の教室を覗いてもやっぱりいない。


 諦めて帰ろうかとした時だった。


「咲羅!」

「タカちゃん」


 なんだか汗だくになって、いつもきれいにセットしてる髪も乱れて、シャツも、ってこれはいつもだらしなく着てたっけ。


「どうかした?」


「お前、二年の新沼ってのにラブレターもらったんだって?」


「ああ、うん、そう」


 その事を話そうと思っていたのに、タカちゃんどこにもいなかったんだもん。


「返事したんだろ?」


「うん、なかなか答え出せなかったんだけど、タカちゃんみたいにしてみるのもいいかなとか考……」


「俺! 他の女の子と遊ぶのやめるから」


「えっ?」


 私の言葉の上から被さった大きな声、何言ってんだろう?


「もっとお前のこと大事にするから」


「タカちゃん?」


「俺はこんなだけど、やっぱお前がいないとダメだわ。この先はどうか分かんないけど、今は」


「あのね、タカちゃん、タカちゃんみたいにって考えたみたんだけど、そんなのやっぱり出来そうもないし、新沼先輩にはお断りの返事をしたの。私はあまり構ってもらえなくても、タカちゃん以外の男の人と何かするって、なんか想像付かないの。この先はどうか分かんないけど、今は……」


 よく見たら引っかき傷や叩かれた手形、噛まれた跡みたいのも付いている。


「それ、女の子達に?」


「え、えーっと、ははっ、格好悪いな俺」


「そんなことないよ。けどそうだなぁ、今度タカちゃんが他の子と遊んでたら、私も引っ掻いてみようかな」


「お、おい、勘弁してくれよ。これからはもっとマジメにするからさ」


 ふふ、だってもう想像しちゃったから、私だけを大切にしてくれるタカちゃんを。


「ねぇ、これって男女交際の申し込み、なのかな?」


「ああ……、そ、そんなの言わなくても、空気読めるだろ?」


「えぇー、だって、ちゃんとタカちゃんの言葉で聞きたいじゃない?」


「勘弁しろよ。……これって引っぱたかれるよりキツイよな」


 ふふっ、この後、目一杯照れながらも、ちゃんと言葉にしてくれた。


 これからは昔みたいに、いっぱいいっぱい一緒に遊ぶんだ。楽しみだなぁ。

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