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バクズ ♪ ストーリー  作者: Penjamin名島
恋愛百物語
100/102

第100夜   『駆け落ち、その効果は?』

語り部 : 西口羅奈ニシグチラナ

お相手 : 秋吉洋真アキヨシヨウマ


盛立役 : 蔵田貴利クラタタカトシ

      西口綱義ニシグチツナヨシ

 駆け落ちなんてしたって誰も幸せになれないけれど、あの時の私は、それでしか二人は幸せになれないと思っていた。



   第100夜

    『駆け落ち、その効果は?』


 交際期間2年、特に大きなケンカもなく、順風満帆な恋愛関係。


 このまま高校を卒業して、その後の進路次第ではどうなるか分からないけど、当分は一緒にいることは間違いないはず。


 そう思っていたのに、その事件は起こった。


「ねぇ、いいでしょ? 私となら駆け落ちしてくれるよね」


「その前になんで、駆け落ちすることになるのかの説明を頼む」


 中学生の時からの仲で、高校1年生になった今も大好きな彼、秋吉洋真くん。


 彼とずっといたくて、自分の学習能力以上の学校にも、頑張って合格した。


 頑張って頑張って、一緒にいられるようになったのに、転校なんてあり得ない。


「へぇ、おじさんが転勤になるのか」


「それでお母さんも弟も、喜んでOKしちゃって」


 このままじゃあ、なし崩しに引っ越しになっちゃう。


「単身赴任でも、してくれればよかったのに」


「ダメだろ。そんなこと言っちゃあ」


「だって、せっかく頑張って有名な進学校に入ったんだよ。……ついていくの大変だけど」


「うーん、確かになぁ、せっかくって言うことはあるかな」


「でしょう、だからどうにか引っ越さなくていいようにしたいのよ」


「それで駆け落ちかよ? ちゃんと自分の気持ち話してみた? 羅奈って、肝心なところで一歩引くからね」


「言ったもん、ここに残りたいって。だけどあんた一人で家事とか出来るのって言われて、お母さん達はもう行っちゃう気になってる」


 正直一人暮らしなんて自信はない。


 でもいずれはお嫁さんにもなりたいし、これはいい機会であるとも思う。


「一人暮らしするって事か?」


「今のところ、それもOKはもらえてないけどね」


 きっと私が今まで家事を手伝おうとしてこなかったことが、心配の元となっているんだろうけど、やってみたらどうにかなる気もするんだけどなぁ。


「そうか、こっちに残る方法が見つからなくて、それで駆け落ちか」


「そうそう」


「でも駆け落ちしたら、俺達学校に行けなくなるぜ」


 そこなんだよね。


 もし行けたとしても、生活に追われて勉強できなくなったら、私なんて直ぐに落ちこぼれになっちゃうだろうな。


「引っ越す先ってそんなに遠いの? なんだったら多少会いにくくなってもさぁ」


「毎日会っていたいから、頑張ったんだもん」


「そうかもしれないけどさぁ、……いや待てよ、本当に駆け落ちしてみるか?」


「えっ? どういう事?」


「いや、本当にっていうか、駆け落ちしてみせるんだよ。羅奈の本気ってヤツを見せるんだ」


 なるほど、駆け落ちって言うか家出だね。


 それも私だけだと信憑性に欠けるから、洋ちゃんが協力してくれると。


「まぁ、無茶苦茶怒られるだろうけど、俺も出来ることなら、一緒にいたいし」


「洋ちゃん……」


 私は抱きついてキスをした。


 なんだかとっても嬉しかったから。






 決行は早いほうがいい。


 本気の度合いを知らしめるためにも、学校も休んでしまう方がいい。


 だけど極力は休まない方がいいから、その決行日は土曜日の深夜、なるべく人目に付くルートで移動する。


 直ぐに探し出してもらえるように、書き置きは食卓の上に置いてきた。


「俺達は二人とも携帯を持ってるからな。GPSを使えば直ぐに見つけてもらえるはずだ」


 みんなが寝静まった頃、私達は家を抜け出して、近くの公園で落ち合った。


「先ずは駅だな。とりあえずそこでどの方角に行くか決めるか」


 私達は駅まで行った。


 向かう方角は直ぐに決まった。北だ。


 始発まではまだ時間がたっぷりあるので、NETカフェで一夜を明かすことにした。


「ここなら人目に付きやすいし、監視カメラなんかで、記録も残るだろうからな」


「洋ちゃんって、頼りになるよね」


「そうか? サンキューな。だけど役に立たないと意味がない。この計画、成功させないとな」


 始発が走り出す時間までそこで待って、駆け落ち開始。


 直ぐに捕まるにしても、信憑性がないと行けない。


 私達はとにかく行けるところまで行くことにした。


「終点の二つ前で、別の沿線に乗り換える。そこから新幹線のある、ここ! この駅まで行く」


「新幹線に乗るの?」


「さすがにそこまでしちゃうとすぐには捕まえてもらいにくくなる。新幹線のチケットセンターで、腰掛けて時間を潰すんだ」


 始発電車に他のお客はいなかった。


 数駅過ぎると段々と増えてくるけど、やっぱり大した数にはならない。


 私達は無言のまま電車に揺られた。


 実のところ私は不安でいっぱいだった。


 本当にこの計画で、全ては上手くいくのだろうか?


 一人で考えていると本当に不安になる。


 私は彼の肩に頭を擡げた。


 洋ちゃんは私の肩に、そっと手を当ててくれた。






 乗り換えの駅に着き、私達は直ぐには移動せずベンチに腰掛けた。


「あっ、携帯……」


「出た方がいいよ。話してみな」


 言われるままに通話ボタンを押す。


『ちょっと、あなたこれはどういう事? 駆け落ちなんて!?』


 興奮気味のお母さんの声、私はどう説明すればいいのか分からず、黙ったまま。


 洋ちゃんが見かねて私の電話をとった。いくらか受け答えをする。


 電話を切った洋ちゃんが、携帯を返してくれる。


「とにかく迎えに行くからそこにいろって、話し合おうってさ」


「話し合ってって、私を説得しようって事?」


「今のところイニシアティブはこちらにある。だけどこちらの本気度を見せつけるためにも、もう少し移動していよう」


 当初の目的通りに、新幹線のあるところまで移動する。


「雨……」


 窓の向こう、どんよりとした雲と、窓を濡らす大粒の雨。


 日曜日でもこの時間になると、お客さんの数も増えてくる。


 大荷物を抱えた二人の男女、皆一応に不審な目で見てくる。


 なんだか段々と自分たちの行動が無意味に思えてきた。


「ねぇ、洋ちゃん……、帰ろうっか」


「……いいのか? 今帰ったら中途半端で、きっと本気だって認めてくれないぞ」


「私、もっと真剣に話し合うよ。ちゃんと分かってもらうようにする」

「そうか……」


 私達は次の駅で降りて、元来た道を戻っていく。


 お母さんと電話で話した駅まで着き、そこで再びベンチに腰掛けて、家族の到着を待つ。


 私は緊張していた。


 私のことではなく、洋ちゃんのことが気になった。


 ウチの両親はきっと洋ちゃんのことを責めるだろう。


 ちょっと考えたら分かることだ。


 洋ちゃんは大丈夫って言ってくれるけど、いざ車で駆けつけた両親が着いて、二人の姿を見たら、本当に恐くなってきた。


 両親の隣には洋ちゃんのお兄さんの姿。


 そっか、駆け落ちしてきたんだから、洋ちゃんのご家族もウチと同じように心配しているよね。


「羅奈!」


 お父さんの大きな声、私は思わず洋ちゃんの背中に隠れた。


「君が洋真くんか? ちょっと話を聞かせてもらおうか」


「お父さん洋ちゃんは悪くな……」


「お前は黙ってなさい」


「黙ってらんないよ。だってこれは私が決めたことなんだもん」


「羅奈、いいから」


「洋ちゃん?」


 お父さんにくってかかる私を抑えて、洋ちゃんはお父さんと少し離れた場所に。


「羅奈」

「お母さん」


「あの子、いい子ね。あなたの為にここまでしてくれるなんて」


 そう、全ては私のためなんだ。


「あなた達、駆け落ちなんて、本気じゃあなかったんでしょ?」

「えっ?」


「実はね、もう全部知ってるの」

「それってどういう……?」


 実は洋ちゃんは全てをお兄さんに話してあった。


 そのお兄さんから説明を受けたというのだけれど、それじゃあこの計画は最初から、意味なんてなかったってこと?


「意味は合ったわ。少なくともあなたが本気なのだって事が分かった。私達にあなたの本気の覚悟を教えてくれたわ。あの子、頭いいのね」


 私に黙って根回しをしてくれていた。


 後に凝りが残らないように。


「それじゃあ、全部知ってるのに、なんでお父さん洋ちゃんに食ってかかっていくの?」


「あれは責めてる訳じゃあないわ。お礼を言ってるの。あなたがいると恥ずかしいから、少し離れて」


 そんな面倒なことを……、父親の威厳ってやつかな? 気にしてるのは。


「ところで私の本気を解ってくれたって事は?」


「それについてはあなたの早とちりよ」


「どういう事? まさかお父さんの転勤って本当じゃなかったの?」


「いいえ、本当よ。そして私と綱義はそれに付いていくわ」


「じゃあ……」


「いとこの貴利くん、覚えてる?」


「去年の夏に結婚した?」


「そう、彼にね、家に住んでもらうことにしたの、そこでマイホーム資金を貯めてもらいながら、いずれ戻ってくる私達に代わって、家を守って貰うの」


 そこに私の部屋だけ残して、一緒に住まわせてもらうと言うことだ。


「条件として、あなたがちゃんと勉強できる環境を整えてくれるようにお願いしたの。だけどちゃんと家事のお手伝いするのよ」


 つまり全ては取り越し苦労だった。


 お父さん達はちゃんと私の気持ちをくんで、セッティングしてくれていたんだ。


「それでもこれであなたの本気を知ることが出来た。覚悟があるのなら上手くやりなさい。家事も勉強も、そして恋も」


 お父さん達が帰ってきた。


 二人とも満面の笑みだ。


 この翌週、二つの家族の引っ越しがあり、私の新生活はスタートするのだった。

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