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八王子租界  作者: 海沢海綿
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0.今の八王子市と私について

 八王子が異界と繋がって、かれこれもう三十年である。


 これまでも小さい規模ではちょくちょく繋がっていて、向こうの何かがこっちへと赴いたり定住したり、反対にこっちの何かが向こうへと赴いたり定住したりはしていたが、これ程、大規模なものは後にも先にもこれが初めてである。


 八王子駅前に現れた『裂け目』と称する、異界と繋がる道。それは今までのように不安定なものではなく、常時開いた穴であった。

 開いた当初は大変だった。フィクションの中にしかいなかったあれそれが実態を持って、溢れてきたのだ。ましてや、魔法のようなものまで流れ込んでくる。もちろん、混乱したのは『裂け目』の向こう側から来た方も同じである。いかんせん、言葉が通じない、見たこともない景色が広がっている、空気が悪いの三拍子だ、暴れるなという方が酷な話だろう。特に獰猛な種族なんかは、大変だった。


 その後、なんだかんだあって、『裂け目』の向こう、ゼロキア共和国と国連との間で、まぁ仲良くやってきましょう協定が結ばれるのに十年は有した。とはいえ、大々的に闊歩されてもお互い不利益だというので、一つ租界を作ろうと、まぁ、そうなったわけだ。実験都市と言ってもいいし、隔離都市と言ってもいい。幸い、ゼロキア共和国の全国民、言い換えれば、向こう側の住民なんていうのは全種族合わせても百万人にも満たず、全員が全員、こちらに来ているわけでもない。なら、一都市の中で、上手くやっていけるかというのを様子見しようじゃないか、そんな話になったわけで。

 そして、ここに八王子租界が爆誕したわけである。


 そこまではよかった。別段よかったんだが。

 私のように、なんだかんだあって、昔からこちら側にいる連中が目をつけられてしまった。誰に。政府にである。要はどっちの風習も習慣も生態も分かっているんだから、相談に乗ってやれ、金は出さないけど。そういう話である。いつだって、この国は労働者に金を出そうとしない。とはいえ、今まで隠し隠し生きていたので、大ぴっらに街を歩けるのはありがたい話ではあるのだけれど。何せ、室町幕府がお亡くなりになった辺りから、山だの森だので住んでいたのだ。風呂トイレ別のアパートを借りられるようになったのはいい事である。向こうとこちらを行ったり来たりしなくてもいいのだし。ああ、そう。実は私は、とある事情で死ねないのだ。行ったり来たりしておかないと、その、肩身が狭いのである。女一人生きていくのは、骨身に応える。応えたことないけど。幸い、向こうとこちら、両方の学を修められているというのは、強味ではあるのだが。


 まぁ、これはそんな私の日記のようなものである。


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