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はにかみお姉さんはティッシュを配る

 世界ってもんはどうしよーもなく残酷だな。

 俺がそんなことを思い始めてから、早くも15年が経過していた。なんて、そこまで言うと俺が歳いった中年のジジイみたいに聞こえるかもしれねーが違う。生まれたときからずーーっとこの方そう思い続けてきた、つもりだが。

 もちろん実際は違うさ、なんせ赤ちゃんは喋れねーもんだからな。喋れないし、話せない。


 俺が言語っちゅーもんを理解したのはこの世にこの身を爆誕させてから数年が経過した辺りなのだが、その頃の俺はどうしよーもなく幼稚だったように思う。

 つらつらと言葉を頭の中に書き溜め、溜め続け、濁った言葉の塊を放出するでもなく、何処かに書き留めるでもなく、ただただふつーに生活をする。人間として、子供としてね。


 まぁ冒頭に言ったことは俺が三歳の頃に思ったことであり、つまり俺は18ってことになるわけなんだが、こういうことをぐだぐだ口から放出――話している間にも、俺は19になり、ハタチになり、やがて社会人としてどうしよーもなく生きてくんだと思う。


 ――それってつまんなくねぇ?


 子供の頃の方が楽しかったって、よく大人は言う。

 高校生の俺でもわかるさ、そんなこと。青春時代に勝る就活時代なし。何いってんのかよくわからんのはスルーしてほしい。

 まぁさ、だってあの頃――あの時代の俺の頭の中には、なんでもあったから。


 幽霊も、神様も、ヒーローも、人造人間も、仮想空間も、タイムトラベルも――ぜんぶぜーんぶが目の前にあった。手で触れられた。何故かと言えば、信じていたからだ。


 もちろん、サンタクロースもいたよ、目の前に。

 今は信じてないが。信じれないんだが。



 ***



 ――サンタクロースなんていない。

 三歳の誕生日に俺はそう、自分の親から告げられた。

 サンタクロースの存在を、夢と希望を運んできてくれるすっごく不思議で、面白くて、わくわくして、どきどきして、そうさせてくれる憧れのものだと認知した――数日後のことだった。


「――サンタクロースはいないんだよ? そんなもの信じてる暇あったら、ちゃんと今から勉強して私立の中学にいけるよう努力なさい。友達は、蹴散らすものだからね」


 そう言われてより約十年後、俺が公立の極ふつーの中学に入学したのは言うまでもないわな。

 三歳っちゅーどうしよーもねーくらいの歳から、夢と希望は実の親によってぶっ飛ばされたわけだ。サンタ存在ナッシング宣言の翌年から、俺のクリスマスプレゼントが教材一等辺になったことも、言うまでもあるまい。


 そんなことがあったらふつーは親を恨んでもいいはずだろ、どうして反抗しなかったんだ、とは、友達だったり親戚だったり先生だったり、そーいう面々から幾度となく投げ掛けられた言葉――放出された言葉なのだが、別にそこまでだから、としか答えたことがない。


 考えてみりゃわかるだろう。普通のことだと信じ込んでるなら、それを否定されたところで理解なんてできない。

 日本にいるみんなはよくわかんねーかもだが、ご飯がふつーに食えるってのはありがたいことなのさ。俺にはよーくわかる。だって三歳の頃に経験してんだもん。友達からクリスマスプレゼントを貰った罰として、一週間の飯抜きは当たり前。無断外泊したときなんか、一回しこたま殴られたな。まぁそれは他の家でもそうかな?

 まるで親に洗脳されてたみてーだな、笑えるぜ。ふふふ。


「あのー、よろしければ、これー……どうぞー…………」


 そんなこんなで。

 俺はクリスマスの思い出に胸を染めながら、ギラギラとネオンが輝く市街地でお散歩ショータイムしていたのだが、目線の下にちらりとネックウォーマーが映る、その上らへん、つまりは真っ直ぐ世界を見た先に、肩に大きめの袋を担いだ、ティッシュ配りのお姉さんがいた。

 しかも、よりによってサンタコスプレである。ふむ……。


「かわいらしーじゃないですか。メリークリスマス」


「あっ……どうもー……」


 売れたティッシュが少いのか、どこか上の空といった感じのお姉さん――よく見たら同じくらいの背か?――に声をかけた。

 ふわふわのサンタ帽の隙間から、栗色のウェーブがかった髪がちらりと覗いている。目を見ると、ちょっと苦笑しつつ、はにかみんでくれた。

 どうやらお姉さんは不本意だったようだが、サンタの衣装のまま返事を返してはくれた。

 親と違って、曲がりなりにもクリスマスを肯定してくれるのだから、この人はいい人なんだろう。


「あの……よろしければ、受け取ってください! これが売れないと、友達にクリスマスプレゼントを買ってあげれないんです……!」


「なるほど」


 俺は素直に納得、しておくことにした。

 なるほどなるほど、友達に贈る思い出の品を購入するために、こんな寒空、ネオンサインの元、サンタコス(ミニスカートで、これだとまるでキャバ嬢みてーだ)をしてティッシュ配りのバイトとな。

 サンタクロースよろしく、これじゃあマッチ売りの少女だ。


「なるほど…………」


「はいぃ…………」


「……うん、20個ほど頂けます?」


「っ……!」


 顔に書いてあるくらいに目をぱーーーっと輝かせて、お姉さんはいそいそとティッシュの数を数え始める。

 もちろん俺も、ティッシュの受取人の数とか、ティッシュが人に渡った量とかが給料に直結するわけではないことくらい理解している。おそらく時給なんだろうが、このお姉さんは……?

 まぁ、それとは関わらず、こういう人はわりと助けたくなっちまう。人によるだろうが。もしかして親によって変わるのかもな。いや、俺の場合親はかんけーねーが。


「はい、20個ほど、です……!」


「どーも」


 行きゆく人を遠目に観察していると、いつの間にかお姉さんの両手一杯に満たされたティッシュが目の前――目の下、体の真下辺りにボトボトと落ちた。

 ん、落ちた? どうやらお姉さんは、手で渡すよりもこの方が受け取りやすいだろう、みたいに考えて人に渡すティッシュをコンクリートの地面にぶん投げたらしい。

 なるほど、だいぶとエキセントリックだ。可愛らしい。


「ふぃー……」


 凍え気味の手先でそれをさっさっと持っていたショルダーバッグに入れる。広告の内容は、なになに――聖なる夜に性なる戯れを――って!!

 こ、これは……本気でキャバクラの広告じゃねーか。吹いたわばかやろー。

 どしたのお姉さん。悩みなら聞きたいけど、迂闊に他人の世界に干渉するのは気が引けるな……。


「あ、その広告の内容は気にしないでくださいね! 自分はただのアルバイトなので……その、まぁ、事情ありけりでして……えへへ」


「……」


 そのようだった。

 一応貰った数を数えてみると、お姉さんの清楚さに合わせてきっちり20個――なんて可能性はどっかに消え、代わりにショルダーバッグに突っ込んだポケットキャバクラティッシュの数はゆうに30を越えていた。どんだけ売りたいねんおどれ。

 やれやれ、バッグの中の荷物――プレゼントを昨日のうちに使っておいてよかったよかった。なんせ昨日は『クリスマス』だったからな。


「……」


「……? どうしたんですか? 見つめられるとなんだか、今になってコスプレの恥ずかしさがじわじわきます……」


「あ、いえ……すみません」


「そ、そうだ! 何かお力になれることはありませんか? 自分、こう見えて意外と体力ならあるんですよ! 肉体労働は慣れてますから!」


「今までに何があったんですか。すみません、ほんとそういうのは望んでねーです」


「じゃあ何をお望みですか? わりとなんでもやりますよ」


「ならもうちょっとコスプレ眺めさせてください」


「冗談がお好きなんですね。クリスマスの醍醐味でもありますからね、コスプレ。えへへ……」


 ……うん。これを聞いてくれてるあなたも、察しはついたんじゃないだろうか。

 俺はさっきから疑問に思っていたことを、もうこれを逃すと言う機会をなくすだろうと、単刀直入に伝えることにした。


「あの……一応言っときますけど」


「は、はい? あと40個ほど追加できますが」


「違う違う。あの、今日、クリスマスじゃないですよ」


「えー? そんなわけないじゃないですかぁ。だってまだまだ始まったばかりですよ、何時だと思ってるんです! まだ夜の7時じゃないですか!」


 もうそろそろ日付変わりそうなんですが、それは。

 えっと、大丈夫なのかなこの人。

 これじゃあとんだ遅れんぼうのサンタクロースだなと思っていたが、思っていたより状況がやばかった。

 どうやらこのお姉さんは――昨日に何か、あったらしい。

 はぁ…………まったく。世知辛いなぁ。


「今日は12月26日、そろそろ時刻は午前になります。大丈夫ですか?」


「え? 今日は25日ですよ? あなたの方こそ、どうかしちゃったんですか? まだまだティッシュありますよ?」


「えぇ……?」


「受け取ってください! はい!」


「えぇ…………?」


 さらに100個は余裕で越えるだろう量のティッシュがコンクリートに積まれる。おい、40個なんて比じゃねーだろ、これ。20個要求した俺もなかなかだとは思うが……いくらなんでもって感じである。


「えへへ……」


 照れくさそうにはにかむお姉さんは、どう話しかけても埒が空かない。なんだか、さっき見た時よりも頬が赤くなってる気がする。サンタコスで照れているわけじゃないだろう。多分、そろそろ本気でやばい。

 この憐れなサンタさんは今日をクリスマス当日だと信じて、信じ込んで疑っていないようだが……しかたない。

 何かあったらいけないし、もう少し付き合ってみようか。コスプレも拝めるしな。


「すみません、俺は暇ではあるんですが……そこまで大量の塵紙を収納できるほど、このバッグは四次元ポケットじゃないんです」


「どうでもいいんですけど、自分、ドラえもんの秘密道具、あるじゃないですか。その全部が未来で実現するって、信じてるんですよ」


「すっごい話飛びましたね」


「あ……ご、ごめんなさい、寒いですよね、こんなとこで引き留めて。ドラえもん好きなんです、自分……あと、お話してくれたのが、嬉しくって……えへへ」


 よくはにかむ人だなと、俺は思った。

 かわいいが、その背景にある事情っつーか、昨日あった何かを思うと、その笑顔が途端に悲しげに見えるから不思議だ。なんだかさっきから思っていたが、体の調子も悪そうである。

 事情というものに、興味はある。だが、聞いても自覚していないだろうし、聞く権利もない。

 ある意味現在、お姉さんは独りぼっちだ。

 孤高のティッシュ配りである。響きだけはカッコいい。


「とりあえず、寒いでしょうし……あの、シフトが終わってるなら、もう帰った方がいいですよ。見てるだけで寒そうなそのミニスカートは、俺には目の毒です。中毒になります」


「ほらほら~」


「迂闊に中身を見せないでください、萌え死にます」


 お姉さんはとうとう自我を喪失し、目を回し、その場に倒れこまんばかりの天使――いや、テンションだ。うっ、生えてないはずなのに羽が見える! おい、サンタクロースは羽なんか生えねーだろーが!


「――あ、あのっ! こっちきてください!!」


「え、えっ!? えっ!?」


 俺は天使――ではなく、一人のおかしなサンタクロースの手首を乱雑に、且つ丁寧に握りしめ――近くの喫茶店へと連行した。

 お客にティッシュを配りにいくわけではねーんだがな。



 ***



「コーラ」


「ベリベリソーダマルチコールドジュンクシー」


 前者は炭酸飲料水、後者は……まぁ、飲み物であることは確かである。もちろんおれが前者、お姉さんが後者を選択、注文したことも間違いない。

 しばらくして、空いていた空間の俺たちが通されたテーブルに二品が運ばれてきた。コーラはみたらわかるから、あのおぞましいほどにピンク色をしたドリンクが、例の飲料なのだろう。


「ふへー…………」


「あの……聞いてますー……?」


 もともと俺はこんなところで暇を潰すのではなく、道を歩いて色んなところを見て回る方が好きなのだが、今回ばかりはいた仕方があるまい。原因となったお姉さんから、俺は必死でお話を聞こうと試みていた。

 しかし……。


「ベリベリソーダマルチコールドジュンクシー届きました?」


「届いてますが……」


「あ、こんなところにコーラが。ティッシュならたくさんあるんですよー」


「俺があなたの唇にコーラ溢すわけないじゃないですか」


「えへへ」


 といった塩梅で、まともな会話が成立していない。

 それでも、なんとかさっきまでのような真っ赤に燃える顔は鳴りを潜めていた。照れているようで可愛かったのはあるが、さすがにあの状態で放置しておくほど俺も薄情者ではない。昨日はプレゼントこそ渡してきたが、奉仕的なことはしてなかったからな。


「はぁ……それで、あなたの家はどこです? パンツ見せて貰ったくらいのお礼はするつもりなんで、タクシーなら出しますよ」


「えへへ……ニューヨークに邸宅があるんです」


「出せるわけねーだろ」


「そういえば大見町でした」


「この辺すぎるのでもう歩いて帰ってくれませんかね」


「えへへ」


 このお姉さんは会話に詰まるとえへへとはにかむ癖でもあるのだろうか。

 もし目の前にいるこのお姉さん(ちなみにサンタコスは継続中、着る服が他にない)が宇宙人だったとしよう。その場合はえへへで会話を終わらせるルールが、宇宙人の間であるのかもしれない。

 だから地球にも詳しくなくて、さっきも時差ボケを……なんて、こんな風にオカルトチックに考えるのは俺の癖なんだがな。んー……まぁ、癖ってことにしておくとする。



 ***



「それじゃ、もう夜も遅いですし……送っていきますよ。これも何かの縁でしょうし。立てます?」


「あ、大丈夫ですよ。家、お察しの通り近いので」


 酔いがすっかり覚めた(?)のか、最初に言葉を交わした時のように意識は鮮明になったようだった。よくもまぁあんな状態でティッシュ配りなんぞしていたもんである。

 俺たちはもうひとしきり語り尽くし、ピンクのドリンクもコーラもお互いの腹に消えたので、そろそろ別れることと相成った。

 もう、27日である。

 親は門限を破ったと、怒るのだろうが――。


「あ、あの……今日は、ありがとうございました! これ……つまらないものですけど、お礼です」


「あーいや、別にいいですよ。こっちこそ、暇だったので。ありがとうございました。……えっと、そういえば――」


 店を出て、少しした――お姉さんと初めて出会った場所で、お姉さんは俺の家と反対側の道を指差し、少し儚げにはにかんだ。このときもまた、えへへと、可愛らしく笑っていた。お礼と誤魔化して20個ほどのティッシュを渡そうとしてきたのは、丁重に断っておいて。それでもお姉さんはえへへとはにかんだ。

 もうこのはにかみが見られないのかと、少し残念に思う。おねーサンタさんとのティータイムは、これで永遠に失われるわけだ。


「――今日って、何日でしたっけ」


「えへへ……やだなぁ、ばかにしないでくださいよ」


「……もちろん、あなたならわかりますよね?」


「もちろんです。さっきも言ったじゃないですか」


「間違えたら、そーですね、俺と友達にでもなってもらいましょうか」


「やってやろうじゃないですか! じゃあわたしが負けたら、もうあなたをキャバクラティッシュ漬けにはしません。勝ったら最後にもう一回、30個ほど受け取っていただきますからね!」


 そんなこんなで。

 曲がり角の折れる直前も寸前となったところで、俺は一つ気になってみたことを聞いてみた。最後の会話だろう、気になって眠れない的なことは避けたい。

 相手もここまで言うのだし、そりゃあもう、とびっきりの笑顔で答えてくれるだろう。俺がこんな人にお節介を焼いた理由。それは今この場所で――この人に、そう答えてもらうためだったのだ。


「今日は――」


「…………」


「――25日ですよ」


「…………」


 だろうとは思っていた。

 お姉さんは喫茶店でも、結局事情を一切語ることはなかった。どこまでもどこまでも、いつまでもいつまでも、俺はティッシュを受けとるだけだった。もうティッシュだけで一式の服ができあがる量である。楽しかったからいいのだが。

 お姉さんは、最後の最後まで、今日をクリスマス当日だと言い張った。信じていた。聞いてはないが――きっと彼女は、サンタクロースを信じているだろう。

 俺とは違って、ちゃんとした親に育てられ、夢と希望を与えられ、ふつーに生き、ふつーに生活し、ふつーに俺と出会った。


「――あなたって、なんか普通じゃないですよね」


「……? ティッシュを無理やり押し付けられた量ですか?」


「ではなくて」


「ではなく?」


「なんだか、どこか心が冷たい……のかな」


「……」


「もっ、もちろんそういう意味じゃないて! なんか、その、ほら、他の人と違うなってね! はい!」


「うーん……」


「す、すみません……」


「いや、そーかもしれないですね」


 拍子抜けした様子のお姉さんの眉間に、そっと一つ、ポケットティッシュを押し付けてやった。ちょっぴりお姉さんは驚いたが、その後せっせと何食わぬ顔でそれをしまう。

 へぇ、俺がおかしいだって? そうなのかもしれない。俺は今の今まで、『サンタクロースの存在をなきものにしようとしていた』。

 これは、また親の影響がためかもしれない。けど、それとは別問題な気がする。

 普通ではなくとも平穏に生きていた俺にとって、サンタクロースがない生活は当たり前だった。当たり前のものは、否定されても理解できない。その通りだったのか――?


「えへへ」


 こんなときでもサンタクロースのお姉さんは笑っている。押し付けられたティッシュをわざとらしくしまっている姿が、今はやけに神秘的だ。案外この世界も、残酷ではないのかもしれない――さて、そろそろ眼科を受診した方がいいのかな。


 しかしお姉さんの笑顔の真意が、今の俺にはわかる。

 今回はちゃんと、理解できたと思う。


「本物のサンタクロースが、いてもいいんじゃないですか?」


 ――だってさ。


「じゃあ、さようなら! 今日はほんとにすみませんでしたー! ご縁があったらまた会いましょうー!」


 お姉さんはそう言った。と同時に、先ほど指差していた道に吸い込まれるように入っていく。

 思わずあっと、引き留めてしまいそうになったが。

 そこで突然、見えなくなりつつもお姉さんの声が暗い道からきこえてきた。声がでかい。近所迷惑。


「具体的には、ちょうど来年くらいに――――!」


「……わかりましたよ!! だから静かに帰ってください風邪引きますよ――!!」


「えへへ――――!」


 それだけが響いた後、声は聞こえなくなった。

 ……ふと足元を見ると、ざっくり200個はあるだろう量のポケットティッシュが山を作っている。勝ったつもりでいたことが判明し、あのお姉さんを思い出してやれやれとする。だいたい同じ量で二つの山ができてるから、多分一山100個。ご丁寧なこった。これでベッドでも作れってか、笑わせる。

 ――とんだクリスマスプレゼントだ。


 お姉さんは静かに帰ってはくれなかったが、来年、また帰ってきてくれるらしい。

 なんか、そう。来年の25日と26日と、ついでに27日が、どうしようもないくらいには楽しみになった。

 ――今日、俺は生まれて初めてサンタクロースの存在を信じた。

 しかしさて、今日は12月25日だっただろうか。

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