7 格を示すもの、細剣
この国は、細剣は武器に分類されておらず規制されておりません。又、規格を超えると罰則があり、規格内でどんな付呪をするかが、腕の見せ所です。
「その剣は魔法の剣?」
ブラン君から突然質問がかかる。
「そうだよー、私の自信作なんだー!見る?ねぇ見ちゃう?」
「うん!見せて!」
「いいよー、ほら!薔薇の匂いがするでしょう?」
そう言って私は剣を抜き、剣の能力の一つを起動する。
「すごい!幻惑の剣なんだね!」
私はそれを聞いて素直に感心する。この剣の能力を一目で当てたのはリィニーと大婆さんくらいだ。この剣は薔薇の匂いを感じさせる能力と言ったが、それは本当にに匂いをさせているわけではない。薔薇の匂いがすると最初に暗示をかけ、幻の匂い――幻臭とでもいうべき能力を発揮させやすくする。だた暗示を強化する程度の能力だが、使い方によっては剣でありながら、杖などの魔術触媒のように複数の効果を生むことができる。
これは、幻惑を見せる剣を作ろうとしてできた能力だ。一応幻覚を見せる能力も備わっている。相手にこれが刺さっている状態で、という条件付きだが。この年の子供が見破るというのは……
リィニーの母国は大爺さんの故郷だという国の出身。しかも皆、魔術師の才能があるというが、謎が多い。それにヘルドラン建国時からの付き合いだというが……少なくとも今考えてもしょうがないと、頭の片隅に押し込む。
「おお!すごいね!よくわかったね!よぉし!おねぇちゃんがなでてやるぞぉ!」
取り敢えずかわいいので、頭をなでておく。頭を触ろうとすると体をひねって逃げようとするが、捕まえて撫でる。とにかく撫でる。よく手入れされたであろう、柔らかな白い髪はとても撫で心地がいい。しかもいい匂いがする。リィニーの髪も手触りがよかったが、髪の朝が違うし、他にも少し違いがある気がする。
暫く私の腕の中で抵抗していたが、終には諦め、少し気持ちよさそうに目を細める。リィニーが何か言いたそうな目で見ているが気にしない。突然ブラン君は何か思いついたのか目を開けると、
「…そういえば、リィニーおねぇちゃんも剣持ってるの?」
話を振られたリィニーは自慢げな表情になる。彼女は感情の起伏が薄く、表情の変化が少ないが、長く一緒にいる私は読み取ることができる。出会ったばっかりのころは感情が読めなくて苦労したものだ。
「…いいよ。見せてあげる。」
私が、細剣を見せている内に、自分の物も見せようと準備していたのか、既に掴んでいた細剣をテーブルの上に置く。
「アンシーイング|。見せてあげる。」
「え!?ちょっとま!それは!」
私は慌ててブラン君と自分の目を腕で隠す。瞬間何かが光った気がした。そして―
「むぅ…エリィ、邪魔した。」
不満げに云う。
「駄目だって。それ緊急時以外使っちゃあ!言ったじゃん!」
この細剣は私とリィニーがどっちが凄い物を作れるかと、競ったときにできた物の一つで見えない細剣を目指したが終に完成せずその失敗作の一つだ。まだ諦めてないようだけど。これ自体はかなり凶悪な能力なので、彼女は気に入っているそうだ。この光は非常に強く、瞼くらいならば余裕で貫通してくる。
彼女曰く、「見えない剣に恐れ慄くがいい。」だそうだ。「そうだね、見えないね。剣だけじゃなくてなんも見えないんだけど!目痛いんだけど!」と、のたうちまわりながら言ったのは記憶に新しい。
実際、純粋な光の魔法が使える魔術師は少ない。それを符呪できる魔術師はさらに希少だ。学園の明かりも純粋な魔法の光ではなく、雷の魔法と針金の組み合わせだ。
この細剣を作ってから、彼女は事あるごとにそれを自慢しようとする。今まで様々な人たちが犠牲になっている。しかも、普通は細剣を注視しようとするのでさらに質が悪い。最近ではリィニーが細剣に手を当てるだけで目をふさぐ人が出てくるほどだ。
「むぅ…私これ以外いいの持ってない…」
「あっ!それ『光拭』の魔術だ!」
「え?」
「むぅ…ばれた。」
そう云うとリィニーは細剣を持ち上げる。また光を発するのかと身構えたが今度は逆にそれが黒に染まっていく。いや黒というより、純粋な黒。――漆黒だ。みるみる内に黒に染まった剣身から符呪の紋様が消えていき、紋様が完全に見えなくなってゆく。「完全な黒は、黒を飲む。」というやつだ。細剣の形にそこの空間だけ黒に切り取ったように染まる。この魔術自体は暗室を作るのによく使われる。
「そう…これは光を溜めて放っているだけ。でも…只の光の魔法よりもずっと強い光。ばれた。すごい。」
そう云って彼女はブラン君の頭を優しく撫でる。
光を溜める――それは口にするのは単純だが、それを成せる魔術師は、聞いたことはない。しかもそれを成そうとするには複数の符呪が必要になる。口には出さないけど、やはり彼女は私よりもこの手の魔術は数段上手だ。
それにしても、ブラン君はこんなに幼いのに博識だ。それに、リィニーも魔術の知識は驚くほどに多かった。
「ブラン君って何か魔法使えるの?」
「つかえるよー」
「じゃぁ、何か作ってみる?」
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場所は移り、此処は魔法の試験場。石で出来た冷たい壁。窓はない。しかし、魔法の光が煌々と眩しいくらいに照らしている。この建物は学園の物ではなく、学長個人の物だ。
ここで白髪の少年が細剣に手を当て、中空にある魔法陣を押し込めている。実際、魔法を込めるのは、込める対象の魔法を使いこなせるのであれば、難しくない。一定以上の技量があれば、あとは素材が出来を左右する。基本的に、細剣に直接手で、魔法陣を刻み込むか魔法で刻む。前者は安く、時間をかけ、丁寧に作ればそれだけいいものができる。よって、一般に広まっているのはこちらだ。後者は素材が専用の物になるので高く、しかし早く作れるが少しでも気を抜くと直ぐに失敗する。
ブラン君は少し説明を聞くと、いやに慣れた手つきで作業を進める。
「できた!」
笑顔で少年が云う。
「どれどれ?見せて―。」
「いいよー。ちょっと離れてて。」
「?」
リィニーは既にドアの側まで離れている。
「鼠の剣!|」
そう云うと細剣を置き、私の手を引き、ドアの側まで離れる。訳が分からなかった。細剣を置いて何が起こるのだろうと思った。普通は手に持ったまま、込められた魔法を使うのが常なのに置いている。
―バンッと音がした。塚頭から小さな爆風が飛び出す。爆風の勢いに合わせて細剣をそのものが飛ぶ。そして、石壁に小さな傷を残し弾かれる。よく磨かれた床の上を回転しながら滑り――
―バンッ。
再び爆発音を残し、細剣が飛ぶ。
「わっ!」「危ない!」「…!」
私たちの数十センチ横に着弾する。そして、弾かれた細剣はいやにゆっくり床の上を回転してゆく。
私たちのほうに切っ先が向き―離れ―向き……
「逃げる。早く。」
リィニーがいつの間にか部屋の外から手招きする。急いで部屋を出てドアを閉める。ドアの向こうから未だ爆発音と何かが弾かれる音が聞こえる。
「ふぃー。やった!うまくできた!」
………私は黙ってこの子にチョップを落とした。
基本的に魔法触媒は杖で変わったところでは魔術書そのものですが、これらは物理的に弱くしかも戦闘用のものはそれなりの大きさになるので、接近戦に向きません。一応金属の杖などはありますが、柔らかく普通の剣で両断されてしまいます。一応固いものは存在しますがとても希少なので、現実的ではないです。
一方付呪は基本的に単一の魔法しか使えないことと、魔術としての効率が余りよくない事により左に短杖持ったほうが効率がいいです(槍や両手剣などの長物を持った場合でも普通に魔術を使ったほうが射程が長いし、短縮形の詠唱は意外と隙がない為)。一応奇襲用としては有効ですが、付呪されているかどうかは見た目ですぐわかってしまいます。
しかし、オルヴェルクは技術力によってそれを成しえました。オルヴェルクの軍用魔法触媒は長い刺剣の形をしており、一応そのまま近接戦闘可。刃はなく、純粋な刺突武器ですが、触媒に刃を付与する魔法などもあるので魔力があれば対応可能。武器で受けてそのまま魔法を発動できる。それだけでかなりのアドバンテージになりえます。