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白の旅人  作者: 小山 了
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4.5 閑話、オルヴェルクの露店

お腹がすいたときに書いた話です。書いてたら結構長くなりましたので、閑話にしました。

22:08


入国の審査が意外なほど簡単に済んだ。これはこの国には学生の魔法使いが多く、それ故求人を出せば学生魔術師が遊ぶ金欲しさに応募するからだろう。そして、魔術とは偉大であった。実際、直接審査するも者以外は、驚くほど若い人間が多かった。


都市壁の中は石畳で裏通りに至るまで舗装されていた。そして、ごく微小に傾斜がつけられ雨水が溜まらないようになっている。この国の豊かさ、技術力の高さを示している。


町中は若者が多く活気あふれている。そして、魔術師らしいローブを着たものが半数以上を占める。腰には杖に魔術所、それに細剣が下げられている。そして、細剣からは一様に魔法の力を感じられる。



私は、馬車を宿屋付の御者に預けると、主人と一緒に出掛けます。すると、目の前にあった露店に突撃し、


「おにぃさん!それ二つちょうだい!」


「はいよっ!元気のいい子には肉をおまけしてやろう!いっぱい食べるんだぞ!」


「おにぃさん、ありがと!」


屋台の男は愛想よく笑うと、円柱形の大きな、回りながら魔法の熱で焙られている大きな肉塊の焼けた表面を削ぎ落すと、白くて薄いパンの中に葉物野菜と共に、入れていきます。


「おにぃさん。なんでここって、魔法使いなのにみんな剣を持ってるの?」


「剣…?あぁ!レイピアのことか!あれは流行りの伝統みたいなものでな、普通のレイピアを買ってきて、自分で魔法を込めるんだ。それで出来た作品を自慢するんだ!熱中のし過ぎで、自分で鍛冶を始める人までいるんだよ。魔法使いが鍛冶をするんだよ。笑っちゃうよね。それでね、こう見えて僕も炎のレイピア自作してそれでね……っとできたぞ!」


「ありがと!はいどうぞ!」


金を払い、お礼を云うと、青年は気前よく笑います。


「ノイア、はいどうぞ。」


「あっ…ありがとうございます…」


主人が私に差し出したものには、本来であれば、歩きながらでも食べやすいようにパンに挟まれているのだろうが、店主が長い話をしながら肉を切っていたためか、大きく盛り上がるほど盛られており溢れそうだ。私はそれを受け取ると、屋台の前に備え付けられた簡素な椅子に腰かける。


「いっただっきまーす!」


「いただきます。」


古くから続く、半ば伝統と化したお祈りをすると。主人と共に料理を口にする。口にすると先ず乾いた柔らかいパンが口の水分を奪います。しかし、すぐに主役の油の乗った肉と濃くて、甘辛いソースが口の中を満たしてゆく。

濃い味でありながら、肉と共にパンに挟まれた薄い野菜がシャキシャキとした食感と共に口内をぬぐい、名脇役を成し、それを感じさせない。甘辛いソースと焼いた羊肉、薄い葉物野菜。この三役がパサパサしたパンの中に集い、調和する。


「おいしい!」


「そうですね!」


私たちは、露店でありながら…否、露店であるからこその美味しい料理に舌鼓をうつ。昼過ということもあり、衝撃は大きかった。


しかし、それはそれを半分ほど食べた時に起こった。喉が渇いたのだ。幾ら肉汁の滴る肉とは言え、喉を潤すことはできない。


「あの……」


「おにぃさん、なんか飲み物を二つちょうだい!」


「はいよー。」


私が、店主に飲み物を頼もうとした矢先、主人が先に頼んでしまったのです。店主はそれを予見していたのかいなかったのか、したり顔で直ぐに主人に硝子に注がれストローの刺さった、柑橘系の物であろう橙色の飲み物を、私にはお茶を出してきました。


「はい!」


「あっ…ありがとうございます。」


わたしは主人に先を越されてしまった恥ずかしさを感じながら、差し出された飲み物を受け取る。そして、魔法の力を使ったのか、よく冷えたそれを口に含む。火照った口と胃の中を豊かな茶葉の香りと、冷たい水が洗い流してゆく。

後には発酵させた茶葉特有の酸味を僅かに残すのみだ。再び口に料理を運ぶと、僅かに残った酸味と絡まり調和を超え、黄金比を成す。


「おいしい…」


気付けばそう呟いていた。


「美味しいね!」


「ははは!そう言ってくれると嬉しいよ!」


「でも、お兄さんはなんでこんな所でお店を出してるの?お兄さんくらいの腕があればお城でも勤められるよ?」


「そうか、見破られてしまったか!いやぁすごいなぁ!」


上着の前を少し開け『秘密だぞ』っと笑うと、首からかけた金のメダルを見せたのだった。


「サン・フラモス共和国の金メダル!」


主人が驚いたように云う。そのメダルは美食の国、サン・フラモス共和国で数年に一度に開かれる、料理大会で優勝した者に与えられるものだった。


「おっ!よく知ってるね。僕はね、お城で小綺麗な料理を作るよりも、君や彼女の驚く顔を近くで見るのが好きなんだ!だから、僕はいろんな都市で露店を開いてるんだよ。」


そう、店主の青年は笑った。その顔は正に『人生を楽しむ』笑顔であった。




「ごちそうさまっ!」


「ごちそうさまでした。」


私たちは『返却箱』と書かれた箱にコップを返す。


「まいどー」


他の客の接客をしていた彼は、こっちにお決まりの挨拶をし、直ぐに接客に戻った。

この、まだ名前も出ていない屋台の店主はそのうちまたどこかで出てくるかあもしれません。




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