3 欲深き者、イソレス
「………ねぇ、おじさん?」
子供の声がした。それは子供用のドレスを身に纏う白い少女の姿だった。顔立ちは気味の悪いほどに美しく、体は、子供でありながら煽情的で美しいという。違う性質を両立させている。しかし、それは劣情を湧きあがらせるものではなく、小さな篭に入れて眺めていたい。そう思わせるモノであった。
「ねぇ、おじさん?何がほしいの?」
「私は……おまえが欲しい。」
「そう…」
少女は怪しく笑うと、恭しく一礼をする。直後に、私はハッと気づく。
「お、お前は誰だっ!どうしてここにいる?!」
「おじさん?何をして遊ぼうか?」
まるで友達に云うような気楽さで少年は言った。
得体のしれない気味悪さを感じた私は、少女を殴りつける。一瞬視界の端に黒い線が走り少女は、まるで夢幻の幻のように消えてしまう。
「おじさん、意外と悪い人なんだね?」
声のしたほうを見ると、先程の少女が少し拗ねたような顔をして私の婚約相手に向かって手を伸ばしている。
「やめろ!それは私の物だ!」
少女は小娘に向かって歩いてゆく。小娘を奪われまいと、私がそれに触れるや否やまたしても霞が散る如く消える。
「―なっ!?」
私は壁に掛けてある、剣を取ろうとするが――霞の如く消え果てる。
私をじつと眺める少女は可愛らしく、小首をかしげる。微笑を浮かべ、その瞳には一片の悪意もない純粋なものだ。それどころか侮蔑も嘲笑も、愉悦すらもない。純粋な子供の目だ。その黄金の瞳はまるで、水に落ちた蟻を眺めるような――
私は、後ずさりをし壁にもたれ掛かる。その瞬間壁すらも消え、バランスを失った私は仰向けに倒れ、空を見上げ――
――そこには何もなかった。天井も屋根も雲も、太陽すらもなかった。見回しても何もない。ただ、ただ白い空間が広がるだけだ。そして、ただ、微笑む少女が一人。私は、私は…わたし…ワタシ…自分すら白く溶け――
少女が一人、机に座っていた。どこか楽しそうに微笑みながら、地につかない子供の足をブラブラと揺らす。
何処から現れたのか黒髪の女従者が現れる。
「お迎え上がりました。」
「あっ!やっと来た!もぅ!ノイア遅いよ~」
「申し訳ございません。先日は早すぎたとのことですので。それで、彼女のほうは私がお送りします。ところで、此方の方は如何されるので?もう自我が残ってるようには見えませんが…」
「別にいらない。ほっといていいよ。」
「それでは、そのように。ところで、そのお召し物は?」
従者が貴族の少女を少し嫉妬の籠った視線で一瞥し、主人に向き直り問いかける。
「似合ってるだろう?ノイア?」
そう云うと少し恥ずかしそうしながら、クルクルと回りながら、ポーズをとる。
「似合ってはいますけど、恥ずかしいなら、断れれば良かったのでは?」
「は、はずかしいなんて思うわけないだろ!」
子供らしい意味のない頑固さでそう云う。
「それでは、後ほど私からも見繕いますので、お付き合い願いますね!」
女従者が笑顔で云う。
「う、うん…わかった…」
「それと、やっぱりその本はダメです。」
従者は少女?が抱える本をさしながら云う。
「えー…」
「ダメです」
「むー…」
「だ、ダメですよ?」
実はこれらの三話は半年以上前に書かれたもので、大幅に改稿しております。自分で書いた小説読むのって結構きついです。精神的に。
その時にあと六話ほど書いていましたが、すべて没になりました。合掌。