1 貴族の少女、マリエーヌ
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ここはアスカリド共和国。白い石造りの建物が並ぶ貴族街の昼下がり、春の陽気に誘われるままに外出した昼下がり。
「お姉さん、一緒にお茶していかない?」
私は、石造りの橋の上で幼い声で呼び留められた。この手の輩は見かけるが、幼い子供に呼びかけられたのは初めてである。
「どうしたの?ぼく?」
その子供は見たところ貴族風の恰好をしている。そしてと透き通るほどの白い、肌と髪を持つ可愛らしい齢十にも満ない様な子供であった。特にこの国の貴族区画で貴族の子供が一人でいることも珍しくはない。
「貴女はこの町に流れるこの清水よりも美しい!まるで水の女神の様だ!もし許されるのであれば、共に一夜過ごしては頂けないか?」
よく見ると彼の手には『Mr.ムッシュの旅路』とゆう本が抱えられている。この本はおよそ百年前に書かれた有名な旅路録で、彼が旅路で女性を誘う手法などが事細かく書いてある。要するによく言えば伊達男の旅路録の本、悪く言えばナンパ録。夜の描写は薄いので、一応大人向けの本にはなっていないが…いいものは言えないだろう。
「ぼく、一夜共に過ごすって意味ちゃんとわかってる?」
「女の子と一緒に夜に眠る?…あぁっ、順番を間違えた。そこの月の女神の様に美しいお嬢さん、もし叶うのならこの私とディナーでもどうかな?」
「今、昼なんですけど…」
「あ、……」
幼い容姿には場違いなセリフだがあと五年でもこの子が成長していれば、どんな女でも落ちるであろう。顔を赤らめ本をせわしくめくる姿はかなりの破壊力がある。そして目的の一文を見つけたのか手を止め、
「そこの可愛らしいお嬢さん少しよろしいかい?呼び止めてしまって…」
「いいわよ。お茶にする?」
「やった!…こほんっ…ありがとう!良き返事が聞けて良かった。この日の輝きは未来永劫忘れないよ!この先に良さそうなカフェを見つけたんだ!」
そこは私もよく行くカフェであった。川のそばの店で、テラスを流れる川沿いの風が心地よい。
「給仕、チョコレートクッキーとコーヒーを砂糖をありありで頼む。」
「私はカヌレと紅茶をお願い。」
「承りました。」
ウェイターは一礼して去っていく。
「僕、名前は?」
「ぼくはブランス。ブランと呼んで。君は?」
「マリエーヌを申しますわ。ブラン君ご両親はどうしているの?」
「…僕に両親はいないんだ…でも心配いらないよ。それに従者には私が外に出ることはちゃんと伝えてるよ。」
「そうなの…」
迷子なのかと思って聞いてみたが予想外の言葉が返ってきた。なんだか答えずらそうだったから、聞かないことにしよう。従者がいるって言ってたたし…
「そうだ。私は実は従者と旅をしているのだ。それでこの前ね…あっお菓子が来た!」
カヌレの固く香ばしい外側の食感と内側のしっとりとした甘さを楽しみながら聞く、ブランとゆうこの子の話は、意外にも話し上手のようで面白かった。
「…その国の王はな…あっもうこんな時間だ。ごめんね…つい、夢中になって…これから買い物に行きたいのだけど、いっしょに行かない?」
「えぇ…いいわよ。」
ブラン君はそう云うと、私を宝飾店に連れてきた。
「家のものに何か買いたいんだけど…。でも僕には女の子の好みは分からないんだ…」
「それならばお手伝いしますわ。」
私が宝飾品を選んでいる時、店内をあちこち見ているようだ。そして自分用ではないとはいえ、小さい子供に宝飾を買わせるのも何か悪い事のような気がするので私が未繕い、会計を済ますと、ブラン君は何かを買ってきたようだ。そして私がもう会計をすましてしまったところを見ると、少し残念そうな顔をすると私に何かを渡してきた。
「これは僕からの今日のお礼だ。開けてみて。」
そうう云い、私に紙袋を渡してくる。
「これは素敵なブレスレットね。」
「喜んでくれて、うれしいよ!その赤色の宝石は君にとても似合うと思うんだ!もうすでに素敵なネックレスを持ってるみたいだし…早く着けてみてよ!」
「ありがとうね。大切にするわ!」
太陽のような笑顔で喜ぶブラン君はとても可愛いく、今すぐ抱きしめたくなってしまう。
そして談笑しながら上水路脇の小道を歩いているときそれは起こった。
「それでね、その国では吟遊詩人は先ずねぇぇぇ!!」
私のほうを見ながら後ろ歩きをしていた、ブラン君は用水路に落ちた。
「まぁ!大丈夫?」
私まで落ちるという事は無かったが、ブラン君はビショ濡れになってしまった。
「……くちゅっ!…」
春の陽気とは言え、暖かいとは言い難い。
「まぁ!大変だわ!風邪をひく前に私の家にいらっしゃい!」
そうして私はブラン君をゆうか…もとい家にお誘いしたのだ。
設定
アスカリド共和国
貴族の国。
裕福な上流階級の貴族街が有名(外国人であっても貴族位、又それに準ずる位があれば入れる。)。貴族街の壁を囲むように、スラムよりはマシ程度の町が存在する(一部は暗黒街と呼ばれるほどに治安が悪い。国はそれらの存在を認めてはいない。規模が大きく、排除しようとも根強く残っている。)。しかし、共和制。なぜならほとんどの一般的な市民は市民権を持たないから。(生存権のみを保持し、その保持に税が課せられる)。
市民権を入手するには、かなりの額を国に納めるか、かなりの武勲を挙げる必要がある。
共和国故に王は存在せず、貴族は派閥を組み政争をしている。そのため、周辺国の中では頭一つ飛び出て国土が大きいが、国力が貴族の領地単位で別れてしまっているため国としての力は弱い。しかし纏まりがないというだけで、国力を集中するための戦時の規律(守られるかは別)はしっかりと存在する。ちなみに、領地の大きさだけでなく、人口も力とみなす考えがあり、食べ物さえあれば農夫は増えると思われているので、農夫たちは貧しくはあるが食べる物には困る者は少ない。
ほぼ生粋の農業国であるため、その手の術者を多く抱えている。そして、その生産性によって生み出した作物を戦時中の国に高値で売り付け大きな外貨を獲得している。
周辺国からは貴族の国のため「公国」と呼ばれることも。
主な輸出品は農作物、労働力。