第1房 工場の不良品
「いってらっしゃぁーい!早く帰ってきてねぇー!」
夫への愛情爆発の新妻のような甘ったるい声で平松豊は見送られた、
母に。
徒歩通学だった中学とは違い、高校までの道のりは自転車だからすぐに声は届かなくなるのだけれど、それでも我が子の姿が角の電柱の向こうに消えるまで母さんはその豊満な胸を上下に激しくたゆんたゆんに揺らし飛び跳ねながら手を振っている。
痛くないんだろうか。
僕、平松豊は早くに父を亡くしたため、祖母、母、姉二人の女家庭で育った。何不自由ない暮らしで、特にこれといった問題もなくこれといった特徴もない本当に温かな家族だ。ただ、唯一挙げるとするならば...
一家全員(僕を除く)巨乳である。
母、博美(アンダー70、バスト98、Hカップ)長女の風花(アンダー65、バスト88、Fカップ)そして次女の栄子(アンダー65、バスト85、Eカップ)の「それ」は、地域ナンバーワンの信頼と実績とサイズを持つ豊満さだ。祖母、市枝(不明)も今でこそごく普通の老婆だが、若いころはその胸で風を切り裂き人込みをかき分けていたらしい。自らの娘や孫の体格から想像するにeどうやらその噂は少しの誇張もない事実なのだろう。近所の小学生から「おっぱいふぁくとりー」と呼ばれる理由はここにある。華麗なる一族だ。
世間一般の男子からすれば毎日がパラダイスのように思えるかもしれない。しかし考えてみてほしい。自分の身内が赤の他人から好奇の目で見られる気持ちを。そして自分の身内が自分の胸の個性にあまりにも無頓着であることを。
まがいなりにも思春期真っ只中な僕にとって、突如として襲い掛かってくる「それ」は脅威以外の何物でもない。ふとした瞬間に見えそうになったり、振り向きざまにぶつかりそうになったり、もううんざりなのだ。
女性は貧乳に限る。平らなほうがいいに決まっている。ふくらみのある女性になんて興味はない。(僕はロリコンなんかじゃない、これだけは誤解しないでほしい。もう一度言う、僕はロリコンなんかじゃない。)
心の平穏を保ってくれていた同級生の女子たちもやがて乙女になり、女性として心身ともに育っていく(セクハラだ)。高校入学という晴れやかなイベントを目の前にして、どんどん心の拠り所を失っていくことに僕は一抹の不安を抱えていた...。