英断の王と災厄の魔女
あるところに恵まれた大地と精強な軍事力を持つ国があった。
その国の王は勇猛果敢という言葉が似合う、正に武の王であった。
その国は周辺の国々を飲み込みやがて巨大な王国となす。
王の元に国は栄えた、そして王は民の豊かな生活のため、さらなる繁栄を求めた。
しかし、ことはそう上手くは運ばない。
この国の繁栄に目を付けたものにより国は窮地に立たされる。
その者の名は呼ぶことも憚られる。故に皆はこう呼ぶ。
”災厄の魔女”
魔女は艶やかな漆黒の髪に引き込まれるような漆黒の瞳、そして容姿は美しく正に傾国の美女であった。
魔女はその美貌で幾人もの王族・貴族・民衆を魅了した。
魔女は聞き慣れぬ言葉を用い呪術を使い、再生と死を操った。
これは魔女の魅了を見破り国難を退けた偉大なる王の話である。
♢
「我が民よ! 安心するがよい! 汝らには我がついている!」
その声は威厳に満ち溢れ、聴いているものの心を高ぶらせる。
王城前の広場へは多くの民衆が演説を聴くため押し寄せていた。
「此度の戦も我らの勝利だ! いずれこの大陸を統べて見せようぞ!」
民衆はその声に感激を受け、国王の名を叫ぶ。
常勝不敗のその王の名は”アンブロシウス・エレスタリカ”。
偉大なる王はさらなる国の発展を求め、軍事力に力を注ぎ、また魔の森への開拓を進めた。
王国は飛躍的に力を手にし、民衆は王を讃えた。
しかし、ある日の晩餐会の最中に王が倒れた。
すぐに王国中の医者がかき集められ、王を診察するも原因がわからない。
次第に王は弱っていく。しまいには病床に伏してしまった。
ある時、王の元を訪れた旅の神官が告げた。
「王の身には強い呪いがかけられています。それはとても私では解くことができない程強い呪いです。私にできることは御身にかけられている呪の一部をこの霊王の呪符に封ずることのみ。」
神官はこの呪符で王にかけられた呪の一部を封じたが気休めにすぎなかった。
神官は王の呪いを解けるのは賢者か祈祷師ならば呪いを解けるかもしれないと告げ、再び旅に出た。
そこで王の子供である3人の子供がそれぞれ王の命を救うため旅に出た。
長男であるローガン王子は賢者を探す旅へ。
次男であるナサニエル王子は高名な祈祷師を探す旅へ。
そして三男であるジョシュア王子はある噂を聞き、とある魔女を探す旅へ。
それぞれの旅は過酷を極めた。
ローガン王子は賢者がいるとされる煉獄の地へ赴くも、多くの魔物・竜との戦いで兵を失い、やむなく撤退することになった。
ナサニエル王子は祈祷師がいる永遠の森へと赴くも、旅の途中で病魔に侵され命を落とした。
そこで吉報を持ち帰ったのはジョシュア王子だった。
ジョシュア王子は対価の代わりに病をも直し、魔をも祓うという”歌う魔女”の噂を聞きつけ、ついに魔女の元にたどりついた。
ジョシュア王子は魔女に告げる。
「私で支払うことができる対価はなんでも払おう! だからどうか我が国の王を救ってくれ!」
魔女はその言葉を聞き王子に告げる。
「その言葉に嘘はありませんね。」
王子は魔女の問いにはいと返事した。
「では私をあなたの妃にしてください。あなたほど心の綺麗な方は見たことがありません。如何でしょうか?」
王子は是非もなく頷き、それを認めた。
♢
ジョシュア王子は魔女を王城へ連れ帰り王と面会させた。
そこで魔女は王を眺め一つ頷きおもむろに歌い出した。
その歌はその場にいた全員を魅了する美しい歌声であった。
歌は聞きなれぬ言葉であったがその美しい歌声を前に誰も疑問を抱かなかった。
病床に伏していた王ただ一人を除いて。
魔女の歌が終わると王の体からすっかり呪は祓われ、月日を追うごとに王の体調は快癒に向かった。
その間、魔女は民衆の前で歌を歌って回り、王国の王族、貴族、そして民衆を魅了した。
ジョシュア王子は王にかの魔女との結婚を認めるよう嘆願した。
この時にはジョシュア王子はすでに魔女の美貌に、歌声にすっかり魅了されていた。
「ならぬ! あれは悪しきものだ! 我を救ったとはいえ、あれをこのまま国に置いておくわけにはいかぬ!」
「なぜですか!? 父上! 私にはあなたのおっしゃる意味がわかりません! なぜ御身を救ったものを疑うのですか!?」
そうして間も無く、王はジョシュア王子だけでなく、国中の人間が魔女に魅了されてしまったことを知る。
悲観する王。
だがそこにたった今、賢者を探す旅から帰ったローガン王子と出くわす。
「父上! 申し訳ございません! 私が不甲斐ないばかりに賢者を見つけ、父上を救うどころか多くの兵を失いました。どうか時期王は弟のジョシュアに継いでください!」
王は首を振りこう言った。
「いいや。お前が無事帰ってくれたことが何よりだ。心配をかけたな。だが今はそれどころではない。この王国は今、新たな危機に直面しているのだ!」
その言葉にローガン王子は王に問う。
「なんと! 父上! その危機とは一体なんなのですか!?」
王は問いに答える。
「それはかの魔女だ! その目で見よ! 我が国は今かの魔女の身技によって病んでおる。このままではこの王国は遠くないうちに滅ぶであろう。」
王はローガン王子に一振りの剣を渡す。
「この剣は王国に代々伝わる邪気を払う剣だ。お前を穢れから守るだろう。その目で国を見て回り、我と意志を同じくするならば我とともに行動するがよい。」
王の話を受け、ローガン王子は単身国中を見て回った。
そして驚いた。王族、貴族、民の目が一様に曇っているのだ。
国中見て回り愕然としたローガン王子は王と面会する。
「父上! 父上のおっしゃる通りでした!王国にいるものの目は曇り、皆明日を自身の手では切り開くのではなく、魔女に託そうとしております!」
「そうか。」
王は神妙に頷き、ローガン王子に命ずる。
「賢き我が息子よ。この王国を救うため我が剣となれ! そして我にかけられた呪いを見破ったあの旅の神官を探し出すのだ! さすれば真実はさらけ出されるであろう!」
「は!」
ローガン王子は跪き、王命を受諾した。
こうしてローガン王子は再び旅に出た。
以前の失敗の教訓を生かし、慎重にされど堅実に旅を進めた。
そしてやがて旅の神官の元へ辿り着く。
ローガン王子は旅の神官に国の現状を伝え、再度王国へ赴いてもらえないかと嘆願した。
神官はこのことを予見していたのか神妙に頷き、王国への再訪を受諾した。
こうして王国へ再訪した神官は魔女との会合を果たす。
「魔女よ。其方からは王にかけられていた呪と同じ力を感じる。無実を証明したくばこの呪符を持て。この呪符には王に掛けられた呪いの一部が封じてある。呪をかけた主が其方でなければ何も反応しないであろう。しかし、もし其方がこの呪をかけたものと同じであればこの呪符は燃え尽きるであろう。」
魔女は青ざめながらもこの呪符を持った。
すると呪符は青白い炎を上げ瞬く間に燃え尽きた。
これを見た王は魔女を兵に捉えさせ、王国民にかけられた魅了を解くため魔女を処することを決意する。
魔女は王に悔しげにこう告げた。
「この地はいずれ力を失い、王国は滅びるであろう!」
魔女は民衆の前に貼り付けにされ、刑に処された。
火炙りの刑に処されながらも魔女は薄気味悪く笑っていたという。
王はジョシュア王子を救うため説得を試みるも、ジョシュア王子の心はすでに救いようがないほどに魔女に蝕まれていた。そこで泣く泣くジョシュア王子を幽閉することとなった。
王国民は心を取り戻したが王国は魔女の最後の呪いにより国力を失い窮地に立たされる。
しかし王は最後まであらがい続けついには魔女の呪いを跳ね除ける。
多くの領土を失ったが徐々に国は豊かさを取り戻していく。
そして以前の繁栄を取り戻す夢をローガン王子に託し、王は眠りにつくのであった。




