野生のトカゲが現れた!
森の中に造られた小さな集落。周りには馬防柵と拒馬が張り巡らされ物々しい空気が漂う。その入り口に銀髪の美女が小脇に黒髪の少女を抱えて中を伺っていた。
「シエラさーん。やっぱり帰りましょうよー。どう見たって取り込み中ですよー。」
抱えられた黒髪の少女が力無くぼやく。
「アリアさん。イベントは現地で体感した方が人生に彩りを与えてくれます。」
シエラは大きな胸を揺らしながらずんずん集落の中に進んで行く。遠目から見た時には気付かなかったが建物はボロボロでかなり作りが甘い。台風や地震で直ぐに崩れてしまいそうな程である。各家には扉が無く中が窺えるが外見同様にかなり雑な作りだ。
「なんだか寂しい所ですね・・・。まるで廃墟みたいです。」
抱えられたままのアリアが呟く。家の中にベッドや家具は無く床も土のままだ。とても人が住める環境には見えない。それを横目に進むと天球から見た煙突付きの家の近くに着いた。中からはヒソヒソ声と物音が聞こえてくる。それに気付くとシエラが声を上げる。
「すみません。どなたか宜しいですか?」
中からは慌てた様なバタバタとした物音が上がり相談する声も聞こえてきた。5分ほど話し声が聞こえていたが建物の中から人影が出てきた。
「ようこそ旅の方。歓迎したいのは山々だがこの村はもう終わりだ。そうそうに立ち去っては貰えないだろうか。」
太い声でそう話ながら出てきたのは身長が2mはありそうな二足歩行のトカゲだった。トカゲ男は沈痛な面持ちだったが、二人を眺めた後に不思議そうな顔をして続けた。
「こんなところに人間とは珍しい。お前たちが欲しがりそうな物はこの辺りには無いがどうしたんだ?」
その問いかけにシエラが答える。
「引っ越してきましたので挨拶に参りました。」
その言葉にトカゲ男が不審者でも見るように様子を伺う。あまりに説得力の無い言葉が警戒心を煽ったようだ。明らかに態度が硬化している。
「お菓子作ってきたのでどうぞ!」
アリアが事態の好転を計り笑顔で差し出したが完全に裏目にでてしまっている。かなり怪しい。
「お前達なにものだ? 今さらこの地に移住するものなどいるものか! 何を企んでいる?」
トカゲの顔は険しくなり二人を睨む。鋭い眼光にアリアが怯み目をそらした。怖がるアリアを見たシエラがトカゲを睨み返す。最早挨拶などと言っていられない空気になってしまった。
「お前達が何を企んでいるかは解らないがここから立ち去った方がいいのは確かだ。 奴が戻ってくるかもしれない。」
沈黙を破ったのはトカゲ男だった。不信感はあるようだが、それでも来訪者に危険を伝える事を優先したらしい。
「奴とは?」
シエラが聞き返す。短い言葉だが、どことなく嬉しそうだ。それを見てトカゲ男は苦々しい顔で答える。
「最近この辺りでドラゴンが暴れまわっている。以前は竜神様がこの地を守って下さっていたが戦いで命を落とし最早加護はない。村を守るために戦士達はドラゴンに戦いを挑んだが尽く散っていった。残っているのは旅から帰って来た私と女子供だけだ。」
話しているトカゲ男の後ろの建物からは心配しているのか子供のトカゲが二人、不安そうに覗いている。
「・・・引っ越しとかはしないんですか? そいつが来ない所まで行けばいいんじゃ?」
アリアが聞く。神妙な顔だが抱えられたままなので緊張感がない。
「私にこだわりは無いが、この地で過ごした者達が納得しない。先祖や家族が眠る場所で死にたいと首を縦に振らないのだ。」
悲しそうなトカゲは首を振る。
「それでは私とアリアさんで片付けて来ますのでお菓子でも食べて待っていて下さい。お礼は肉料理が食べたいので準備をお願いします。」
シエラが楽しそうに話す。アリアとトカゲ男が呆気にとられている。
「いやいやちょっとシエラさん!? 何言ってるんですか!この人達が勝てないって言ってるんですよ!?」
取り乱しながらアリアが止める。前回のドラゴンの迫力を思いだし、かなり怖がっている。
「この子の言う通りだ。戦士達が手傷も負わせられなかった相手だ。多少腕が立つようだが止めておいた方が良い。あの片角は化物だ!」
トカゲ男もアリアを援護する。しかし、シエラは意に介さず手をヒラヒラさせながら続ける。
「安心して下さい。あなた方はお礼の事だけ考えて下さい。明日の夕方までには獲ってきますから。」
楽しそうに宣言するシエラ。
「じ・・じゃあ私は村に残って料理の手伝いをしてますね!!」
ありったけの笑顔で主張するアリア。
「アリアさん。私と貴女は一心同体。離れられない運命なのです。」
シエラはニコニコ笑いながらよくわからない理由をつけてアリアの願いを却下した。アリアの持っている籠をそっとトカゲ男に手渡して少し距離を取る。悲しそうな顔のアリアをお姫様抱っこして地面を蹴り猛烈なスピードで移動を開始する。
「なーんーでえぇぇーーーーー!!」
悲痛な叫びとお菓子をその場に残し不審者は去っていった。それを目撃したトカゲ男と子トカゲは目を点にして呆然と立ち尽くしていた。
トカゲ男は5時間前に村に帰って来たばかりです。生き残りに話を聞き、移住の提案をしている所でした。まとめ役も討ち死にしたため生き残りを説得していた。弟が村におり、顔を見に来たが、既に亡くなっていました。小さな頃、閉塞的な村に嫌気が差して旅に出ていました。名前はダリオ。強さは下の上程。lv35ぐらいの想定です。