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アリアの暇潰し世界探訪  作者: 南部忠助
6/12

生き物発見

アリアとシエラは桜の木の下でテーブルを挟んで談笑している。二人とも酒は好きでは無い様でお茶を楽しんでいる。今回はミルクティーにスコーンの組み合わせだ。残念ながら見たことのないものは作成できないためシエラが望んだ和菓子と緑茶は作ることができなかった。米粉があれば作りますとまで言っていたがコメがわからないアリアにとってはどちらも作り出すことはできなかった。


「アリアさんにも"和菓子"を知って貰いたかったです。スコーンももちろんおいしいですがまた違ったおいしさがあります。」


「この桜があったんですからきっとこの世界のどこかにありますよ! その時には作ってくださいね!」


他愛もない会話をしながら桜とお茶を楽しんでいた二人だった。その時である。


ズドーンッ!!


遠くで大きな音がなった。


「およそ5km先で何かが起きたようですね。少し確認に行きませんか?」


驚きで固まっていたアリアへシエラが言った。身を竦めて音のなった方をみていたアリアは"なんで!?"と言いたそうにシエラを見た。


「気になりませんか? 面白い物が見れるかもしれませんよ。」


ドーン!


再び聞こえてくる。断続的に聞こえるようになった音に怯えたアリアが言った。


「い・・ いやいや絶対これ何か暴れてますって! ドラゴンとかだったらどうするんですか!」


「さすがにまだドラゴンはいないでしょう。魔物は発生まで時間がかかります。天球が稼働を開始してから先程の空間で12時間程しか経っていません。哺乳類の発生が早かったのでそれを計算に入れても大型の魔物が現れるのはまだ先と思われます。それに安全策として天球で確認することもできます。私は現地確認がお勧めですがどちらがお好みですか?」


「まだ見に行くとも言ってないのにぃ・・・」


小声で抗議したがシエラは見に行く方向で決定しているらしい。仕方が無いので安全策の天球で確認を提案することにした。


「じゃ・・ じゃあ怖いので天球で見ましょう!」


「アリアさん。 ・・・臨場感って大事だと思いませんか?」


"この人最初から選択肢を用意していない!!"アリアがそのことに気づいた時には文字通り飛ぶように移動するシエラの小脇に抱えられ強制連行されていた。現実離れした移動方法に顔面蒼白のアリアは遠くなる桜とティーセットを思いながら"次は相談する前に家に戻ってしまおう"そう心に決めるのであった。


そうこうしている間にとんでもない速さで移動するシエラの眼前に土煙が立ち上っているのが見えてきた。丈の短い草むらは巨体のぶつかり合いで荒れ果て土がむき出しになっている。最初は火山活動か地殻変動の類と高を括っていたがどうもそうではない。それを100m程離れた岩場で観察する。


「アリアさんすみません。見当が外れました。ドラゴンです。」


「ッ! はっ・・ 早く逃げないとッ!!」


アリアが顔をあげ前方を確認すると17m程のドラゴンが争っている。その光景に軽いパニックとなりじたばたと暴れている。しかしそれをがっちりと小脇に抱えたままシエラは目の前の争いに目を向けていた。ドラゴンは翼が無く代わりに発達した後ろ足で力強く立っている。頭には大きな二本の角、尾は長く先にはハンマーの様な突起がついている。時折頭を打ち付け合い凄まじい音を発している。長い尻尾で巧みに体重移動を繰り返し致命傷を避けながら一進一退の攻防が繰り広げられている。濃い茶色の鱗が剥がれ落ち血がにじむ傷が痛々しい。片方のドラゴンの角が一本折れており激戦であることがうかがい知れる。辺りの岩場には激突したのか砕けた石が転がっていた。


「どうも生命の発生が早すぎます。哺乳類の件もそうです。天球へ大量の魔力を与えたのは事実ですが限度があります。なぜここまで早くに魔力を核とする生物が発生しているか見当がつきません。大型のドラゴンはもっと安定期に入ってから誕生するはずなのですが・・・。 どう思いますか?」


シエラがアリアに問いかける。しかし、いつまで経っても返事が無いのでそちらに目を向けるとぐったりしている。どうも落とさないようにがっちり抱えていたため締まっていた様だ。とりあえずそっと地面に置いて謝ってみる。


「あの。 ・・すみませんでした。」


「ひ・・ ひどいです・・・」


弱弱しく抗議するアリアに謝罪を繰り返す。思いがけずに現れた存在に気を取られ配慮が欠如していた様だ。落ち着いたのかようやく起き上がり岩陰からこそこそとドラゴンを観察し始めたアリアが言った。


「ところであのドラゴン達は何をしているんですか?」


「見る限り同種の様です。縄張り争いか何かでしょう。あまり知能は高く無い様ですから戦闘訓練などではないでしょう。一部の知恵あるドラゴンは社会を形成しますがその場合も二頭だけで訓練は行いません。」


話している間にも激闘は続き、片角のドラゴンが回転しながら尻尾で相手の顔を弾いた後向き直り大きく息を吸い込むのが見える。


「ブレスです。少し身を屈めてください。」


言い終わると同時に強烈な閃光が辺りを照らした。轟音を上げながらもう一方のドラゴンに直撃し吹っ飛ばす。尻尾の直撃を許し回避行動を取れなかったドラゴンはもんどりうってアリア達から10m程の岩場に飛んできた。ドラゴンが砕いた岩が礫となって二人を襲う。大きい物は1m近い。


「あっ。」


身を屈める間もなくこれで死んでしまうのかとアリアは固まった。しかし目の前で礫はあっけなく撃ち落された。


「大丈夫ですか?」


全ての礫を素手で粉砕したシエラが事もなげに聞いた。呆然としたアリアは声が出ず頷いて返事をするが腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。


「ゴォォアァァァァァッ!!」


勝負が決まったようだ。片角のドラゴンが勝利の咆哮を上げる。負けたドラゴンはよろよろと立ち上がり息も絶え絶えその場を後にする。ブレスが直撃した左肩のあたりが抉れておりあのままでは長くないだろう。


「興味深い物を見ました。成果は上々でしたね。」


「ば・・」


「ば?」


「ばかぁ~~~~!!」


助けてくれたのもシエラだったがこの場所に連行してきたのもシエラだったため腰が抜けて立てない状況で精一杯抗議をするアリアだった。涙を流しふるふる震えながら力なくシエラのお腹のあたりをぽこぽこ叩いている。


「あ・・ あの・・・ えっと・・すみません。」


シエラは申し訳なさそうに頭を下げるばかりだった。






生存報告です。

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