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アリアの暇潰し世界探訪  作者: 南部忠助
3/12

お客さんが来たよ

アリアは朝も昼もない自室のベットでもそもそと寝返りをうっていた。

前回の失敗で少しやる気を失い、ふて寝している最中である。窓の外には何もない真っ黒な空間が広がっており、話し相手もいない寂しい場所だ。自分以外が発する音もなく耳が痛いほどの静寂に包まれている。最初のうちはとにかく眠ることで気を紛らわせていたがそれも苦痛になってきて物を作ることを開始。いくつかの成功をもって話し相手の復帰を試みるも失敗。今に至る。


「庭でも作ってみようかな。」


ぼんやり窓の外を眺めながらそんなことをつぶやく。喋っていないと言葉を忘れてしまいそうだからと思いついたことを出すようにしている。

そろそろベッドから起きようかともぞもぞしていると。


"コンコン"


アリアは飛び起きた。気のせいにしてはしっかりした音量で一階のドアがノックされたのだ。

ここ数ヶ月自分以外の発する音を聞いていなかった彼女は胸が痛いほど心臓が高鳴った。ベッドから飛び出し、足が床についた瞬間駆け出した。転がるように階段を降りカウンターを飛び越えて一階のドアを勢い良く開けた。というか勢いが良すぎた。


"ゴッ"

「あグっ!」


「!!ッ ごっ・・ ごめんなさいッ!!」


勢いよく開いた扉と近すぎた来訪者が激突した。丁度中の様子を伺おうとしたのか頭に当たったようで踊り場に倒れて額を抑えている。扉は外開きだった。アリアは駆け寄り謝罪を繰り返しながら助け起こす。


「大丈夫です。私は頑丈ですので。少し油断して転んだだけですから。」


来訪者が言う。かなりの勢いでぶつかったのに赤くもなっていないところを見ると本当の様だ。普通の人間であれば額が割れて出血していてもおかしくない状況だ。


「本当にごめんなさいっ! 初めてのお客さんで嬉しくって・・・。 私、アリアって言います!」


アリアが頭を下げながら謝罪し自己紹介する。来訪者は右手をひらひらさせながらにこやかに左手で前髪をあげ何ともないおでこを見せて無事をアピールしている。


「私はシエラ。特別製なのでよほどのことがなければ傷つきません。謝らなければいけないのは私の方なので顔をあげてください。本当はもっと早くにあなたと合流する予定だったのですが、ちょっとした事情で遅くなってしまいました。」


来訪者はシエラと言う名前らしい。肩まで伸びた髪は銀色で人形のように整った顔立ち。少しだけつり上がった目で瞳は赤くまるで宝石の様だ。色白で背は175cmほど。豊かな胸と引き締まったくびれがありいわゆるモデル体型だ。特別製と言っていたがアリアにはよくわからなかった。いずれにせよせっかく訪ねてきた客を前に立ち話も味気ないと思い店舗部分へ誘導しテーブルと椅子を作成し腰かけた。とりあえずお茶を作成したところ"お茶"だけ出てしまいテーブルの上が水浸しになるちょっとしたハプニングもあったが、二人で片付けしたため直ぐにきれいになった。今度はティーカップごと作り直し、お茶うけにバタークッキーも作成した。それに手を伸ばしながらシエラが話し始めた。


「私はあなた方継承者を保護するために初代が制作しました。先代が勇者を名乗る馬鹿者に倒されたためあなたが四代目となりました。あの程度の者達なら一蹴できたはずでしたが先代がそれを望まず討たれたためこのようなことになりました。その時に・・・」


あっさりと重大な証言が飛び出したため置いて行かれるアリア。たしかこうなる数か月前に魔王を倒すため遠くの国で勇者一行が旅立ったと行商人が言っていた。魔王はもちろん凶暴な魔物の被害も無い地域に住んでいたアリアにとっては対岸の火事と思っていた。そのことがまさかこのような形で我が身に降りかかるとは思ってもみなかった。恨もうにも当人たちはもう居ない。世界のためと信じていたことが結果的にあの世界を滅ぼすことになったなどなんとも皮肉な話しである。やり場のない思いが込み上げてきたが現状を飲み込もうと必死になっている頭から抜け落ちていった。


「アリアさん? 聞いてます?」


「は!? すっすみません! あまりに突然の話だったので・・・」


めまいを抑えながらシエラの話を理解しようと意識を戻し聞くことに徹する。前任者の記憶が少しだけ読み取れて現在の家を作成したが、それ以外の情報は一切見ることができなかったからだ。しかし、腑に落ちないのはこの話が本当であればなぜ世界を作り上げた【継承者】の先代が魔王として倒されたかである。アリアはおいしそうにクッキーとレモングラスティーを頬張るシエラに質問してみた。


「先代さんはなんで魔王と間違われたんでしょうか?」


「あぁ。それは人間が増えすぎたせいで戦争を仕掛けたからです。」


さも当然のような顔でシエラが言い放った。斜め上の返答にアリアは余計分からなくなってしまった。


「あ・・あのー すみませんもう少し分かり易く教えて貰えませんか?」


はっとした顔でシエラが補足の説明をし始めた。


「すみません。基本の説明がまだでした。断片的な記憶の引継ぎは多少あったと思いますが少し説明します。継承者が作る世界は広大ですが無限ではありません。世界を構成するのはアリアさんもご存知の魔力です。魔法を使ったり錬金術を使ったりと様々なことに使われているあれです。基本は役目が終わると光脈と呼んでいる流れに戻って行くように作られていました。ですが、生物に取り込まれている魔力はその生物が死ぬまで戻ることはありません。多かれ少なかれ生き物は魔力を持って生きています。その中でも特に魔力を内包する力の高いものが人間や魔族、エルフの三種族です。これらの者たちが増え過ぎると魔力の均整が崩れてしまいます。そうなると世界を構成している魔力が足りなくなり崩壊します。そのために世界の管理者である継承者の出番です。言い方は悪いですが間引きを行ないます。先代は『小細工は好かない』と言い自ら魔物を率いて三種族と戦争を起こしていました。そのため魔王の呼び名はあながち間違っていないのです。」


何やってんだよ先代!!と口から出そうになったが踏み止まった。考えはそれぞれで然るべきだがもう少し軋轢が出ないように出来なかったものだろうかそんなことを思いながらアリアはもう一つ質問をしてみた。


「なんでやられてしまったんですか? シエラさんも手出ししないように止められたようですけど?」


「それは先代が勇者との戦闘に満足したからだそうです。功名心や金への興味も全く無く、ただ世界のために命を懸けるその姿に。」


それで滅んでたら世話ないよ!!と本気で思ったが本人がいないので無駄と思いアリアは口には出さなかった。満足したからと積み上げて来た物を壊してしまうようなことを果たしてするのだろうか。まして自らが戦ってでも維持しようとした世界を。まるで子供の砂遊びである。しかし、それとは別にもう一つ聞いておきたいことがあった。


「どうして私が四代目に選ばれたんですか?」


「それは完全にランダムです。指名できるものではありません。選ばれたのは不運、もしくは幸運です。継承者の目は引き継がれた瞬間赤くなります。今のあなたのように。」


シエラの言葉に壁に掛けられた鏡を覗く。しばらく鏡を見ていなかったため本人は気づいていなかったが文字通り目の色が変わっていた。本来彼女の瞳は母と同じ栗色だった。頭が目の前の事を整理することを放棄しそうになっているが現状が特殊なだけに飲み込まざるを得なかった。







個性がないという個性です。

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