失敗
日が差し込まない部屋の中、少し広めのベッドで体を起こし目を擦る少女が一人。
今日も孤独に耐えながらベッドから抜け出す。この状況に追い込まれてから食事を取っていないが空腹を感じることは無くなった。喉も乾かないので食料を作り出すことを考えてはいないが口が寂しい。
こうなる前は、母親に片付かないとせっつかれながらだらだら食べる朝食を楽しんでいた。そんなことを思い出しながら少し前に作り出した自身の部屋を見渡す。
「どうせだから一階も作ろうかな?」
アリアの部屋はもともと二階にあり一階が店舗部分であった。今は小物を作っても販売する相手がいないため店舗部分は必要無いが在って困ることもないかと作ることにした。店舗部分は広さが8坪ほどあり雑貨を置くための棚が設置されていた。今回は棚が必要ないので単純に部屋だけをイメージしていく。
「ふぅぅぅぅっ!」
掛け声をつけることで何が変わるかはわからないが今回も気合を入れている。防犯のために天窓しか設置されていない店舗部分。入り口から真正面にカウンターがあり支払いはそこで行っていた。カウンターの中には本棚が設置されており入荷明細や倉庫にしまってある在庫表などが保管されていた。本棚で隠れるように扉が設けてあり、そこを潜るとリビングダイニングキッチンがあった。リビングには階段があり、そこから二階に上がることができる。階段の脇には倉庫へつながる扉があった。小さな頃に勝手に入って叱られた記憶も思い出される。そういえば二階にあった両親の部屋には入った事が無く思い出せない。
そんなことを考えながら強くイメージをすると黒い色が流れ落ちるように一階部分が出来上がっていった。
「よーし!今回もうまくいった!」
「父さん達の部屋はできなかったけど十分十分!!」
一部再現できていない状態だったがイメージした物は再現できた。あくまで再現であって復元では無い。
木材を作り出すことはできても記憶にないものを直接再現はできないようだ。といえあえず元両親の部屋を新しい部屋をつくることで補った。
「一人で暮らすには寂しいな・・・」
アリアはぽつりとこぼす。元の世界が無くなってから既に三ヶ月以上が過ぎていた。人恋しさもピークを過ぎたと思っていたがそうでもなかったらしい。イメージで生み出せるのであればもしや人も創造できるのだろうかと試してみることにした。
「・・・・・」
いつもの気合の一声は無くただ静かに集中する。口うるさくも常に気をかけてくれていた母。栗色の瞳にアリアと同じ艶のある長い黒髪。似ているといわれるとどこかこそばゆいが誇らしい気分になったものだ。鼻筋が通っており少し垂れ目。背は170センチほど、派手さは無いが落ち着いた美人だった。
母の特徴を思い出し再現しようと試みるが一向にうまくいかない。次第に焦りが色濃くなってくるが諦めたくなかった。
「はぁぁぁぁっ!!」
気合の一声もあげてみるが変化は無かった。
アリアはがっくりと項垂れその場にへたり込んだ。
「物は出せたのに・・・」
今回も何とかなるのではと思っていたアリアは力なくつぶやく。真っ黒な空間に放り込まれてから先代と思しき記憶の断片が時折ちらつき自らの部屋を再現するまでには至った。しかし、ほんの一部しかわからずどうやって人々を産み出したのかわからない。何か物が必要なのか段階を踏んでいかなければならないのか見当がつかなかった。いずれにせよ今回は失敗である。
希望を持っていただけに打ちのめされたアリアは立ち上がりよろよろと自分の部屋に戻って行った。
座椅子が安かったので買ったのですが、部屋に持ち帰ると意外に邪魔で途方にくれました。