物作り始めました
「そうだ!世界作ろう!!」
まるで旅行にでも行くかのような軽い発言だった。
年の頃16~18歳位。髪は腰まで伸びた艶やかな黒髪。
大きくピジョンブラッドの様な色の瞳が目をひく少女だ。
背丈は168センチほどで瞳が印象的だがそれ以外は何処にでもいそうな見た目である。
彼女は無限に続く暇を持て余しそれを打開しようと行動に移す決心をしたのである。
なぜこんなに暇なのか。それは彼女が途方もなく長寿だったからだ。
【アリア・レイル】彼女が人として生きていた頃の名前だ。
今は神の真似事をしようとしている。時間切れを迎えた先代がその力を寄越したため人としての生を全うできず、先代と一緒に世界が無くなっても一人取り残されてしまったのだ。満足な説明もなく死ぬことができない体にされてしまい途方に暮れた。急に一人になり心細く涙を流した。しかし、割と前向きな思考が幸いしなんとか立ち直った。
寝ることが何よりも好きで両親からこっぴどく叱られても改善しなかった彼女にはある意味最適な生活だったのかもしれない。あくまでも人並みの寿命であればなのだが。いつまででも寝ていたいと思っていた彼女だったが二か月、三か月と経つ間に一つの思いが込み上げてきた。
「とんでもなく暇!!」
当然である。人生では両親が営んでいた生活雑貨店で手伝いをし、近所の同年代の友人と他愛もない話しなどに花を咲かせ、暇があれば趣味の小物作りか寝るという割とまっとうな日々を送っていたのである。
先代の力の譲渡から日が経つにつれて断片的な記憶が伝わってきておりある程度力の使い方がわかってきたこともあり冒頭の発言につながっている。
まずは練習のために日常で使っていた家具を作ることから始めてみる。先代の記憶から以前住んでいた世界がイメージで形作られていたことを理解し、思い出し易い愛用のベッドを作ることにした。
「むむむっ」
「ムムムムゥぅッ!!」
アリアが変な声を上げながらくねくね身をよじっている。15歳の誕生日に新調してもらった思い出の品だ。寝返りを打っても軋まないしっかりとした作りでウォルナット製の地味な見た目である。一生物だと両親が併せて手配したふかふかの羽毛布団も脳裏に浮かんだ。その瞬間パッと見慣れたベッドが現れた。
「やった!ほんとにでたッ!!」
できると信じながらも実際上手くいくと嬉しかったようで小躍りして喜んでいる。
旧世界が無くなってからはふわふわ漂うように生活しており特に寝床などにも苦労しておらず無縁だったがいざ思い出の品に出会うと無性に使いたくなってきた。
「あ・・あれ?でもこれって・・・」
ベッドに手を伸ばし横になろうとした瞬間気が付いた。
「浮いてるから寝られないじゃんか!!」
せっかく再会した相棒だったがふわふわ浮いている状態であれば話は違う。横になれないのだ。今アリアがいるのは先代が消え投げ出された宇宙のような空間なのだ。周りは塗りつぶされたような黒色。水や土というか見渡す限り何もない。空気もないがもはや人でなくなったアリアには関係なかった。そんな中で今更気付いてしまったのである。家具を作る以前に文字通り地に足をつける必要があったのだ。
「じ・・地面をイメージして大地を作って?」
「・・!不思議と作れるイメージが浮かばない!」
「もっとイメージし易いものは!?」
ふわふわ漂うベッドを見ながらアリアはここ最近で一番頭を悩ます。じりじりとベッドが離れていく中ようやく思いつく。
「あぁ!自分の部屋でいいじゃんか!」
基本的なことだったが久しぶりに見た自分以外の物で心が焦っていた様だ。まぁ地べたに直置きのベッドは誰でも思い浮かばないだろうから段階が早かっただけのようだが。
「ふみゅうぅぅ!!」
アリアがまた変な声を出しながら意識を集中しベッドよりも付き合いの長い自分の部屋を思い浮かべた。
広さは6畳ほど。入り口を開けると正面には両開きの窓が設けられており採光は十分、カーテンはエメラルドグリーンの両開き。入って左手には横2m縦1.5m奥行0.4mほどの棚がある。右手にはウォークインクローゼットが設置されていた。その部屋から家具が勝手に飛び回らないように床に引き寄せられるイメージも同時に行った。
すると霧が晴れるようにあたりの黒い色が晴れていき思い出の場所が目の前に還ってきた。
数か月前に失ったいつまでもあると思っていた光景が目の前に広がり歪んで見える。気づくとアリアの頬を熱いものが流れ落ちる。しょうがないと割り切って忘れようとした事を思い出し無意識に流れ出してしまっていた。彼女はそれを手で拭い、軽く頬を張った。
「思いがけない長そうな余生。楽しまないと損だよね!」
そう声を張ると次は何を作り出そうか思案しているようだった。
これ続くのか・・・?