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四話 スキル、ゲーーーット!

 壁に張り付いている俺は、ちょうど足元とも言えるそこに落ちている石コロに舌を這わせ、グルッと包み込むように器用に動かしては、舌で掴んだ石コロを口の中へと放った。


 コロコロ、コロコロ。

 

 正直、石を食うなんて気が引ける部分はあったのだが、それでも何も食わずに居れば結局死んでしまうだろうし、なにより二つのスキルがあるから意外と大丈夫そうな予感はしていた。


 

 ひんやりとする感触の中、別段土臭さも感じないし不快感もまるでなかった。

 というかむしろ、うまいとさえ思える。


「へぇ~! コーラみたいな味がするんだな――。石コロって」



 おそらくパッシブスキルの[珍味佳肴ちんみかこう]で引き上げられた特殊味覚のおかげだろう。数値が低かったらどんな味がするのかは分からないが、こうして美味を感じることが出来るのだからあえて試す必要はないだろう。


 ゲーム内のオブジェでありながら、[暴飲暴食ぼういんぼうしょく]によって食事出来るようにし、[珍味佳肴ちんみかこう]で食べれる味にする。

 これはきっと肉体を持ってゲーム内に転生するがゆえに、女神様が用意してくれた最低限の配慮なのだろうと俺は思った。



 

 とりあえず自分の状況も把握したし、問題なく動けることも食事についても一応はクリアしたのを確認すると、不思議と少し落ち着いてきた。


 口の中の石コロを噛み砕き、新たな石コロへと舌を伸ばす。

 安心したら食欲が進んできたのだ。


 

「ってか、マジでうめーな石コロ! おやつ感覚でパクパクいけちゃうんですけど!」


 次から次へと口の中に石コロを運び、たまにグレープコーラっぽい味がする石コロを”当たり”と名付けては、鼻歌交じりに夢中で食いまくった。


 二十個ほど目だろうか、流れ作業のように口の中へと石コロを運んでいた際に、脳内で突然”キュピーン”という謎の音が響き渡った。


 その音に驚いた俺は食事を強制的に一時中断させられると、視界の左側にあるログが埋め尽くされていることにふと気が付いた。



 ――《捕食ボーナス1獲得》――、というログが上から下までズラッと並び、一番下には《LEVEL UP!》の文字がある。


 どうやらさっきの甲高い音はレベルアップ時に流れたアナウンス的な物のようだ。


 ”捕食ボーナス”というのが気になり、<ヘルプ>でゲーム仕様を確認した所、種族または職業ごとに設定された特殊ボーナスって仕様と見ていいだろう。

 ヒーラーであれば回復、タンクであれば防御など、それぞれに対応した行いによって何かしらの恩恵を得られる類の物のようだ。


 さすがに俺の”口先”という種族については載っていなかったが、口という関連からすると捕食した際に特殊ボーナスを得られると考えるのが妥当だろう。そして俺の場合はそれがそのまま経験値として加算されるようだ。


 

 意図していなかったとは言え、レベルアップしたのは大きい。

 今後生き抜いていく為にも強くなる必要性がある。その為にはレベルを上げることが大事であり、今の俺には最優先事項だ。


 今の自分がどこまで通用するのかも、どのくらいのレベルまで上げればいいのかも分からないが、とりあえずは安定した状態に成るまでなるべく早く持っていきたい。


 いくら序盤で弱いモンスターとの戦闘であろうとも、死んでしまってはリアルでゲームオーバーなのだ。


 本来なら序盤は気兼ねなく戦闘出来るはずだろう。チュートリアルも含め、ほとんどのゲームはそういうものだ。

 だが実際に生きている俺は、その法則から外れる道を選ぶ。念には念を入れ、着実な強さと確実な勝利を掴み取る事が大事だ。一戦一戦が、俺にとってはまさに命がけなのだから。



 というわけで、再び<ステータス>を確認してみることにした。

 さっきレベルが上がったし、どれほどパラメーターが変化したのか今後の参考の為にも知っておく必要があるのだ。



「ふむふむ、HPとMPが少し上がってるな~。攻撃力とかのパラメーターは変動してないから、やっぱりステ振りしないとダメか~。他との初期パラメーターの差が分からないから、俺が強いのか弱いのかも分からないなぁ」


 ゲームシステムから逸脱した種族である俺は、きっと女神様によって他とは違う初期パラメーターに設定されたはずだと仮定していた。

 それぞれの種族や職業ごとに得意不得意があり、初期パラメーターはもちろん数値の伸び具合も変わってくる。それについては<ヘルプ>で確認出来るのだが、いかんせん俺のことは調べることが出来ない。

 これはステ振りをするにあたっても重要なことだし、第一自分のことを分からないっては何とももどかしい気持ちだ。どうせなら、文句は言わずなんでもいいから、初期から選べる種族とかにして欲しかった。


 ってか、人間にして欲しかった。


 

 ふと<ステータス>にあるSTRの部分を舌先でタッチしてみると、<ステータスPt.2>の文字と共に、右を表す矢印が表示された。

 矢印をポチポチとタッチすると、一度タッチするごとに<ステータスPt>が減算され、[攻撃力]の数値が上がっていった。


 どうやらレベルアップしたことにより、ステ振り用のステータスポイントを2獲得していたようだ。



 だが俺はそこで立ち止まり、STRにポイントを振ろうとしていた作業を決定せずに取り消した。

 

 というのも、繰り返しだがステ振りは重要な要素の一つなのだ。

 特別なアイテム等を使わない限り、基本的に一度ステ振りをした後はリセット出来ない。それに適当にステ振りを行ったとすると、序盤はそれなりに問題ないが、中盤や終盤辺りに詰む可能性が高いのがこの手のゲームの常識だ。

 セオリー通りに考えれば、自分のキャラに合った得意分野に特化して強化したほうが、何かと都合がよく最終的に強くなれる。



  俺はもう一度自分のステータスをよく確認し、何が得意分野なのかを考察した。


 一番気になる点で言えば、最初からDEXに10ポイント振られているところだ。ここは通常であればオール1からスタートし、種族や職業ごとに能力値の初期パラメーターと数値の伸び率が設定されている事が多い。

 

 ”プレイヤーとして”の俺ならば、攻撃に長けたキャラを選び、STRに極振りして攻撃特化を目指すのが常だったが――、これはゲームであってゲームじゃない。


 俺にとって一番大事なのは”生き延びる事”。元の世界に戻る為に、一度でも死ぬわけにはいかないんだ。


 

 試行錯誤の末、俺はVITとDEXの二つを重点に置くことを決めた。

 器用を表すDEXを上げると、[命中率][回避率][クリティカル率][行動力]の能力値が上昇するようだ。伸び幅的には、一番は[命中率]、次に[行動力]が上昇しやすいみたいだ。

 [回避率]と[クリティカル率]は伸び率の設定が小さい為か、見た目上の数値は変わらなかった。しかし上昇を表す青色でマーキングされていたのを見ると、小数点単位で上昇しているのかもしれない。もっとDEXの値を上げれば目に見えて変わってくるだろうから、今後に期待だ。


 結構後からに――、なってしまいそうだけど。


 なぜならば、DEXにはステ振りしなかったから。うん、確認しただけ。


 最初からすでにステ振りされていたDEXと、[回避率]に注目したわけだけど、如何せん思ったよりも[回避率]の伸びが悪かったから躊躇したのだ。

 仮に数値の伸びがいいようなら、敵からの攻撃を避けまくることが出来るかもしれないし、[防御力]を上げるよりも攻撃自体が当たらなければ生存確率は上がるだろうと踏んだのだが、そう上手くはいかないようだ。。



 次に注目したのは生命力を表すVIT。ステ振りすればHPが上昇し、[防御力]も少し上がる。

 だけどぶっちゃけVITは、”プレイヤー”としての俺ならばステータスの中で一番上げないであろう部分だった。

 仮にVIT依存の職業があるゲームでもない限り、ほとんどの人は無視するであろう一つだ。いや、ダントツ一位と言っても過言じゃない。それほどVITの需要は少ないのだ。


 その要因として大きいのは、HPはレベルアップで増えるゲームがほとんどだし、HPの面でも防御の面でも装備でどうにでもなるのが多いからだ。



 だが俺は、それらを踏まえた上であえてVITにステータスポイントを2振り当てた。



 なぜならば――。



「HPが”1000”も上がったよお母さん!」


 思わず声を張り上げて叫んでしまった。

 その数値が高いのか低いのかは判断しかねるが、今までの経験で言うとこれはかなり高い部類だ。[防御力]の数値も4上昇し、俺は思った以上の変化を遂げた自分のステータスに感動した。


 生命線であるHPが多ければ多いに越したことはなく、たった2のポイントを振っただけで1000も上昇したとあらば、今後は率先してVITにステ振りすることを決めた。


 もし十分なほどのHPになった時やカンストしてしまったときは、残りのポイントはDEXに振るようにする。そうすればかなりの確率で生き延びることが出来そうだ。



 これで重要な部分であるステ振りの方針は決まった。


 あと把握しておかないといけないのは、”どう強くなっていくか”。噛み砕いて言えば、”どういう行動をとって成長していくか”だ。


 その方法がいくつかあるわけだが、とりわけメジャーな所を上げれば、


1.モンスターをひたすら倒す、俗にいう『レベリング』。

2.依頼された条件をクリアして経験値やアイテムなどの報酬を得る『クエスト』。

3.高い補正値をパラメーターに上乗せする、武器や防具やアクセサリーなどの『装備品』。



 細かく言えば他にも色々な手段はあるのだが、大まかに分類すると終着点はこの三つに行き着く。


 この中で俺にふさわしい物を消去法で考えると、まず2番は必然的に除外される。

 だって『クエスト』を受ける為のNPCは、基本的に街にいるんだもの。


 得体の知れない”口だけの何か”が、「うふふふ」と地面を這いずり回っていたら街の中はプレイヤー達の悲鳴で満たされることは間違いないし、それだけで済めばいいが取り囲まれてタコ殴りにでもあった日には、腫れた唇になって俺は天に召される事だろう。


 だから2番はなし。絶対なし。


 3番についてだが、このSSOでは職業ごとに決められた装備しか出来ない仕様になっている。剣士であれば剣を、魔法使いであれば杖をと、他職の武器はそもそも装備すら出来ないようだ。


 ここで一つの疑問が出てくる。


「俺の適正武器ってな~に?」


 これだ。

 種族が口先で、職業がニートだなんて、何の武器が装備出来そうかすら予想も付かない。むしろどうやって装備するのかも疑問だし、そもそも装備出来るのかすら危うい。


 いや待て、確か<メニュー画面>には<装備>のコマンドがあった。


 つまり、何かしらの適正武器が用意されているはずだ。

 女神様が用意してくれた俺専用の武器なのか、元々ゲーム内にある武器なのかは分からないが、何かしら装備は出来ると見ていいはずだ。


 今は所持していないが、俺の適正武器を見付けるのも今後の予定リストに加えておこう。


 

 そして残った1番。これが一番オーソドックスであり、RPGゲームにおいて避けては通れない道だ。むしろあえて先には進まず無駄にレベリングしてしまう派の俺にとっては、もはやゲームの醍醐味と言ってもいいかもしれない。


 圧倒的な力で敵をねじ伏せる優越感、これがたまらなく気持ちいのだ。


 

 とりあえず1番の『レベリング』を主に考え、その中で『装備』を探す事を念頭に置くことにした。


 <レベルアップ>によるステータスの部分はこれでいい。だがもう一つ重要な要素がある。

 


 それは――、スキルだ。


 レベルアップ時に得たステータスポイント同様、スキルポイントの方も2獲得していたのだ。

 

 <メニュー画面>にある<スキル>のコマンドをタッチし、スキル一覧画面を開く。

 <パッシブスキル>、<アタックスキル>、<サポートスキル>の三つの文字が縦に並んでいるので、俺は迷わず<アタックスキル>をタッチした。


 戦闘においてもっとも大事な攻撃系スキル。これは絶対に取得しておきたい。


 画面が切り替わると、灰色の丸型アイコンが一つ中央に表示された。その丸からは枝分かれするように二本の筋が下に伸び、その筋の先にも同じようなアイコンが存在している。

 どうやらビッグツリーシステムという名の仕様のようで、必要ポイントを消費してアイコンに対応するスキルを取得すると、次のスキルアイコンが解放される仕組みの様だ。

 おそらく下に行けば行くほど豊富なスキルが解放されていくのだろう。


 最初は一つのアイコンしか選択することが出来ないので、とりあえず俺は目の前のアイコンをタッチしてみた。


 そこには必要スキルポイントが2とだけしか表示されず、どんな内容のスキルかは一見分からない。

 ゲーム上の仕様なのか女神様の仕業なのかは判断しかねるが、本当は取得する前に知りたかったという気持ちを抑え、わめいてもしょうがないのでポイントを全てつぎ込んだ。

 

 すると、灰色だったアイコンが金色の枠に包まれ、水滴を表現するかのような模様と共に鮮やかな色へと変化した。そしてそれと同時に”リンッ”と鈴の音が一つ響くと、ログにシステムメッセージが表示された。



《アタックスキル『口角飛沫』を取得》




 こうして俺は、ゲーム内に転生して初めての、攻撃系スキルを手にしたのだった――。

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