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十二話 新住居キター

 立ち並ぶ木々が数を減らし、開けた視界の先にはまるで隠れ潜んでいたかの様にひっそりと姿を見せる、小さな池があった。その近くには年季の入ったロッジ風の建物が存在し、多くの樹木が周辺を取り囲んでいる。

 なにやら森の中に存在する、憩いの空間的な場所に俺は辿り着いたようだ。


 一歩踏み込んでみると――”安全区域”――の文字が一瞬視界に広がっては消え去った。どうやらこの空間は、モンスターが近寄らないエリアとして設けられているようだ。


 開けた見晴らしのいい場所ではあるが、見渡す限りではプレイヤーの姿は見当たらない。

 とりあえずはモンスターからもプレイヤーからも襲われる危険性は少なそうだと判断した俺は、せっかく気持ちいの良い場所というのもあり、大手を振って散策する事にした。



「ピュピュピューイ!」


 遮る物が無い開放的な場所だからだろう、ピューイが元気に飛び回りとても楽しそうにしている。


 するとピューイは池の水面に映る自分の姿に一瞬「ピュッ!?」――と、ビックリする様な素振りを見せると、おそらくモンスターだと勘違いしたのだろうが勢いよく池の中へと『ハードアタック』で飛び込んだ。


 ポチャン――、と小さく鳴る音と共に、少量の水しぶきが宙に舞う。

 俺は慌ててその場に近寄り、池の中を覗き込んだ。


「お、おい――っ! ピューイ大丈夫かっ!?」


 すると、まるで肩を落とし落ち込むかのように翼を下げるピューイが、池の中からボタボタと滴を垂らしながらゆっくりと浮上してきた。


「――ぷっ、あははははっ!」


 俺はそんなピューイが可愛らしくて面白くて、思わず腹を抱えて笑い声を上げてしまう。


 ピューイもあれはモンスターじゃなかったと理解したのだろう――、笑う俺に対して照れ隠しの様に勢いよく胸の中へと飛び込んで来ては、「ピュゥゥゥ……」と小さく鳴きながら翼でペチペチと胸を叩き続けている。


 なにこの生き物、可愛すぎる。



「――ははっ、分かった分かった! 悪かったって!」


 俺は胸の中で暴れる小さな反抗期をなだめ、頭を撫でてやると少しふてくされながらも落ち着きを取り戻した様だ。



 それからはピューイを頭の上に乗せながら歩みを進め、気になっていたロッジ風の建物を前に一度足を止めた。


 三段程の階段を静かに上り、抜き足差し足で音を立てないように窓際へと身を寄せる。

 中を覗き込んでみた所、一人の人影が視界に映り込んだので一瞬ヒヤっと焦りを覚えたが、よくよく見てみるとその人影はプレイヤーではない事が分かった。

 ノンプレイヤーキャラクター、俗に言うNPCだ。


「はは~ん、なるほどね。サブクエストを受注出来るNPCがいたから、ここは安全地帯だったわけか」


 このエリアの意味と相手がただのNPCだと分かった俺は、正面の扉を開けて建物の中へと足を進めていった。



 中にはレンガ調の暖炉や古びた木製のテーブルや椅子が配置してあり、入ってすぐの床には大口を開けた平たい熊が敷いてあった。現実世界でこんな物を敷いてる家があるとすれば、そこの主は単なる金持ちか、ただの変人だろう。


 とりあえず部屋の中央でひたすらに棒立ちしている爺さん――、もといNPCに話しかけてみる。

 頭上に表示されている名前からすると、<隠居暮らしのロナルド>と言うらしい。見た目の割にカッコイイ名前をしているのが若干腹立つな。



「こんな所にお客さんとは珍しいのぉ、ゆっくり休んでいくといい。自然に囲まれた気持ちの良い場所じゃから、身も心も休まるじゃろうて。わしは隠居してからはここに住むようになったんじゃが……、最近年のせいかどうも体が言う事を聞かなくての。お前さん、良かったら一つ頼まれてくれんかね? 干し肉を作るのに、”ポッチャリ肉”を5つほど持ってきて欲しいのじゃ。もちろんお礼はするぞい、その際はわしの宝物をあげよう」



 どうやら指定のアイテムを必要とする、お使い系のクエストみたいだ。

 サブクエストは達成時に報酬として、ゴールドや経験値、アイテムなどが手に入る。今回のクエストでは100ゴールドと100経験値、そしてレアメダルなる物がもらえるようだ。


 とりあえず俺は受注だけ済ませて、外へと出る事にした。

 サブクエストで指定された”ポッチャリ肉”とかいうアイテムは、おそらくこの森に棲むモンスターからドロップするのだろうが、今やるべき事はまず身の安全の確保が先だ。モンスターに襲われる心配がないとはいえ、プレイヤーがここへやって来る可能性はあるのだから。



「さーて、どうすっかなぁ……。モンスターにもプレイヤーに絶対見つからない隠れ場所を探さないと」


 いくら身を潜ませるのに適した森林地帯と言えども、モンスターにもプレイヤーにも絶対見つからない場所を確保するってのは、正直難しい。

 木の上って手もあるけど、見上げる事の出来るプレイヤーには見つかる可能性がある。

 土の中はどうだろうかとも考えたけど、アクティブモンスターに見つかる可能性があるし、地上付近はなるべく避けたい所。そもそも呼吸出来るのかが怪しい。


 この安全区域ならモンスターに襲われる可能性を完全に除外出来るけど、隠れるのに適した場所が見当たらない。

 池の中はずっと入っていたら冷たいだろうし、何より間違いなく溺死する。

 

「あぁクソッ! ロッジの中も隠れる所無かったし、俺の頭じゃもう思い付かねーぞ!?」


 俺は頭をかきむしりながら、天へと苦悩の叫びを上げた。


 このままじゃマズイ、マズ過ぎる……。まだ安定した強さまでレベルも上がっていないし、闇雲に隠れるだけじゃいずれ見つかる。



 焦りと苛立ちが胸に込み上げてくる中、ふと視線の先に映っている”とある物”に気が付いた。


「……待てよ。もしかしたら――」


 俺は自慢の跳躍力でロッジの屋根へと上り、気になった”それ”へと近寄る。


 屋根から突き出るように存在する箱型の筒――、そう”煙突”だ。


 

 上から煙突の中を覗き込んでみると、煙突を模しただけのオブジェだからか、現実の物のように家の中まで空洞が続いているわけではなかった。

 それは覗き込んですぐの場所が埋められており、まるで中央が凹んでいる箱型の筒だ。


 入ってみると、丁度頭だけが飛び出すくらいの高さで、丸くなるよう寝転がれば俺が後もう一人は入れそうなスペースがある。


 広さ的にはピューイを合わせても十分だし、なによりここならプレイヤーに見つかるわけがない。


「っしゃあああ! 新住居、キタコレ!」


 俺は煙突の中で興奮気味にガッツポーズを取り、この隠れ場所を新たな棲み処にする事を即決したのだった。



 <胃袋>の中から”うさぎの毛皮”を取り出し、敷物的な扱いで敷いてみる。

 ふわふわモコモコとした感触で肌触りがいい。即席だがそれなりには部屋っぽくなった気がする。


 とりあえずあぐらをかいて座ると、頭の上にいたピューイも降り出し、気持ち良いのか毛皮に擦り寄る様に体を添わせている。



 これで当面の居場所は出来た。後はここを拠点にレベリングをこなして、更なる強さを磨き上げていこう。

 


 ピューイと一緒に――、ここから始めるんだ。

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