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十一話 森林地帯へ!

 晴れ渡る青空に、白い雲。大地には青々とした草原が広がり、気持ちの良い風が穏やかに流れている。

 そう、俺とピューイは例の洞窟を抜けて外の世界――、フィールドに出ていたのだ。

 どうやらあのデカい亀がダンジョンボスだったようで、抜けた先にあった脱出用のゲートに俺達は見事辿り着いたのである。


 

 一面を小さな草花で彩られたそこを、俺はシャクシャクと音を鳴らしながらひたすらに歩いていた。傍らには翼を小刻みに羽ばたかせながら飛ぶピューイがいるわけだが、初めて見る光景に好奇心が躍っているのだろう――、まるで匂いでも嗅いで食べれるか確かめているかのように、時たまツンツンと草花に身を寄せている。


 <おやつ>で与えられる物しか食べれないとは思うのだが、その仕草が可愛らしいからあえて言う必要はないだろう。

 俺も外に出れたのは素直に嬉しいし、ピューイの気持ちも分からなくもない。


「ピュイィ……」


 さっきまで宙を飛んでたピューイは地面に降ると、小さく鳴くながら翼の先で地面をツンツンし始めた。


「どうしたピューイ、何かあるのか?」


 指差してるようにも思えるその仕草に地面へと視線を移してみるが、これといっておかしな所は見当たらない。しかしピューイは、頑なに地面を強くつついている。


 どう見てもただの土しかなく、困った俺は首を傾げていると、ついにスネてしまったのかピューイはそっぽを向いてしまった。


「なんだろう……。腹でも減ったのかな? ――あっ! ……おうふ」


 小一時間くらいに前におやつをあげた所だし、まさかなと思いつつもピューイのステータスを確認してみると、満腹度が20になっていた。


 なるほど。地面を突いていたのは、ピューイなりの「ご飯ちょーだい」だったわけか。前言撤回、まだ俺は全然ピューイの気持ちが分かってませんでした。



 という事で、ピューイへの謝罪も込めてステーキもどきを二つ出してみる。一つで満腹度はMAXになるのだが、こういうのは気持ちなのだ。計算どうこうは野暮ってものだろう。


「ごめんなピューイ、二つやるから機嫌直してくれ! な?」

「ピュピュピュイ!」


 ピューイは目の前に並んだ二つのご馳走に上機嫌になったのか、一つ高く飛び上がっては喜びを現し、もくもくとステーキもどきを食べ始めた。



 一分も経たずにそれは無くなると、ピューイはクルクルと宙を舞い、ご機嫌のダンスを俺に披露してくれた。

 俺はその姿が可愛らしいのと、機嫌が戻った事に安堵し、ホッと息を尽くのだった――。




 しばらく歩いていると、前方にあぜ道がある事に気が付いた。L字のように続いているようで、俺の視点からは直進と右に分岐しているように見える。角に位置する場所には看板があり、一人のプレイヤーと思しき男が必死にジャンプしている。

 おそらく看板の上に立とうとしているのだろう。たまにいるんだよな、ああいう意味の分からない行動をしている奴が。


 俺は見つからない様に姿勢を低くし、ピューイも俺にならって草の間から見つめるようにジッとしている。


「いいかピューイ。あれはプレイヤーと言って、俺達の”敵”だ。見かけたら――」

「ピュー!!」


 敵というフレーズにピューイは反応すると、俺の言葉を最後まで聞かずにその場から飛び出した。

 俺は慌ててピューイの体ごと掴み取り、顔の前に持ってくる。


「おいおい待て待て。好戦的なその粋は良しとするけど、見境なく攻撃しちゃダメだ。中には俺達を瞬殺出来る程強い奴だっている。だから、プレイヤーを見かけたらまず”様子を見る”、そして”逃げる”! 分かったな?」

「ピュイッ!」


 ピューイは翼で敬礼し、ちゃんと俺の言葉を理解したようだ。なかなかに出来た子である。さすがは俺の子だな。




 上る事が出来ず諦めたのか、さっきのプレイヤーがいなくなったので看板の背から前に回り込んでみる。

 <←黄昏の湖畔 ↓始まりの街>と表記してあるのだが、おそらく『始まりの街』というのがゲームスタート時の最初の出現ポイントなのだろう。


 俺の場合は街に行けない大人の事情があるわけだし、この先進むべき道は左に続く『黄昏の湖畔』って所が残されるわけだが――、そこには行かない。


 俺の経験則と今の状況を照らし合わせて考えた所、『黄昏の湖畔』にはプレイヤーが多い可能性があると導き出されたのだ。そこがフィールド扱いなのか街扱いなのかは分からないが、最初の出現ポイントが『始まりの街』だとすると、メインストーリーを進めるには『黄昏の湖畔』に向かう可能性が非常に高いと踏んだのだ。

 なぜなら、道と共にご丁寧に看板まで設置されているから。しかも分岐先の選択肢は一つしか選ぶ事が出来ない以上、『始まりの街』から来たのなら必然的に『黄昏の湖畔』に向かうしかない。


 だとすれば合点がいく。超人気タイトルゆえに、多くの新規プレイヤーが毎日この世界にやって来るはずだが、俺が最初にいた洞窟にはあの三人のプレイヤーしか訪れなかった。


 それは何故か?


 ――”メインストーリーの進行ルートから外れた場所だったから”――。おそらくは、そういう事だろう。

 


 ここまで完璧な推測が出来れば後は簡単だ。『黄昏の湖畔』には行かずに、あえて”逆”に進もうじゃないか。


 右手に広がる草原を抜けたその先――、たくさんの木々が立ち並ぶ”森林地帯”へと。







 見渡す限りに連なる多くの樹。若く細いものから大樹のような太いものまで入り混じり、自然豊かに生い茂っている。天を仰げば青々とした無数の葉が空を遮り、その隙間から零れるいくつもの細い日差しが真っ直ぐに地を照らしている。


 俺は枯れた落ち葉を踏み鳴らし、両手を広げて深呼吸をする。

 キラキラと輝く天の光を浴びながら、新鮮で綺麗な空気を堪能してみると、不思議と穏やかな気持ちになっていく気がした。


 樹齢何百年の設定なのだろうか、一際太い大樹を前に立ってみると、まだまだ俺なんて子供だなと感じてクスリと自然に笑みが零れる。


「デカいな……」


 俺は静かに呟き、遥か頭上にまでそびえる大樹を相手に、「……せいっ」と軽く拳を当てる。

 まるで自分が赤子のようで、クスクスと小さな笑いが増々零れる。


 ”俺も立派に成長してみせます”と、今度は強めに拳を放つ。


「大先輩に、せい――っ!」


 大樹はその身を揺らすことは無かったが、軽く葉がざわついた様に俺は感じた。

 ふと上を見上げると、一枚の葉がヒラヒラと落ちて来るのが見える。

 俺はそれを人差し指と中指の間で挟む様にして取ると、目の前へと構えては遠くを見つめる。


「俺は、まだまだ”青い”って事か……」


 


 ふと視線に気が付いた俺は横目で確認すると、隣でピューイが俺の顔を覗き込んでいた。まるで不思議なものでも見ているかの様に、顔の近くで静かにしている。


「見るんじゃない」


 俺は一言だけ言い放ち、掴んでいた葉を口の中へと放っては、何事も無かったかの様に冷静を装って再び歩き出すのだった――。



 口の中ではお茶に似た味が広がり、……ほんのり苦かった。

 

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