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5.力

 キラは耳に激痛を感じて飛び起きた。


「いだっ」

 魔獣の襲来か?

 寝ぼけ眼で立ち上がり警戒すると、トンと後ろから押され、たたらも踏めずに草原に顔を突っ込む。

「な、何していますの?」

 隣から鈴を転がしたような笑い声が聞こえた。リリィだ。

 顔についた草を払い、目をこすってみてみると、彼女が目の端に涙をためていた。

 これからの人生でもめったに見ないであろう美人は、とうとうお腹を抱えてしゃがみこんでしまう。

「何がそんなに……?」


 ――お前だよ、ネボスケ


 まだ夢と現実の狭間にいるという証拠だろうか、キラは前にも聞いたようなことのある声を耳にした。

 それは後ろからで、恐る恐る振り返ってみると、そこには白馬のユニィが歯を剥き嘶いていた。

「ねえ……」

「ふふふ……全部ユニィの仕業ですわよ」

「いや……あの、じゃあ……しゃべる馬って、いるの?」

「あらあら、まだ寝ぼけていますわね。さっぱりした方がいいでしょう」

 リリィがキラの目の前までにじり寄ってきて、その人差し指を向ける。

 すると、指の先に水玉が浮かび、かと思うとヒュンとキラの鼻先めがけて飛び込んだ。

「うぶっ」

 バシャッ、としぶきが上がる。

「水も滴るイイ男、ですわよ。はい、タオル」

「……ありがと」

 キラはしばらく首をかしげていたが、タオルで顔を拭いてさっぱりすると、すでにそのことを忘れていた。

「キラ君、起きたかね?」

「あ……はい」

「ん。ならば早く朝食にしよう。そのあと、試合だ」

 キラは新たに燃え上がる薪の前で、ランディの差し出した干し肉を手にした。ユニィを見ると、挑発するようにその馬面を縦に振ってパカパカ口を鳴らしていた。




 キラは剣を構え、少し距離を置いて立つリリィを見た。

 彼女の準備は万全のようだった。銀色の胸当てに、ひざ上までの脚の甲冑。

 構えた剣は、白銀に輝いていた。


「さて、確認だよ。リリィ君が約一分間、キラ君を全力で攻める。キラ君は、それに耐えきったら勝ちだ」

「た、耐え切ったら?」

 キラは緊張して、よく回らない口で聞いた。

「一太刀も浴びない、降参しない。それと……まあ、それぐらいかな」

「一度も傷つくな、と?」

「うむ、一分だからね」

 ベヒモスやオーガを、ほとんど一瞬で消し去ってしまった人物の全力を受け止めることになるのだ。柄を持つ手に力が入る。

 リリィも同じように構えているはずなのに、その姿はとても自然なものに見えた。

「そしてリリィ君は――」

「魔法を使わない。剣の腕のみで、ですわよね?」

「そう。二人ともわかったなら……いくよ――はじめっ」


 老人の合図とともに、リリィが動いた。ぐわりと紅が大きくなり、ほとんど一瞬で眼前に迫りくる。

 白い剣がきらめき――キラも何とかそれに合わせて、剣を振るった。

 金属音が響き、辺りにその余韻がわたっていく。

「うぅ……!」


 重い。


 彼女の細い腕のどこにそんな力があるのだろう?

 そんなことを思う暇などなく、返しの剣が狙ってくる。

 それも何とか剣で防ぎ――と、キラはぐらりと後ろに傾いだ。

 たったの二振りで、完全に力負けした。

「さあ、どうしますっ?」

 剣をわきに戻すリリィ。

 こんな体勢で彼女の太刀筋を受けきれるわけがない。


 ――だからキラは、わざと転んだ。


「なかなか!」

 キラが沈んだことでリリィの剣は空を切ったが、彼女は追撃の手を止めなかった。

 またも基礎的に構え、今度は真上からの大振り。

 キラは体制を整え――ようとしたが、膝立ちの状態で剣を掲げ、受けとめる。

 手に、腕に、心臓に、足先に。

 全身にその衝撃がいきわたり、地面に吸収された途端、強大な力に耐え切れずにひび割れた。


「病気もちなのに、ずいぶん強靭な体ですわね……!」

 リリィはそれに驚いたようだ。

 キラにもそれが隙というものだとわかり、リリィの剣を切っ先に受け流す。

 ほんのわずかだが、そこで彼女の体勢が崩れ――キラは素早くその綺麗な首に剣を突きつけた。

 

「嘘……」

 リリィは今度こそ目を瞠り、そしてキラも、

「あ、あれ……?」

 自分のやったことに驚いていた。

 リリィの大振りを受けた時から、無我夢中で何が何だか覚えていなかったが、状況はキラの勝ちであった。


「ほら、二人とも。勝負はついているよ」

 キラは老人の声でハッとし、慌てて剣をひっこめる。

 そしてリリィは目に涙をため、白銀の剣を放り投げてキラの身体をべたべたと触りだした。

「お怪我は?」

「だ、大丈夫だよ。リリィは? 首は大丈夫?」

「問題ありません。それより胸は? 苦しくなりませんでしたの?」

「いや、別に……」

 それでもリリィはぺたぺたと体中を触ってくる。

 キラは、自分でも不思議なくらいにぴんぴんとしていた。あれほど痛烈な剣撃を真正面から受け止めたのに、何ともない。


「キラ君の身体は、とても強靭のようでね。さっきのを受け止めたとなると、ベヒモスの突進も素手で受け止められるんじゃないかな」

「そ、そうなんですか?」

 大げさなのではないか? キラはそう思いながら老人を見たが、彼はいたって真面目に頷いた。

「うん。ほら、君には目覚めた翌日に畑仕事の手伝いをしてもらっただろう?」

「ええ、そうでしたね。でも、普通でしょう? 目が覚めたんですし」

「いやいや。君はその前に、荒波にもまれて海岸に打ち上げられたうえ、脳に異常をきたして記憶喪失にもなっていたんだよ? 普通なら一週間は動けない……というより、目覚めるのにもっと時間がかかるはずだよ」

 苦笑する老人を見ると、本当に当たり前のことではないようだった。

 キラとしては、拾われてから目覚めた朝も、普通に寝起きした朝も変わらないのだが……。


 この会話を聞いていたリリィが、半ばキラに抱き付いたまま、ランディを振り返った。

「あの。ではキラは、魔法を使えず治癒の魔法も効かない代わりに、強靭な体を持っているということですか?」

「いや、それはおそらく違うね。確かに人並み外れた強靭さだが、人という枠組みを外せば……例えば竜人族と比べてみると到底かなわないよ」

「そんなの当然でありましょう?」

「そうかな? 私の〝高速治癒〟には、他の種族を圧倒する特性がある。心臓を切りつけられても、眼球を傷つけられても、即座に治るんだ。ヴァンパイアにだってこんな芸当はできないさ。……不本意だが、だからこそ〝不死身の英雄〟だなんて呼ばれてるんだ」

「ではキラには、まだランディ殿にもわからぬ力が秘められていると?」

「うむ。ただ現時点で特定することは難しいだろうね……」


 キラは現状から脱出したかった。リリィが心配そうに何度も何度も頭を撫でてきて、そして後ろからユニィが小突いてくるのだ。

 が、リリィの抱き付く力が思いのほか強い。彼女の煌びやかな胸当てが胸にゴリゴリ当たり、とても痛い。


「だが、彼の真の力を――〝神力〟を引き出すには条件があるものさ。実際私もそうだったんだが……もう五十年以上も前のことだ、とんと忘れてしまったよ……」


 キラはハッとした。力で抜け出せないなら、技を使えばいい。

 恥ずかしがりやな一面も見せたリリィのことだ。ギュッとこちらから抱き付いてしまえば、恥ずかしがって――あるいは嫌がって頬を叩きつけてくるかもしれない。

 地面も陥没させた威力で頬を叩かれたらと思うとげっそりとするが――思えば今朝はその威力でたたかれた――、ここはしょうがない。先ほどからなぜか、ユニィがガジガジと耳を噛んできているのだ。

 この板挟みの状態が続くのは、とてもつらい……。

 キラは思い切ってリリィに抱き付いてみた。

 するとそれを勘違いしたリリィは、「やはり胸が痛むのですか?」と囁くようにして聞きながら、背中をさすってくれた。

 馬鹿なことを考えていたキラは胸が痛くなった。


「むう……〝奇才〟の研究にも協力したし、竜人族の友にも手伝ってもらったんだがね……条件、条件……」

 老人は深くため息をつき、眉間にしわを寄せて考え始めた。

 キラは先ほどから続く会話の内容について、リリィに聞いてみた。

「ねえ、〝神力〟ってなに?」


 彼女は顔を肩にうずめるようにしていたが、その声を聴いてぴたりと停止し、やがてキラを突き飛ばした。

 リリィも遅ればせながら状況に気づいたのだ。

 キラは思いっきりユニィと頭をぶつけ、涙目になる。

 

 そんなことには気が付かず、リリィは恥ずかしそうに必要以上に髪の毛を整えながら、

「えっと……キラやランディ殿のように、生まれつき魔法を使えない人がいますけれど、そういう人たちが内包する力だと聞いておりますわ。その力は神様に与えられたということで〝神力〟と名付けられましたが……ユニコーンやペガサスのような、ある種架空のものだと思われていますの。わたくしも、お父様に話を聞き、ランディ殿の〝神力〟を目にするまではおとぎ話だと思っていましたが……」

 彼女はそれだけの内容を、一気に早口で語った。

「あ~……じゃあ、僕にもその〝神力〟っていうのがあるの?」

「確実にあるでしょう。けれど、ランディ殿もおっしゃっていたように、現時点ではどんな力なのか想像もつきませんわ」

「へえ……」


 キラは平静を装いながらも、かなり興奮していた。

 魔法を使えず、治癒の魔法の恩恵も受けられず。それらのことが続けて判明してひそかにショックを受けていたが、自分には誰にもわからない特別な力が宿っているというのだ。

 ランディの口ぶりからすると、〝神力〟を扱うのは相当難しいのだろうが、それでも期待せざるを得ない。

 頭をぶつけられたことで怒っているユニィを、キラは上機嫌で撫でる――がぶりと手を噛みつかれた。

「まあ、考えてもきりがないか……。キラ君、リリィ君、そろそろ出発しようか」

 老人の言葉で、キラもリリィも野宿の片づけを始める。

 終始、リリィが顔を背けたりよそよそしくしてくる中、キラは思った。

 強靭な体ならば、リリィの破壊力のあるビンタを頬に受けても平気なのだろうか?




 馬を歩かせても、リリィは昨日のように自ら寄せてきたりはしなかった。

 やはり抱き付いたことで嫌われたのかと思ったが、ちらちらと窺っているのを見る限り、そうでもないようだ。

「しかし、さっきの戦いでは得るものが大きかったね」

 前を行くランディが少し振りむきながら言った。

「僕の打たれ強さのことですか?」

「それもあるが、実戦に対する君の反応だよ」

「反応?」

「修行だけで見極めることのできない、唯一のものだからね。本気で向かってくる相手への構え方、鋭く振るわれる剣への対処法、そして反射神経。ふふ……思った以上で、とてもうれしいよ。まさかリリィ君に勝ってしまうなんて」

 すると、そのランディの言葉に反応したのか、リリィが馬の足を速めてキラの隣に並んだ。


「キラが素人と思い、油断してしまっただけですわ。……まあ、隙をついてきたのは、まさしく天性の才能と言えましょうが」

 それだけが本心とは思えなかった。

 彼女は、これまでしきりに体の心配をしてくれた。あの大振りの一撃の直後、隙が出来たのもそのためだろう。そして、だからこそ、試合が終わった直後に泣きながら抱き付いてきたのだ。

 彼女にもランディと同じくらい世話になっている。とてもありがたいことだと思った。

 キラがリリィを見つめていると、彼女はその視線に気づきぷいとそっぽを向いてしまう。だが、ふわりと揺れる金髪の合間で、イヤリングをつけた耳が赤くなっているのが見えた。


「そういえばリリィ君、少し聞いてもいいかい?」

「はい、何でしょう?」

「王都が危険だということだけど、一体何が起こっているんだい? 思い当たるのは領地の問題くらいだが……」

「領地?」

 キラが呟くと、リリィがちらちらと見ながら、

「昨日の夜、王国と帝国はいさかいが絶えないと話したのは覚えていますか?」

「うん。〝不屈の戦争〟でしょ?」

「戦争には必ず理由が付きまといますわ。二百年戦争を続けている中で、理由は変わっていきましてね。今回も、十五年前から続く領地問題から発展していますの」

「〝も〟?」

「……七年前も、領地問題が発端でしたわ」

「そっか……」


 リリィはいったん言葉を切り、少ししてから続けた。

「ここ一週間で、騎士団支部とその周辺が次々と襲撃されています。しかも王都から一定以上離れた場所のみ。騎士団の師団長たちはその対応に追われてバラバラになり、王都の防衛が手薄になっているのですわ」

「手薄? しかし、王国騎士軍がいるだろう? 彼らは何をやっているんだい?」

 ランディは少し厳しい口調になった。

 どうやら、リリィの言う〝騎士団〟とランディの言った〝王国騎士軍〟は違う存在らしい。


「それが……領地制圧と前線拡大に力を傾けてしまっていまして。おかげで件の領地を支配下に収めることはできたようなのですが、王都にいる残りの王国騎士軍は城の警備兵のみという状況なのですわ」

「愚かな。そんなことのために兵を動かすとは……」

「エマール公爵が進言されたと聞いておりますわ」

「……あの人ならばやりかねないね」

 キラには、どうやら王都の守りが手薄で攻め込まれそう、と言うだけしかわからなかったが、ランディは苦虫を噛みつつも色々なことを把握したらしい。

「王都に残っているのは? ――ああ、騎士団のほうでね」

「私が出立したときには、お父様と、あとは……第一師団長と第九師団長しか残っていませんでしたわ」

「そこまでバラバラに……異常じゃないかい?」

「ええ、帝国は王国の地理に関してとても明るいようですし、何か強大な力を持った人物がいるのではと……。これじゃあ、七年前と同じですわ……」

「どういうことだい?」


 キラはリリィをうかがった。

 彼女は言いづらそうにうつむいていた。唇をかみ、当時を悔やんでいるようだ。

 そんなリリィが心配になり――するとユニィがその心を読んだかのように、彼女の方へ寄った。

 どう慰めればいいかわからなかったが、キラは手を伸ばし、彼女がいつもやってくれるように背中を撫でてみた。

「ありがとう、キラ」

 彼女の青い瞳には少しだけ涙がたまっていたが、そこには弱さなどみじんもなかった。

 リリィははっきりとした声で、前にいるランディに伝える。


「七年前も似たような状況に陥りましたの。その時は師団長四人が不在なだけでしたが……」

「それでは侵略されるほど崩れているとは思えないが?」

「あの時、街の中に・・・・どこからともなく人がわいてきたのですわ。進軍の報告もありませんでしたのに、約千人の帝国兵士が」

「それは……厄介だね。何か予兆とかはなかったのかい?」

「いいえ。ただ、あの時は夜で暗く……そこらじゅうの影から湧き出たように思えましたわ」


 影から湧き出るとは、まるで魔法みたいだ。

 そう思ったキラは、リリィの背中を撫でつつ聞いてみた。

「そういう魔法はないの?」

「少なくとも、そのような魔法があるとは聞いたことがありませんわ。あんな、魔法の気配を感じることもなく、パッと存在だけが現れるだなんて……」

「可能性として挙げられるのは、帝国独自の魔法だね。もしくは……」

 老人は何か言いかけて、口をつぐんだ。馬を止めて、前をまっすぐ見据える。

 リリィも遅れて、ランディと同じ方向を見る。


「え……何か見えるの?」

 なだらかな丘の波はいつの間にか消え去り、平らな草原が広がっている。平原はどこまでも続いているかのように思えたが、ずっと遠くには山脈が見える。

 ちらほらと木も見え、右手の奥の方には川が流れていた。

 リリィは、その川の先を指しながら呟くように言った。

「魔獣ですわ。これは……とても小さいものと大きいものが入り混じっていますわね」

「ゴブリンとオーガだね……人もいる……闘っているようだ」

 言うや否や、老人は馬の腹をトンと蹴った。

 リリィもそれに続き、キラは訳が分からないままユニィに指示を飛ばす。

 白馬は草原を颯爽と駆け、キラは身を低くしながら行く先を見つめる。


 ――いた。


 細かな点にしか見えないが、確かに何かが蠢いていた。

 川を飛び越え、近づいていき――はっきりとオーガの赤い巨体が見て取れた。

 ランディが片刃の剣を抜き放ち、キラもそれに倣って柄に手をかける。

 と、

「キラは手出し無用ですわ!」

 リリィが白銀の剣を抜きながら叫んだ。

「で、でも!」

「わたくしの傍ではなりません! 決して!」

 ランディもリリィも、馬の背を蹴り飛び出した。


 目の前では、一人の少年が小鬼の群れと大鬼に囲まれている。

 ランディが年を感じさせない動きで突っ込んでいき、オーガの横腹をすれ違いざまに一閃。鬼に悲鳴を上げる間も与えないまま、振り返り、首を切り落としてしまった。

 その間にリリィは、目のも止まらぬ速さで小鬼たちを切り裂いていく。ゴブリンは次々に悲鳴を上げ、かと思うと紅の炎包まれ消えていった。

 あっという間の出来事だ。


 ――ブルルンッ!

「ユ、ユニィ?」


 すると突如として、白馬が吠えた。

 すべての鬼を退治したかと思ったが、そうではないようで、少年の死角から襲い掛かろうとしているゴブリンがいる。

 それめがけて、ユニィがキラの制止も聞かず、突っ込んでいったのだ。


 ――ヒヒィン!


 キラを振り落さんばかりに前脚を上げ、思い切り振りおろす。

 グシャリ、と。卵でも割るかのようにゴブリンは簡単に飛び散った。そして、緑色のどろりとした液体が、尻餅をついた少年にふりかかる。

「ユニィ、あぶないじゃん……うわあ……」

 白馬の首にしがみついていたキラは、その惨状に思わずおかしな声を出した。


 十二、三歳くらいだろうか。長めの金髪で、割と小柄な少年だった。キラと同じような村人の服装だったが、手の甲や肘、胸、腰に足と、動きが窮屈にならないような革の鎧を着用していた。その手には少し短めの剣が握られている。

 騎士にも剣士にも見えない少年は、頭から緑色の液体を浴び、そのせいで少し鼻につくようなにおいも放っていた。


「ひ、ひどいありさまですわね……ユニィ、もう少し大人しくつぶしましょう? キラも大丈夫ですか?」

 リリィは白馬を撫で、その背から降りたキラを過保護に心配する。全身をペタペタと触り、どこにも怪我がないのを確認するとほっと息をついた。


「君、大丈夫かい?」

 ランディがしゃがんで、腰のベルトに巻いていたタオルを取り、少年に渡す。

 少年はうつむいたまま、ぼそりとつぶやいた。

「……臭い」

「まあ……ねえ……」

 人生経験豊富な老人も、返す言葉がないようだった。



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