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第九十八話:レオナの気持ち

「あんた、こんなとこで何アホ面してんの? みんな楽しそうにしてるわよ」


 星空から視線を戻すとそこには、胸の下で腕を組んだレオナが、いつも通り不機嫌そうに立っていた。


「あ、い、いや、なんでもねえ。夜風に当たってたんだ」

「ふーん……?」


 挙動不審に両手をぶんぶんと横に振る祐樹の姿を見たレオナは訝しげな視線を向けながらも、不思議そうに首を傾げる。

 そしてそのまま、祐樹の隣まで歩みを進めた。


「あ、あの、レオナさん?」

「何よ?」


 突然テラスに入ってきたレオナに対し、声をかける祐樹。

 レオナは相変わらず両手を胸の下で腕を組みながら、睨みつけるように祐樹へと目線を向けた。


「あの、いや、なんで近づいてきてるんでせう」

「別に、あたしの勝手でしょ? あたしもちょっと熱くなっちゃったのよ」

「あ、そっすか……」


 冷静に返事を返すレオナの様子に、いつのまにか平常心を取り戻した祐樹は、軽い調子で返事を返す。

 しばらくの沈黙の後、その空間を破ったのは意外にもレオナの方だった。


「き、今日は……」

「うん?」


 珍しく俯きながら小さく呟くレオナを見て、頭に疑問符を浮かべながら返事を返す祐樹。

 レオナは祐樹の言葉を受け、そのままのボリュームで言葉を続けた。


「今日は……助けてくれて、ありがと。一応、お礼言っとくわ」


 レオナは顔をそっぽに向けながら、祐樹へと言葉を紡ぐ。

 祐樹はそんなレオナの言葉を受けると、思わずクスッと笑った。


「っ!? な、何よ。あたしがお礼言っちゃいけないっての!?」


 レオナはそんな祐樹の反応が自分を馬鹿にしているものだと勘違いし、赤い顔をしながら祐樹を睨みつける。

 祐樹は笑いながらもぶんぶんと両手を左右に振り、言葉を返した。


「いや、すまんすまん。さっきニャッフルにもお礼を言われたからさ、ちょっと驚いちゃって」

「はぁ? どういう意味よ。もう……」


 レオナは少し頬を膨らませながら、テラスから見える街並みを見つめる。

 その頬は赤く上気し、耳の先まで赤く染まっている。星の光に照らされたその横顔を見た祐樹は自分の意思とは裏腹に、声を漏らしていた。


「……可愛いな」

「へぁ!?」


 祐樹の小さな呟きを聞き漏らさず、素っ頓狂な声を出しながら祐樹の方を向くレオナ。

 しかし祐樹と目が合ったその瞬間に再びそっぽを向き、その赤く染まった耳を両手で隠した。もっとも長すぎて、全然隠しきれていないのだが。


「あ、いや、すまん。変なこと言っちまった」


 祐樹は自分自身の言った言葉に今更ながらに気付き、口元を手で押さえながら言葉を紡ぐ。

 レオナは両耳を隠しながらも、そんな祐樹の言葉に噛み付くように返事を返した。


「へ、変なことって何よ!? ぶっとばされたいのあんた!?」

「ご、ごめんなさい! 変じゃないです! いや変だけど、とにかく、その、可愛いなって!」

「―――っ!」


 ぶんぶんと両手を左右に振りながら言葉を紡ぐ祐樹と、その言葉を受けてさらに顔を赤く染めていくレオナ。

 そのままつかつかと歩みを進め、テラスの手すりに軽く頭を打ちつけた。


「ばー……っか」

「…………」


 俯いたまま呟かれたレオナの言葉に、何も言い返すことができない祐樹。

 しばらくの沈黙の後、祐樹はレオナの背中に抱えられた杖を見て両手を合わせ、会話を切り出した。


「あ、あーっ。そ、そう。今日も大活躍だったなぁ、その杖。覚醒させるの苦労したもんなぁ」

「……まあ、ね。そういえばあの時も、あんたが助けてくれたんだっけ」


 レオナは調子を取り戻したのか、手すりに背中を預け、祐樹へと振り向きながら言葉を紡ぐ。

 祐樹は恥ずかしそうに頭をボリボリと搔きながら、返事を返した。


「いや、いやいや。あれはお前の実力だよ。俺はちょっと背中を押しただけだって」


 祐樹は心の底から思っている事を、そのまま言葉にしてレオナに送る。

 実際レオナが活躍しているのは、元々備わっていたレオナの実力なのだ。祐樹はただ単に、それを覚醒させる手助けをしただけにすぎない。……と、少なくとも祐樹自身は、そう思っている。


「ふふっ……あんたって本当、人生損しそうなタイプよね」

「ええ!? 初めて言われたよそんなん! すげえショック!」


 初めて笑顔を見せてくれたレオナに安心したのか、祐樹もいつも通りのオーバーリアクションで返す。

 レオナはそんな祐樹の様子に安心したのか、今度は自然体で言葉を続けた。


「とにかく……ありがと。あんたには本当、お礼をしなくちゃね」


 オレンジ色の街灯に照らされながら、穏やかな笑顔を見せて言葉を紡ぐレオナ。

 星光に照らされた銀髪が綺麗で、祐樹は一瞬言葉を忘れつつも、どうにか返事を返した。


「え、えーっと……どう、いたしまして?」

「なによその疑問系……ふふっ」


 結局自分自身の手柄にしない祐樹の態度に、思わず笑ってしまうレオナ。

 今度は祐樹が少し赤くなり、「しょ、しょうがねえだろ。お礼なんて言われ慣れてねえんだから!」と言葉を返した。


「ま、あたしはそろそろ戻るわ。生徒がハメを外しすぎないようにしなきゃね」


 レオナは手すりから体を離し、広間に向かって歩みを進める。

 やがて祐樹の隣まで近づいた時、祐樹は返事を返した。

 が……


「ははっ。そうだな。宴会で怪我なんてしたらシャレにもなんね―――」

「んっ」

「へぁっ!?」


 突然頬に当たる、柔らかな感触。

 祐樹はそれが何なのかわかっていながらも思考が回転せず、その場に固まった。


「じゃ、じゃあ、またね!」


 レオナは再び耳まで赤くしながら、早足で広間へと戻る。

 そしてテラスには、固まったままの祐樹だけが残された。


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