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第九十六話:王都大宴会

 王都セレスティアルの中心に位置する王城の大広間では、参謀の指示の元、宴会の準備が着々と進められていた。

 宴会の理由はもちろん、先のモンスター軍を全て撃退したことに始まる。


「そこ! とりあえず肉類はまとめておいて下さい! 酒はありったけ準備して! 王都中の酒屋、飲み屋に声をかけなさい!」

「はっ! 了解しました!」


 参謀の指示を受けた兵士は、嬉々とした表情で敬礼を返す。

 そしてそのまま、王都へと駆け出していった。


「いやー、こういう光景を見ると、勝ったんだなって実感するな」


 祐樹はうんうんと腕を組みながら、着々と進められていく準備の様子を笑顔で見つめる。

 そしてそんな祐樹の肩に、手甲に包まれた腕が強引に回された。


「あっはっは! ユウキぃ! おめえも飲め! あっはっはっはっは!」

「フレイ!? お前はもう飲んでるのかよ! どうりで兵士が駈けずり回ってると思ったよ!」


 さっきから大広間のどこかしこから「もう酒造の酒が無い」とか「とにかく王都中の酒を集めろ」とか聞こえてくるのはこいつのせいか、と祐樹は妙に納得する。

 しかしまあ、あれだけの大戦の後だ。これくらいハメを外しても許されるのかもしれない。


「ふふっ。フレイさん。乾杯なんて待ってられるかー! って、飲み始めちゃったんですよね」

「ずるいにゃ! ニャッフルも早くお肉食べたいにゃ!」


 いつのまにか祐樹の隣に立っていたフレイは困ったように笑いながら、しかし楽しそうに先ほどまでのフレイの様子を話す。

 ニャッフルは両手をばたばたとさせ、声を荒げていた。


「ま、ハメを外したくなるのもわかるけどね……もうすぐ準備も終わるんだから、もうちょっとだけ我慢しなさい」

「おふ、相変わらずテクニシャンヌ……」


 いつのまにかニャッフルの隣に立っていたレオナは、ニャッフルの喉元を丁寧に撫でる。

 ニャッフルは気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らした。


「しっかし、俺たちだけこうしてるのも暇だな。せっかくだから、宴会の準備から参加しちまおうぜ」


 祐樹は腕を組みながら、にいっと笑って四人へと提案する。

 四人は顔を見合わせると、一斉に頷いた。


「おっしゃあ! 冒険者軍の馬鹿垂れども! 酒を調達してる兵士を手伝うぞ! ついて来いやぁ!」

「「「「「へい! 姐さん!」」」」」


 フレイは片腕を天井へ掲げ、冒険者軍の連中へと指示を出す。

 ガラの悪い冒険者軍の連中はウオオオオと盛り上がり、街へと酒を調達しに走った。


「あいつら……街中の酒を集めてきそうな勢いなんだけど、大丈夫か?」


 祐樹は大粒の汗を流しながら、街へと放たれた荒くれ者どもを見つめる。

 フレイは豪快に笑いながら、そんな祐樹に返事を返した。


「あっはっは! だーいじょうぶだって! アタシが全部飲むから!」

「余る心配はしてねえよ!? 街中で働く皆さんの晩酌を心配してんだよ!」


 あさっての方角を向いた回答を返すフレイに対し、声を荒げる祐樹。

 フレイは「だーいじょうぶだって。強奪はすんなって言ってあるし」と、相変わらずの笑顔で返した。


「獣人族軍はお肉にゃ! なんでもいいから、とにかくお肉をゲットするのにゃ!」

「「「「にゃー!」」」」


 ニャッフルの掛け声に合わせ、獣人族軍の精鋭たちも同じく街中に駆け出していく。

 祐樹はそんな獣人族軍の後ろ姿を見ながら、再び大粒の汗を流した。


「お、おいニャッフル。肉って言っても食える肉を持って来いよ? 厨房の料理長が泣くぞ」


 祐樹は心配そうに汗を流しながら、ニャッフルへと話しかける。

 ニャッフルは「だーいじょうぶにゃ! 獣人族の鼻は確かにゃ!」と、頼りになるのかならないのかわからない回答を返した。


「魔法使い軍は魚よ! 市場に言ってありったけの魚を仕入れてきなさい!」

「はっ! 了解しました!」


 レオナの声に反応した学園都市の学生たちは、敬礼の後で街へと駆け出していく。

 祐樹はその様子を見ると、ほっと胸を撫で下ろした。


「うん。さすがレオナ。さすがの安定感だな」

「よくわからないけど……それ、褒めてんの?」


 レオナは訝しげな視線を祐樹に向け、胸の下で腕を組む。

 祐樹は慌てて両手をぶんぶんと横に振った。


「褒めてる褒めてる! 信頼してるってことだよ!」


 祐樹は誤解を解こうと、慌てて言葉を返す。

 その言葉を聞いたレオナは、顔面全体を真っ赤にして、そっぽを向いた。


「っ! そ、そう。ならいいわ」

「???」


 ダークエルフ特有の長い耳の先まで赤くしているレオナに対し、頭に疑問符を浮かべる祐樹。

 それについて質問しようと祐樹が口を開いた瞬間、今度はアオイの声が広間に響いた。


「騎士団員の皆さんは、動ける方だけでも野菜を確保しに行ってください! くれぐれも無理はしないように!」

「はっ! 了解しました!」


 最も被害の多かった騎士団軍だけに、慎重に指示を出すアオイ。

 祐樹はそんなアオイの凛々しい姿に、うんうんと満足そうに頷いた。


「さすがアオイ。的確な指示だな。ここにナイトさんもいればよかったんだが……」

「師匠……ええ、本当に。そうですね」


 アオイは俯きながら、悲しそうに言葉を紡ぐ。

 ナイトは先の大戦中の怪我のせいで、今も救護室で治療を受けている。

 命に別状はないとのことだが、当分戦闘行為は行えないだろう。


『これでナイトが仲間にならなくなり、パーティは丁度5人……これは、ただの偶然か?』


 祐樹は曲げた人差し指を顎の下に当て、何かを考えるように俯く。

 アオイはそんなユウキの様子に気付くと、心配そうに顔を覗き込んだ。


「あの、師匠? どうかなさいましたか?」

「ふぉ!? い、いひゃ、なんでもねえよ!?」

「???」


 何故か噛み噛みで返事を返す祐樹に対し、頭の上で疑問符を浮かべて首を傾げるアオイ。

 そんな二人に、参謀が慌しく近づいてきた。


「み、皆さん、手伝わせてしまって申し訳ありません。大戦の疲れも取れていないというのに……」


 参謀は申し訳なさそうに頭を垂れ、祐樹達へと声をかける。

 アオイは参謀へと向き直ると、その肩をぽん、と優しく叩いた。


「大丈夫ですよ、参謀さん。ほら、皆さんあんなに楽しそうですし」

「あ……」


 アオイは右手を、食料調達に走る皆の方角へと向け、参謀の視線を誘導する。

 確かにその視線の先では、楽しそうに運搬作業をする面々の笑顔が映っていた。


「っ! この度は本当に、本当にありがとうございます! 心から御礼申し上げます!」


 参謀は今一度、勇者一行に対して深々と頭を垂れる。

 そんな参謀の様子を見た一行は互いに顔を見合わせ、少し困ったように笑った。


「参謀殿! 宴会の配置ですが、こちらでご相談を!」

「あっ、わ、わかりました。すぐ行きます!」


 参謀は「では、失礼致します」ともう一度頭を下げ、声をかけてきた兵士の元へと走っていく。

 そんな参謀を見送ると、祐樹は小さくため息を落とした。


『ま、とにかく今は、この宴会を楽しむとしますか。さすがに俺も、ちょっと疲れたしな……』


 祐樹は豪華に装飾された高い天井を見上げ、小さく微笑む。

 今更ながらに、勝ったんだという実感が、じわじわと祐樹の中に湧き上がっていた。


「わっはっはー! ユウキぃ! 酒が進んでねぇぞお!」

「で、結局こうなるわけね……」


 フレイは祐樹の肩に腕を回し、酒を片手に豪快に笑う。

 祐樹は両手でコップを持ちながら、いつぞやの宴会と全く同じ展開になっていることにため息を落とした。

 その周りでは騎士や獣人族、そして学生や冒険者が肩を組んで飲み、食い、歌って、まさに宴会の盛り上がりは最高潮といった具合だ。

 まるで世界の境界線が無くなったかのようなその様子に、祐樹は笑った。

 こんなのもたまには、悪くない。現実世界では一人でずっと過ごしてきた祐樹には、考えられない変化だった。

 気付けば目の下にクッキリと浮かんでいたクマも薄くなり、祐樹の本来の顔を取り戻しているようにも思えた。


「姐さん! あっちに美味い酒がありましたぜ!」

「お、マジか!? 行く行く! ユウキ! 逃げんじゃねーぞ!」

「あー、はいよ……」


 立ち上がりながら大声をぶつけてくるフレイに対し、ふらふらと片手を振って答える祐樹。

 当然ながら次の瞬間、祐樹は座っていた席から立ち上がっていた。


『楽しいけど、ちょっと熱いんだよな……夜風にでも当たってくるか』


 祐樹は席を立つと、広間から出られるテラスへと足を運んだ。



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