第九十五話:大戦の決着
「や……やった。師匠! やりました!」
「おう! やっぱすげえぜ、お前はよ!」
嬉しそうに振り返るアオイに対し、ぐっと親指を立てて見せる祐樹。
アオイはそんな祐樹の姿を見ると、満面の笑顔を返した。
そしてそんな二人を、茜色の光が包み込む。
「あ……」
「そうか、もう、日が沈むな」
二人は平原の遠くに見える山間に落ちていく日の光を見つめながら、茜色の光に包まれていく。
そしてそんな二人の元に、満面の笑顔の伝令係が走ってきた。
「ほ、報告します! 先ほど、最後のゴーレムの撃退を確認! 我が軍の勝利です!」
「えっ!?」
アオイは伝令係の言葉を受けると、両目を見開いて驚き、しばらく固まる。
祐樹はそんな伝令係の言葉を受けると、にっこりと微笑みながらアオイの頭を乱暴に撫でた。
「ばーか、何ぼーっとしてんだ。勝ったんだよ、俺達は」
祐樹はにいっと歯を見せて笑いながら、乱暴にアオイの頭を撫でる。
アオイは頭を撫でられながらもそんな祐樹の笑顔を見ると、顔を紅潮させて、返事を返した。
「あ、は、はい。そう、ですね……」
「???」
どこか恥ずかしそうに視線を外すアオイの様子を見て、頭に疑問符を浮かべる祐樹。
そしてそんな祐樹の尻に、レオナから渾身の蹴りが入れられた。
「いたひ!? なんだよいきなり!? 新手の挨拶なの!?」
「自分で考えなさいよそんくらい。それより私たち、勝ったのよね?」
レオナは胸の下で腕を組みながら、そっぽを向きつつ言葉を紡ぐ。
祐樹は尻を撫でながら、言葉を返した。
「お、おう。その通り―――ったあ!?」
そんな尻を撫でていた祐樹の手に、今度はニャッフルの蹴りが入る。
先ほどよりも増したその痛みに、祐樹は涙目で声を荒げた。
「ニャッフルぅ! お前までなんだよ! 俺に何の恨みがあんの!?」
「自分で考えるにゃ。それよりニャッフル達、勝ったんだにゃ?」
ニャッフルはふんすと鼻息を荒く吐きながら、両手を組んで言葉を紡ぐ。
祐樹は恨みがましい瞳でニャッフルを睨みながら、言葉を返した。
「だから、その通りだって! あ、待てよ、このパターンだとフレイも……」
祐樹は尻をガードしながら、キョロキョロと周囲を見回す。
そんな祐樹の頭部に、どこからか降りてきたフレイの渾身のチョップが叩き込まれた。
「フレイチョーップ! どうよ、いてーだろ?」
「超いてえよ!? わかってるならやんなよ!」
祐樹は噛み付くようにフレイに言葉をぶつけ、フレイは「わりぃわりぃ」と悪びれる様子もなく返事を返す。
そしてそんな一行の様子を見ていたアオイは、クスッと笑った。
「??? アオイ、どうかしたかにゃ?」
ニャッフルは顎に手を当てながら、小さく首を傾げる。
アオイはそんなニャッフルに穏やかな視線を向けながら、やがて空を仰ぎ、答えた。
「いえ、私たち本当に、勝ったんだなぁって……実感したんです」
「「「「…………」」」」
アオイの一言に、皆一様に笑顔を浮かべ、同じように茜色の空を仰ぐ。
雲はゆっくりと流れ、茜色の光がその間を通り抜けていく。
空は今日も何事もなかったかのように、穏やかなままだ。
「いよっしゃあ! じゃあ宴会だな! 宴会宴会!」
「お、おう。ハメを外しすぎないようにな」
「肉ならいっぱいあるにゃ! さっきニャッフル達が沢山ぶっとばしたにゃ!」
「ちょっと、その肉なんの肉よ? 大丈夫なんでしょうね?」
「ふふふっ」
こうして一行は勝利を収め、ゆっくりとした歩調で城へ帰っていく。
しかしその道中、一度祐樹は足を止め、夕日を見つめて思考を回転させた。
『今回のイベント。イレギュラーがあまりにも多すぎる。こんなことが出来るのは、奴しかいねえ。どうやらマジで、覚悟を決める時なのかもな……』
祐樹は両手をポケットに入れたまま、じっと夕日を見つめて考える。
そしてそんな祐樹に、乱暴に腕が回された。
「おら祐樹! さっさと行こうぜ! 酒だ酒!」
「またかよ!? ちょっとは懲りろよフレイ!」
祐樹は半ば乱暴に、城へと引き摺られていく。
城の中では既に宴の準備が、参謀の命令の元着々と進められている。
祐樹はにこやかに会話する一行と、悪戯な笑顔を見せるフレイにつられ、少しだけ微笑んだ。
『ま、なるようにならぁな。やるしかない。ってね』
こうして勇者様ご一行は、城へと一緒に戻っていく。
全軍から歓迎の雄たけびが上がるのは、それから間もなくの事だった。