第九十四話:アオイVSクリスタルゴーレム
『グオオオオオオオオオオオオオオ!』
「!? し、師匠、このモンスターは!?」
アオイは移動した先で目の前に現れたモンスターに即座に反応し、反射的に剣を構える。
動揺しながらも剣士としての動きを忘れないアオイに感心しながら、祐樹は額に汗を流しつつ、言葉を返した。
「こいつは、クリスタルゴーレムだ。油断するなよ。強さはその辺のゴーレムとは段違いだ」
祐樹はキャンセラーブレイドを肩に担ぎながら、軽快なステップを踏み始める。
その瞬間クリスタルゴーレムは、左拳を祐樹へと振り下ろした。
『グオオオオオオオオオオオオオオ!』
「は、速い!? 師匠おおおおおお!」
アオイはクリスタルゴーレムの予想外の速さに驚き、思わず声を荒げる。
クリスタルゴーレムの拳は地面へとめり込み、土埃を舞い上げていた。
「アオイ、そう騒ぐなって。ちゃーんと避けてっからよ」
土埃が風によって運ばれると、クリスタルゴーレムの拳を紙一重で回避し、裏拳で悠長にクリスタルゴーレムの拳を叩いている笑顔の祐樹が現れる。
アオイはそんな祐樹の様子を見ると、ほっと胸を撫で下ろした。
「!? 油断すんな、アオイ! 今すぐ右に飛べ!」
「!? は、はい! ……くっ!」
クリスタルゴーレムは左拳を引き抜く動作と同時に、今度は右拳をアオイへと振り下ろす。
アオイは先に指示された通り横っ飛びしていたおかげで、その拳をギリギリで回避した。
「アオイ! あいつの拳は重い上に速い! ステップして回避主体の構えをとれ!」
「は、はい! 師匠!」
アオイは祐樹の言葉を受けると、両手で剣を持ちながら切っ先をクリスタルゴーレムに向け、その足でタン、タン、と軽快なリズムを刻む。
そしてその刹那、再びアオイをクリスタルゴーレムの拳が襲った。
『グオオオオオオオオオオオオオオ!』
「くっ……!? よ、避けられた!?」
アオイは紙一重とはいえ、あの高速の攻撃を回避できたことに、自分自身で驚く。
祐樹はその様子を見ると、ニヤリと口の端を上げて笑った。
『アオイの奴……やっぱ剣術のスキルとレベルは充分だな。これならいける!』
「アオイ、油断すんなよ! 一撃食らえば即やられるぞ!」
「!? は、はい! 師匠!」
『グオオオオオオオオオオオオオオ!』
クリスタルゴーレムは会話をしている二人に構うことなく、素早い動きでさらに距離を詰め、今度はアオイへと蹴りを浴びせる。
アオイは横目で攻撃を察知し、またも紙一重で回避するも、その蹴りの風圧で数メートル吹き飛ばされた。
「くっ……これは、確かに他のゴーレムとは、格が違う……!」
『グオオオオオオオオオオオオオオ!』
なんとか剣を杖にして立ち上がるアオイに対し、咆哮をぶつけるクリスタルゴーレム。
その後もクリスタルゴーレムは素早い動きで攻撃・回避を繰り返し、二人を苦しめた。
「アオイ! こいつに小細工は通用しねえ! 次の攻撃を避けたら、あいつの頭部を狙え! 集中攻撃で一気に決めるぞ!」
「はあっはあっ……ですが、師匠! 動きが速すぎて、的を絞れません!」
アオイは呼吸を乱しながら、祐樹へと言葉をぶつける。
祐樹はアオイの言葉を受けると、人差し指と中指を立て、精神を集中させた。
「的が絞れないか……確かにな。仕方ねえ、動きを止めるか。アブソリュート・ゼロ!」
『グオッ!?』
祐樹の魔法発動により、一瞬にして凍りつくクリスタルゴーレムの足。
その動きを制限されたクリスタルゴーレムの前に、まるで挑発するように祐樹がステップを踏みながら現れた。
クリスタルゴーレムは動きを制限されている苛立ちからか、大振りになった攻撃を祐樹へと繰り出す。
祐樹は無表情のまま最低限の動きでそれを回避すると、声を荒げた。
「あいつの頭が下がった! 行くぞ、アオイ!」
「はい!」
二人は軽快なステップを止め、剣を背負うようにして構える。
そしてそのまま、その一撃を放った。
「「豪波裂衝斬・双刃!」」
二人の剣撃はまるでクロスするようにクリスタルゴーレムの頭部をとらえ、やがてその頭部へと命中する。そしてそのまま、祐樹の剣撃だけが頭部を貫通した。
『グオオオオオオオオオオオオオオ!?』
クリスタルゴーレムは自らの頭を両手で押さえ、もだえ苦しむ。
祐樹はその様子を見ると、再びアオイへと言葉をぶつけた。
「今だ、アオイ! ありったけを叩き込め!」
「はい! 師匠! はあああ!」
アオイは地面を思い切り剣で叩き、自らの体を上空へと舞い上がらせる。
そして落下するそのスピードも乗せ、両手で握った剣から、クリスタルゴーレムの頭部に斬撃を加えた。
「せああああああああ!」
『グオオオオオオオオオオオオオオ!?』
クリスタルゴーレムはアオイの斬撃を受けると、膝を折ってその場に突っ伏する。
そしてそのまま、全身を輝かせながらその姿を消した。