第九十三話:援軍
「アオイー! 助けにきたにゃー!」
伝令係の言葉と共に、遠くからニャッフルの高い声が響く。
ニャッフルは多くの獣人族軍の同士を引き連れ、右側のゴーレムたちに攻撃を開始していた。
そしてアオイはそんなニャッフルの声を受けると、驚きに両目を見開いた。
「ニャッフルちゃん!? そんな、もう北のモンスターを!?」
「それだけじゃねーぜ、アオイ。まあ、もう少し待ってな」
「???」
祐樹の意味深な言葉に、再び頭に疑問符を浮かべるアオイ。
しかし次の瞬間、左側のゴーレムたちに、強力な雷撃が降り注いだ。
「ヴォルテックス・ディザスター! アオイ! 手伝いに来たわよ!」
レオナは杖をモンスターたちに向けながら、多くの学生たちを引き連れ、アオイへと大声で言葉をぶつける。
魔法使い軍の生徒たちもレオナと同じように、攻撃呪文の雨をゴーレムたちへと浴びせていた。
「レオナさんまで!? し、師匠、一体これは!?」
アオイは状況が飲み込めず、オロオロしながら祐樹へと顔を向ける。
祐樹は「ま、とりあえず落ち着け」と言葉を紡ぎながら、その肩に手を乗せた。
「西以外の戦場は、まあその、たいしたことなかったんだよ。だから援軍に来れた。それだけさ」
「そ、そうなの……ですか? ですが、事前の情報では―――」
「いよっしゃああああああ! 敵はどこだああああああああ!」
言葉を紡いでいるアオイの声を切り裂くように響く、フレイの咆哮。
その方角に視線を向けると、フレイが冒険者軍を従え、中央部隊と合流を果たしていた。
「フレイさんまで!? 凄い……これなら、これなら勝てますよ、師匠!」
「ああああアオイ。揺さぶるなって」
アオイは興奮した様子で、ガクガクと祐樹を前後に揺さぶる。
それを注意されたアオイは、「す、すみません、つい興奮して……」と反省しながら、その手を離した。
『しかし……何だ? この嫌な予感は。これまでの事象を鑑みるに、シナリオ通りに事が運ぶように思えない。何か、何かが起きる予感がする』
祐樹は再び曲げた人差し指を顎に当てると、思考を回転させ、戦場全体を見回す。
援軍の登場で士気が向上したのか、各軍奮戦し、先ほどまでの苦戦が嘘のように善戦している。
しかし漠然とした祐樹の不安は消えず……そしてそれは、現実となって現れた。
「ほ、報告します! 中央に謎の輝くゴーレムが出現! ナイト殿が交戦しましたが、重傷です!」
「なんですって!?」
「!?」
青い顔をした伝令係から、悲報がアオイたちへと伝えられる。
そして“輝くゴーレム”と聞いた祐樹は、奥歯を強く噛み締めた。
『ちっ……そいつは間違いなく、クリスタルゴーレムだ。クリア後に出現する裏ダンジョンのモンスターが、なんでこんなとこで出てくんだよ!』
祐樹は悔しそうに奥歯を噛み締め、中央を見つめる。
アオイは剣を抜くと、覚悟を決めた表情で祐樹へと言葉を紡いだ。
「師匠! ナイトさんが倒されるほどの強敵……一般騎士の皆さんには任せられません! ここは、私たちが行きましょう!」
「ああ……どうやら、それしかなさそうだ。フレイも他のゴーレムとの戦闘で手一杯だしな。じゃあアオイ、ちょっと待っててくれ」
祐樹は即座に指令台を降り、適当な木を見つけると、一本の小枝を折る。
そしてそのまま、呪文を詠唱した。
「全ての英知を切り裂くは、絶対の剣。創生せよ、絶縁の時を。”キャンセラー・ブレイド”」
祐樹の目の前には再び手ごろな大きさのキャンセラーブレイドが生成され、祐樹はそれを掴むと、ぶんぶんと二、三回素振りをする。
「ん、まあこんなもんか」と呟くと、祐樹は人差し指と中指を立てると、再び魔法を発動させた。
「クリティカルジャンプ」
「ほわっ!? 師匠!? そ、その剣は一体!?」
いつのまにか剣を担いで目の前に出現した祐樹に対し、混乱しながら質問するアオイ。
祐樹は苦笑いしながら、その問いに答えた。
「他に聞くこといっぱいある気がするけど……説明してる時間はない。アオイ、とりあえず俺の肩を触れ」
祐樹は真剣な表情になると、アオイへと言葉を紡ぐ。
アオイはその言葉を受けると、「こ、こうですか?」と素直にその言葉に従った。
「行くぜ、アオイ。覚悟決めろよ……クリティカルジャンプ」
「ほわっ!?」
祐樹とアオイは一瞬にして、指令台からその姿を消す。
こうして指令台には、ぽかんとした表情のままの、伝令係だけが残された。