第九十二話:騎士団軍の戦況
粉塵が舞い上がる戦場で、一際輝く黄金の鎧。
セレスティアル王国騎士団長であるナイトは、多くの騎士を従え、ゴーレムたちを蹴散らしていた。
「このゴーレムは私一人で引き受ける! 他のものは他の部隊の援護に回れ!」
「はっ! 了解しました!」
ナイトは馬に乗った状態で器用にゴーレムの攻撃を避け、長槍でゴーレムの弱点であるコアを攻撃し、撃退する。
動き自体は簡単だが、相手の動きを洞察する洞察力、馬を操る力、槍の強靭な貫通力があってこその戦法である。
一般騎士が数人がかりで倒すゴーレムを、ナイトは一人で次々と倒していく。
その姿に周囲の騎士は歓喜に沸き、その士気を高めた。
アオイは指令台からその様子を確認し、戦場全体を見渡すと、各部隊への指示を出し続けていた。
「中央の部隊への援護は削減し、左右の守りに回してください! 左右の部隊は押されている事を自覚し、今一度士気を高めるように!」
「はっ! 了解しました!」
アオイの言葉を受けた伝令係は、その言葉を伝える為に慌しく指令台を降りていく。
アオイは奮戦するナイトの背中を見つめながら、自分自身が戦場に立てない現状に、悔しそうに奥歯を噛み締めた。
クリティカルジャンプで指令台の上に移動してきた祐樹の視界に飛び込んできたのは、倒されていく数多の騎士たち。
ゴーレム軍の数は多く、一体一体の戦闘力も強力で、騎士たちも奮戦してはいるものの、劣勢は誰の目にも明らかだ。
へし折られた槍や剣、倒された馬が戦場に転がり、負傷兵が次々と城に運ばれていく。
祐樹はその様子を一通り見回し、奥歯を噛み締めながら言葉を紡いだ。
「苦戦しているだろうとは思ってたが……これほどとはな。俺の試算よりはるかに多く、強靭なモンスターが出現していやがる」
祐樹は倒されていく騎士たちを悔しそうに見つめながら、もう一度奥歯を噛み締める。
一方、同じく指令台に乗っているアオイは、祐樹の存在に気付く暇も無く、指示を出し続けていた。
「右側の守りが極端に手薄です! 中央部隊から援護を送ってください! 矢の類は効きませんので中止! 槍による近接攻撃を主体とし、騎馬による突撃を主にしてください!」
「はっ! 了解いたしました!」
アオイの言葉を受けた伝令係は、慌しい様子で指令台を降りていく。
そしてそのまま、各部隊に伝令に走った。
「よっ、アオイ。苦戦してるみてーだな」
「し、師匠!? いつのまにそこに!?」
突然肩を叩かれたアオイは、驚きながら祐樹の方へと振り向く。
祐樹はにこやかに、その言葉に答えた。
「さっきからいたぜ? それより、苦戦中みてーだな」
祐樹は表情を引き締めると、さらに言葉を続ける。
アオイはそんな祐樹の言葉を受けると、悔しそうに俯いた。
「はい……私の、力不足です。すでに多くの犠牲を出してしまいました」
アオイは負傷して運ばれていく騎士たちを横目に見ながら、悲しそうに呟く。
祐樹はそんなアオイを見ると、再びにっこりと笑いながら、言葉を紡いだ。
「ま、そうしょげんなって。中央の守りは堅いみてーじゃねーか」
祐樹は中央部分の騎士たちの奮戦度合いを見て、にっこりと笑う。
アオイは顔を上げると、同じく中央部分の戦場を見つめ、言葉を続けた。
「はい……ですがそれは騎士団長であるナイトさんがいらっしゃるおかげです。現に今も一人でゴーレムを打ち倒し、騎士の皆さんの士気を向上させ続けています」
「……ま、そりゃ確かにな」
祐樹の視線の先では、金色の鎧に身を包んだ一際目立つ騎士が、槍と剣を巧みに操ってゴーレムを倒していく様が見える。
それを見た周囲の騎士たちの士気も、どんどん上がっているようだ。
祐樹は人差し指を曲げ、顎に当てると、ナイトの背中を見ながら冷静に状況を分析した。
『ナイトは確か、この王都戦で仲間になる予定のキャラだからな……当然、戦闘力は高い。しかしそれでも中央で押し切れないのは、後一歩の戦力が足りないせいか』
祐樹は少しずつ思考の海に落ちていくが、まるでそんな祐樹を奮い起こすように、アオイは言葉を続けた。
「本当に、ナイトさんには頭が下がります。ですが―――」
「左右の守りが甘い、か」
祐樹はアオイの言葉を遮り、今度は腕を組みながら言葉を紡ぐ。
アオイは「はい……その通りです」と、悔しそうに返事を返した。
「ま、それはなんとかなると思うぜ? そうだな……あと五秒、ってとこか」
「???」
祐樹の言葉を受けたアオイは、その意味がわからず、首を傾げる。
しかし次の瞬間、慌しく走ってきた伝令係が、アオイに伝令を伝えた。
「ほ、報告します! 右側に獣人族軍の援軍あり! 北のモンスターを全滅させた模様です!」