第八十九話:冒険者軍の戦況
「はっはっはー! おらおらおらぁ! 次とっとと来いやぁ!」
『ピギャアアアアア!?』
フレイは長槍をまるで手足のように操り、低空飛行しているモンスターを次々と叩き落していく。
時に槍を回転させて竜巻を起こして敵モンスターを吹き飛ばし、時に自らがジャンプしてモンスターを三体同時に突き刺す。
その戦いぶりは豪傑と呼ぶに相応しく、まさに鬼神ごとき強さだった。
しかし―――
「あのー……参謀ちゃん。あいつ、この軍の総司令官だったよね? 俺、記憶間違ってる?」
祐樹は司令官台の上に上りながら、大暴れしているフレイを指差して引きつった笑顔で言葉を紡ぐ。
参謀はズレた眼鏡を直しながら、俯いて言葉を返した。
「……はい。おっしゃる通りです」
参謀は大きくため息を吐きながら、祐樹へと返事を返す。
祐樹はうんうんと頷いてその回答に満足すると、再びフレイへと向き直り、声を荒げた。
「なのに何してんだあいつわぁ!? 司令官が最前線で暴れてたら軍の統率が取れないだろうが! 冒険者軍は特に!」
冒険者軍は荒くれ者の冒険者を寄せ集めた言わば烏合の集である。
当然力あるものが統率しなければ、そもそも軍として戦力にならない。だからこそ、フレイを司令官に置いたわけだが……当の本人が最前線で暴れている始末である。
『おい! こっち矢が足りてねーぞ! 補給部隊何してんだ!』
『ああ!? こっちだって最速でやってんだよ! 文句言うなタコ!』
『あんだとぉ!?』
『なんだよ!』
「言わんこっちゃねえとはこのことだよ! 既に軍の統率バラバラじゃねーか!」
祐樹は両手で頭を抱え、冒険者軍の悲惨な現状を目の当たりにする。
参謀はズレた眼鏡を直しながら、そんな祐樹に返事を返した。
「おっしゃるとおり……申し訳ありません。私も先ほどから指示を出しているのですが、どうにも冒険者の皆さんは言うことを聞いてくれなくて……」
参謀はがっくりと項垂れながら、祐樹へと言葉を紡ぐ。
祐樹はうんうんと頷きながら、そんな参謀の肩を叩き、「そりゃそうだ。あんた悪くねえよ」と、慰めの言葉をかける。
そして祐樹は人差し指と中指を立て、魔法を発動した。
「仕方ない。本人に事情を聞くか……クリティカルジャンプ」
「!?」
突然目の前から姿を消えた祐樹に驚き、目を白黒させる参謀。
そして指令台には、呆然とした参謀だけが残された。
「おい、フレイ! お前最前線で何してんだよ!? 軍がバラバラだぞ!」
祐樹はクリティカルジャンプでフレイの元まで移動すると、暴れているフレイに対して声を荒げる。
フレイは戦いながら、その声に答えた。
「ユウキか!? いや、最初はピンチになってた部隊を助けに来たんだけどよ、敵が多すぎて戻れねーんだよ!」
「嘘つけえ! 超楽しそうに戦ってたじゃねーか!」
フレイの回答に対し、即座にツッコミを入れる祐樹。
確かに先ほどまでのフレイの様子を見る限り、嬉々として暴れているようにしか見えない。
「いや、マジだって! そりゃ戦うのは楽しいけど、戻れねえのは本当だよ! 敵の数、想定より大分多くねえか!?」
フレイは相変わらずモンスターを吹き飛ばしながら、祐樹へと声を荒げる。
祐樹は襲い掛かってくるモンスターの攻撃を紙一重で避けながら、曲げた人差し指を顎に当て、思考を回転させ始めた。
『確かに指令台から見てもここから見ても、敵の数が異常だ。俺の記憶に間違いはないはずなんだが……シナリオが狂ってやがるのか?』
祐樹はうんうん唸って考えながら、襲い掛かってくるモンスターの攻撃を紙一重でかわす。
フレイはその様子を見ると、さらに声を荒げた。
「ユウキぃ! そんな余裕あんなら手伝ってくれ! このままじゃ指示も出せやしねえ!」
「おっ、おう。そうだな。今はまず、現状を何とかしねえと……」
フレイの言葉にはっと顔を上げ、返事を返す祐樹。
そして何かを決心するように眉間に皺を寄せると、フレイへと声をぶつけた。
「フレイ! とりあえず指令台まで戻るぞ! 俺の肩に触れ!」
「はぁ!? なんだよどういうことだ!?」
祐樹の意味不明な指示に驚き、戦いながら返事を返すフレイ。
祐樹はそんなフレイに構わず、言葉を続けた。
「いいから、触れって! ここにいてもしょうがねえだろ!」
「―――っ! あーもう! わぁったよ!」
真剣な表情で言葉をぶつけてくる祐樹に根負けし、祐樹の肩を掴むフレイ。
その瞬間祐樹は、人差し指と中指を立てて魔法を発動させた。
「いくぞ! クリティカルジャンプ!」