第八十八話:レオナVSウィザードナイト
レオナは相変わらず呆然と、黒い影を見つめていた。
「ほれ、レオナ。ぼーっとしてる場合じゃないんじゃね?」
「はっ。そ、そうね。あたしがしっかりしないとおおおおおお!?」
レオナが祐樹の言葉に反応してその方向に向き直ると、祐樹の腰にはキャンセラーブレイドが。
レオナは本日二度目の驚きに、目を白黒させ、声を荒げた。
「あ、あああ、あんた、それどうしたのよ!?」
レオナは震える指先で、祐樹の腰元のキャンセラーブレイドを指差す。
祐樹は腕を組んでうーんと考えると、首を傾げながら返事を返した。
「んー、まあ…………拾った?」
「嘘付けえ! そんな都合よく落ちてるわけないでしょうが!」
祐樹のあまりに現実離れした回答に、即座にツッコミを入れるレオナ。
しかし祐樹は真剣な表情になると、レオナの目を真っ直ぐに見つめて言葉を返した。
「レオナ。今はそんなことより、あいつをどうにかする方が先じゃねーの?」
「はっ。そ、そうね。あいつをどうにかしなきゃ……」
レオナは再び黒い影の方へと向き直り、曲げた人差し指を顎の下に当て、どう攻略すべきか考える。
祐樹はその様子を見ると満足そうに微笑み、その肩をぽん、と叩いた。
「な、レオナ。都合のいいことにキャンセラーブレイドがあるんだ。このまま俺がアイツと近接戦闘をして、お前が大魔法で攻撃する。これでどうよ?」
祐樹は親指をぐっと立てながら、悪戯な笑顔で言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたレオナは、噛み付くように言葉を返した。
「そんな!? そりゃ、あんたはアオイの師匠だし、近接戦闘は得意だろうけど……まだ相手の実力もよくわかってないのよ!?」
レオナは祐樹の身を心配し、声を荒げる。
祐樹はそんなレオナの気持ちが嬉しく、大きく笑うと、言葉を続けた。
「あっはっは! ま、なんとかならぁな。じゃあ合図出すから、大魔法の準備、頼んだぞー!」
「あ、ちょっと!? もおおおおおおお!」
祐樹はレオナの返事を聞くこと無く、黒い影へと突進していく。
腰のベルトからキャンセラーブレイドを取り出すと、そのまま黒い影へと振り下ろした。
しかし、その黒い影は良く見るとローブを着た人のような姿をしており、そのローブの隙間から伸びた黒い手甲が、祐樹の剣を受け止めた。
「……さすがに、やるねえ。ウィザードナイト。お前には結構苦労させられたっけな」
『…………』
ウィザードナイトは祐樹の剣を受け止めた手甲を引っ込め、やがて黒い手甲に包まれた両手に、魔法文様が描かれた剣を構える。
祐樹はキャンセラーブレイドで自分の肩をトントンと叩きながら、ウィザードナイトと正面で対峙した。
「近接戦闘モード突入ってか。こっちも望むところ、だぜ」
『……!』
今度はウィザードナイトが、一瞬にして祐樹との距離を詰め、己の剣を祐樹へと振り下ろす。
祐樹はその剣の軌道を完全に目で追いながら、数ミリのところで剣撃を避けた。
「おー、あぶねーあぶねー。しかしまあ、あいつほどではないわな。やっぱ」
祐樹はとあるボスモンスターの姿を思い浮かべながら、再び剣でトントンと自らの肩を叩き、ウィザードナイトと対峙する。
ウィザードナイトはその後も諦めることなく、高速の剣撃を繰り返した。
「……やっぱ、早いな。でも、あいつほどじゃない」
『……!?』
祐樹はウィザードナイトの攻撃が大振りになった隙を突き、キャンセラーブレイドでウィザードナイトの体を斜めに切り捨てる。
ウィザードナイトはそのダメージのせいか、数歩後ずさり、地面に膝をついた。
「今だ、レオナ! 大魔法発動!」
祐樹は背後にいるレオナに対し、大声で指示を出す。
レオナは無言のままこくりと頷くと、魔法を発動した。
「ヴォルテックス・ディザスター!」
レオナが魔法を発動した瞬間、レオナの杖の先端のリングが回転し、やがて空を、暗雲が覆う。
そして無数の雷撃が、ウィザードナイトを襲った。
『……!?』
ウィザードナイトはその雷撃を受けると、全身から煙を上げ、さらに数歩後ずさる。
祐樹はその隙を見逃さず、一瞬にして距離を詰めた。
「悪いな……俺もいろいろ、心配事が多いんでね」
祐樹はキャンセラーブレイドを縦に構え、今度はウィザードナイトを一刀両断する。
そのダメージは凄まじく、ウィザードナイトは再び地面に膝をついた。
「今だ、レオナ! とどめいったれ!」
祐樹はウィザードナイトの様子を確認すると、再びレオナへと大声をぶつける。
レオナはそんな祐樹の言葉を受けると、コクリと頷き、魔法を発動した。
「はぁぁぁぁ……アブソリュート・ゼロ!」
『!?』
レオナが魔法を発動した瞬間、ウィザードナイトの足元に冷気が発生し、ウィザードナイトの体を凍りつかせていく。
ウィザードナイトはそれに抗おうと体を動かそうとするが、これまでに与えられたダメージのせいでそれもできない。
やがてウィザードナイトの体は、完全に凍結した。
「……さて、こっからは、あいつらに任せるとしますか」
祐樹はまるで墓標のように、ウィザードナイトの目の前に、キャンセラーブレイドを突き刺す。
そしてそのまま、人差し指と中指を立て、魔法を発動した。
「頑張れよ……レオナ。クリティカルジャンプ」
祐樹の姿は一瞬にしてその場から消え、そこには、凍結されたウィザードナイトと、キャンセラーブレイドだけが残される。
そしてその後その場所に、レオナが駆け寄ってきた。
「ユウキ! やったわね! …………ユウキ?」
駆け寄ってきたレオナの視界に入るのは、キャンセラーブレイドともはや動かなくなったウィザードナイトのみ。
レオナは祐樹の姿が見えない事を理解すると、腕を組んで頬を膨らませた。
「何よ、かっこつけちゃって…………ばか」
レオナは膨れた顔でそっぽを向き、言葉を紡ぐ。
その言葉はやがて風に吹かれ、戦場の空へと吸い込まれていった。