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第八十六話:魔法使い軍の戦況

「全てを塵に帰す紅蓮の炎。眼前の敵を焼き尽くせ。”アース・フレイム”!」


 レオナは杖を敵モンスター群にかざし、大魔法を発動する。

 炎の塊は上空からモンスター達に落下し、多くの断末魔が戦場にこだました。


「はあっはあっ……このままじゃ、キリが無いわね」


 しかし、大魔法で倒したモンスターの背後から、また新たなモンスターが姿を現す。

 その様子を見たレオナは、奥歯を噛み締めてそのモンスター達を睨みつけた。


「報告します! 敵モンスターに詠唱完了の兆候あり!」

「!? わかった。一旦攻撃部隊は詠唱中止! すぐ防御部隊に連絡して防御魔法を発動して!」


 レオナは伝令係と思われる生徒からの言葉を受けると、右手をかざしてすぐに指示を出す。

 伝令係は「はっ! 了解しました!」と敬礼と共に返事を返し、伝令を伝えるべく走り出した。


「くぅ……今はなんとかなってるけど、このままじゃジリ貧ね……」


 レオナは指令台から冷静に戦況を判断し、悔しそうに奥歯を噛み締める。

 そしてそんなレオナを、祐樹は遠くから見つめ、独り言を呟いていた。


「んー、さてさて、どっから手をつけたもんかなぁ」


 祐樹は魔法使い軍の苦戦している現状を見つめながら、ボリボリと頭を搔く。

 魔法使い軍は相手モンスターからの魔法攻撃を防御しつつこちらからも攻撃魔法で反撃しているようだが、なにぶん数の差がありすぎる。

 誰の目から見ても、劣勢は明らかだった。


『仕方ねえ。とりあえずはこっちの防御を固めるところから始めるか……それにはまず、杖がいるな』


 祐樹はキョロキョロと辺りを見回し、適当な場所に生えていた一本の木を見つける。

 ピンときた祐樹は一瞬でその木に登り、人差し指程度のサイズの枝を一本ポキリと折った。


「……ま、これで代用すっか。なんとかなるだろ」


 祐樹はその枝を指で摘み、精神を集中させる。

 やがて祐樹の掴んでいる枝は黄緑色の輝きを放ち始めた。


「全ての英知を切り裂くは、絶対の剣。創生せよ、絶縁の時を。”キャンセラー・ブレイド”」


 祐樹が呪文詠唱を終えた瞬間、指で摘んでいた枝は焼き消え、城ほどの大きさのある巨大な剣が突如上空に出現する。

 それは回転しながら落下し、やがて魔法使い軍の目の前に落下した。


「きゃあ!? きゃ、キャランセラーブレイド!? SSランクの大魔法を、一体誰が!? しかも、こんな巨大な……!」


 キャンセラーブレイドはまるで一つの壁のように、魔法使い軍の前に斜めに突き刺さっている。

 そしてその剣を見た相手モンスターは、叫び声を上げながら攻撃魔法の発動を続けた。


『グギャギャギャギャ!』


 相手モンスターによって発動されたのは、Bランク魔法のフレイムランサー。

 炎の槍はその勢いを増しながら、魔法使い軍へと突進していく。

 しかし―――


「グギャ!?」


 フレイムランサーがキャンセラーブレイドに激突した瞬間、炎の槍はその姿を一瞬にして消失する。

 相手モンスターは頭に疑問符を浮かべるばかりで、まるで現状を理解できていなかった。


「相手の魔法を打ち消した!? じゃあ、あのキャンセラーブレイドは味方が発動させたの!? 誰が!?」


 レオナは指令台の上から、周囲の生徒へと視線を向ける。

 しかしどの生徒もぶんぶんと顔を横に振り、自分ではないとレオナに返答した。


「いよっ。レオナ。なんか苦戦してたみてーだな」

「きゃあ!? ゆ、ユウキ。いつのまにここに!?」


 レオナは突然隣に現れてにこやかに片手を上げる祐樹に対し、驚きの声を上げる。

 しかし祐樹はそんなレオナの様子に構わず、さらに言葉を続けた。


「なんか知らんけど、これはチャンスじゃねーの? 相手モンスターからの魔法はこれで封じられたんだ。キャンセラーブレイドのせいでこっちからも相手が見えねえけど……」

「!? そ、そうか。防御担当だった学生も動員して攻撃魔法を乱発すれば、敵の頭数を減らせるかもしれない!」


 レオナは祐樹の言葉を途中で遮り、声を荒げる。

 祐樹は満足そうにうんうんと頷き、「そゆこと、さっすがレオナ」と返答した。


「全軍に伝令! 防御部隊は攻撃部隊と合流し、ありったけの火力で相手モンスター軍に攻撃しなさい! 今はとにかく、相手の数を減らすわよ!」

「りょ、了解!」


 レオナは伝令係と思われる生徒に、片手を伸ばしながら指示を出す。

 それを受けた生徒は思わず敬礼を返し、そのまま各部隊へと伝令を伝えに走った。


「いやー、キャンセラーブレイドが降ってくるなんて、不思議な天気もあるもんだなぁ」


 祐樹はぽわわんとした笑顔で空を見上げ、おっとりとした様子で言葉を紡ぐ。

 レオナはそんな祐樹に対し、即座にツッコミを入れた。


「不思議すぎるでしょ!? 一体あれ誰の仕業よ!? キャンセラーブレイドって言えば、王宮専属魔法使いが50人がかりでようやく発動できる超大魔法よ!?」


 詰め寄ってくるレオナに対し、祐樹は「ま、まあまあ。俺に言ってもしょうがねえって」と、嗜めるように返事を返す。

 その返事を受けたレオナは。「そ、そりゃそうだけど……」と呟き、俯いた。


「おおーいレオナ! あのキャンセラーブレイドは、君の仕業か!?」


 その時、攻撃部隊に所属していたギャレットが、片手を振りながら指令台へと走ってくる。

 どうやらキャンセラーブレイドに驚き、レオナに発動者を確認しに来たようだ。


「ギャレット!? うるさいわね! そんなのアタシだって知りたいわよ!」

「こ、こわい! なんでキレてるんだ君は!?」


 ギャレットは鬼の形相で振り返ったレオナに驚き、思わず後ずさる。

 すると今度は祐樹が、レオナの肩をぽんぽんと叩いた。


「それよりレオナ。どうやら頭数が減ったことで、相手のボスがご登場のようだぜ」


 祐樹はにっこりと微笑みながら、親指で前方を指差す。

 するとキャンセラーブレイドの向こう側に、何か黒い影が立っているのが確認できた。



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