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第八十五話:ニャッフルVSケルベロス

「はい、とーちゃーく。どうだ、早かっただろ?」

「は、早いっていうか、何がどうなってるにゃ!? ここどこにゃ!?」


 気付けば二人は敵影のない平原のど真ん中に立っており、ニャッフルは動揺した様子で言葉を紡ぐ。

 いや……正確に言えば敵影はあるのだが、巨大すぎて視界に入らなかった。


「まあまあ、ニャッフルさん。落ち着いて目の前のブツを見てみな」

「にゃ?」


 祐樹はニャッフルの肩に両手を置き、その体の向きを変える。

 ニャッフルが変えられた体に合わせ、その視線の向きを変えると……


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「ひにゃああああああああああああ!? こ、このでかい狼何にゃ!? 頭が三つあるにゃ!」

「このエリアのボス。ケルベロスだな。いやーこうして見ると改めてでかいなぁ」


 祐樹は動揺するニャッフルと相反して、落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。

 ニャッフルはそんな祐樹に、即座にツッコミを入れた。


「落ち着いてる場合かにゃ! こんなんどうするにゃ!?」

「もちろん、倒すのさ。お前の大事な仲間のためにな」

「にゃ……」


 飄々としていた祐樹は、一転して真剣な表情になり、真っ直ぐにニャッフルの目を見つめながら言葉を返す。

 ニャッフルは一瞬にして顔を赤面させると、小さく鳴き声だけを響かせた。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「おっと、相手さんは待ってくれないみたいだぜ……“フレイムシールド”」


 ケルベロスの中央の頭が、ニャッフル達に対して炎のブレスを吐きかける。

 祐樹は咄嗟に防御呪文を発動させ、巨大な赤い盾が、二人の体を炎から守った。


「そうだにゃ……こいつを倒せば、みんなが助かるにゃ。ニャッフル、やってやるにゃ!」

「よぉし、その意気だニャッフル! いいぞ!」


 ニャッフルはぐっと両拳を握り締め、ケルベロスを睨み付ける。

 とはいえその体格差は歴然で、小型犬が人間に挑むようなものだった。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「にゃっ!? そんな大振りの攻撃、当たらないにゃ!」


 その巨大な爪でニャッフルを引き裂こうとするケルベロスだったが、その体躯故に攻撃が大振りになり、ニャッフルは簡単にその攻撃を避ける。

 その後もちょこまかとケルベロスの足元を走り続けては、その攻撃を避け続けた。


「そうだニャッフル! お前には足がある! そのまま攻撃を避けつつ、ケルベロスの足を攻撃しろ!」

「がってんにゃ!」


 ニャッフルは大振りの攻撃を避けた直後、飛び蹴りをケルベロスの足を攻撃する。

 ケルベロスは痛そうな鳴き声を上げた後、その体勢を崩し、高い場所にあった頭が垂れ下がり、地面に落ちた。


「今だ! 今度は攻撃を頭に移行! ありったけをぶちかませ!」

「にゃあああああああああ!」


 ニャッフルは垂れ下がっている頭に対し、思い切り正拳突きを叩き込む。

 それを食らったケルベロスは、苦しそうな断末魔を上げながらも、再び体勢を立て直した。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「ちっ。ブレス攻撃か……“アイシクル・シールド”!」


 ニャッフルに向けて、今度は右側の頭が、冷気のブレスを浴びせかける。

 それを読んだ祐樹は咄嗟に呪文を発動させ、ニャッフルの体を巨大な盾で守った。


「ニャッフル! ブレスはこっちで対処する! お前はさっきと同じように、足を攻撃して態勢を崩し、頭に大技を当てろ!」

「がってんにゃ!」


 ニャッフルは祐樹の言葉を受け取ると、再び足を動かして巧みにケルベロスの攻撃を避け、足を攻撃し、頭に大技を当てることを繰り返す。

 祐樹は大声でニャッフルに指示を与えながらも、適所では必ず、ブレス攻撃を防いでいた。


『ユウキ……確実にニャッフルを守ってくれてるにゃ。これなら、いけるにゃ!』


 ニャッフルは心中で祐樹の的確な動きに感動しつつ、己のやるべきことを続ける。

 すると、次第にケルベロスの呼吸が乱れてきた。


「よぉし、やっこさん参ってるぞ! もう一息だ、ニャッフル!」

「はーっ、はーっ。が、がってんにゃ!」


 祐樹の激励に対し、満身創痍の状態でかろうじて答えるニャッフル。

 祐樹はそんなニャッフルの様子を見ると、奥歯を噛み締めた。


『くそ。ニャッフルの方も限界か……でも俺の計算だと、あと一撃なんだ。踏ん張れニャッフル!』


 祐樹は心の中でニャッフルを応援しつつ、防御呪文を繰り返す。

 ニャッフルはその速度を落としながらも、かろうじてケルベロスの攻撃を避け続けた。


「にゃ、あああああああああああああ!」

『グオ!?』


 ニャッフルは大振りの攻撃の隙を突き、渾身の足払いを決める。

 すると大きくケルベロスの体勢が崩れ、その頭が地面まで垂れ下がった。


「!? よぉし、今だニャッフル! 中央の頭に、お前の全部を叩き込め!」


 祐樹はそんなケルベロスの様子を見て取ると、ニャッフルへ大声で指示を出す。

 ニャッフルはボロボロの体を引き摺りながら、しかし一瞬にして、ケルベロスの頭へと近づいた。


「にゃああああああああああ! 奥義! “豪・裂衝連撃”!」


 ニャッフルはケルベロスの頭を一度空中に蹴り上げ、さらに空中にジャンプすると、そこから五連撃を叩き込む。

 するとケルベロスは大きな断末魔を吐き、その巨大な体を横に倒した。


「や、やった……やったにゃ!」

「よっしゃあ! やったな、ニャッフル!」


 ボロボロになりながら両手でガッツポーズを取るニャッフルに、同じくガッツポーズで応える祐樹。

 ケルベロスはもう動くことは無く、完全に戦闘不能状態だった。


「にゃあああ! ユウキ、すごいにゃ! これもユウキのおかげにゃ!」

「っとと……はは、ありがとよ」


 ニャッフルは思い切り祐樹に抱きつき、喜びに瞳を潤ませる。

 祐樹はそんなニャッフルを抱きかかえながら、苦笑いを浮かべた。


『何言ってんだか……あんなでかいやつに立ち向かったんだ。お前の方が、よっぽどすげーよ』


 祐樹は穏やかな笑顔を浮かべながら、抱きついてきたニャッフルの頭を見つめる。

 ニャッフルはしばらくそうしていたが、ある時はっとして体を離した。


「そ、そうだにゃ! ニャッフルはこの軍を率いてるんだったにゃ! すぐに戻らにゃいと!」

「ん、そうだな。ほい、“クリティカルジャンプ”」

「にゃ!? ま、また一瞬で移動したにゃ!?」


 くっついていた二人は、いつのまにか元いた指令台の上へと戻る。

 そしてそこから見える戦況は、先ほどとは全く違ったものになっていた。


「にゃ!? す、凄いにゃ! みんな、善戦してるにゃ!」


 ケルベロスの統率を失ったモンスター達は烏合の集と化し、獣人族達が完全に圧倒している。

 ケルベロスを倒す前と後では、その戦況は雲泥の差である。


「見るにゃユウキ! 戦況が……あれ?」


 ニャッフルは喜びを分かち合おうと祐樹の立っていた場所に振り向くが、そこに祐樹の姿はない。

 ニャッフルは少し考えた後、穏やかに笑って、言葉を紡いだ。


「……ありがとにゃ。ユウキ」


 ニャッフルの言葉は風に乗り、やがて空の上へと消えていく。

 そしてその頃、祐樹はと言うと―――


「さぁて、次はこっちか……こりゃ、どうしたもんかなぁ」


眼前に広がるのは、魔法の応酬。

 魔法を操るモンスターの魔法が発動すると、学生達が防御呪文を唱え、逆に相手モンスターが詠唱時間に入ると、学生達が攻撃呪文を発動させる。

 戦力は完全に拮抗……いや、どちらかと言えば、数の差で魔法使い軍が押されているように見える。


「……ま、なんとかするしかねえか。な、レオナ」


 祐樹は指令台に立って大魔法を連発するレオナに対し、遠くから小さく、声をかける。

 戦いはまだ、始まったばかり。

 まるでそう次げているかのような強い風が、祐樹の前髪を強く揺らした。


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