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第八十三話:王都防衛戦・開幕

 各々の配置や守るべき門も決定し、各部隊の取りまとめも終わった一行が参謀室に集まっていると、その一報は、前触れもなくやってきた。


「ほ、報告します! 敵モンスターに動きあり! 総攻撃を仕掛けてくる様子です!」


 見張り役の兵士は息を切らせ、参謀室に飛び込んでくると、叫ぶように現状を報告する。

 その言葉を聞いた一行は、同時に顔を見合わせ、一度大きく頷いた。


「では、行きましょう、皆さん。私たちの出番です」


 アオイは座っていた椅子から立ち上がり、腰元の剣の位置を直しながら言葉を紡ぐ。

 しかしそんなアオイを、祐樹は右手を伸ばして制した。


「ちょいまち、アオイ。これから出陣なんだ。みんなに言うこと、あるんじゃねーの?」

「あ……」


 にっこりと笑いながら言葉を紡ぐ祐樹の目を見て、何かに気付いたように目を見開くアオイ。

 その後ゆっくりと剣を抜くと、天井にそれを掲げた。


「……皆さん。この戦いは、王都に生きる全ての人々のための戦いです。負けられない。絶対に負けられない戦いです。ですが―――私はあえて、最も困難なお願いを、皆さんにしなければなりません」

「「「「…………」」」」


 祐樹を含めた四人が、真剣な表情でアオイを見つめ、その言葉を受け取る。

 アオイは真剣な表情のまま、言葉を続けた。


「どうか、生きてください。生きてここに、戻ってきてください。私から言うべきことは、もうそれだけです」


 アオイは剣を掲げたまま、そう言葉を締めくくる。

 するとレオナが、背中の杖をアオイの剣に当て、言葉を返した。


「了解。どんなことがあっても、生きて戻るわ」


 アオイとレオナは視線を合わせ、そしてどこか恥ずかしそうに笑う。

 すると今度はフレイが、背中の槍をアオイの剣に当てた。


「ま、どーにかなんだろ。アタシがそう簡単に死ぬかっつーの」

「フレイさん……」


 アオイとフレイは視線を合わせ、同じくどこか恥ずかしそうに笑う。

 すると今度はニャッフルが、ぽんっとアオイの手に肉球を当て、にいっと笑った。


「ニャッフルは無敵にゃ! 心配ごむよーにゃ!」

「ニャッフルちゃん……ふふっ、そうでしたね」


 アオイとニャッフルは視線を合わせ、楽しそうに笑う。

 最後に祐樹は、握った拳でアオイの鎧をこつん、と叩き、言葉を返した。


「心配すんな、アオイ。この戦い…………絶対勝つぞ」

「―――っ! はい、師匠!」


 真っ直ぐに自分を見つめ、一点の疑いもなく勝利を宣言する祐樹に対し、感激しながら返事を返すアオイ。

 祐樹はそんなアオイの様子を見ると、悪戯に笑った。


「では、参りましょう、皆さん! この街を守り、そして、生き残る為に!」

「「「「おう!(にゃ)」」」」


 アオイの言葉に全員が返事を返し、それぞれの部隊の元へと駆け出していく。

 日の光は今日も強く。風は心地よく吹き抜ける。

 それら全ては、これから始まる激戦の、序曲を奏でているようにも思えた。







「さて……とはいえ俺は、どこにいたもんかね」


 祐樹は両手をポケットに入れながら、城の廊下をダラダラと歩いている。

 開戦したとはいえ、祐樹には所属する部隊があるわけではない。苦戦している部隊があれば当然援護に行くが、それまでどこで待機するかが問題である。


「……あ、そっか。うってつけの場所があるじゃん」


 祐樹は既に知り尽くしている城の廊下を歩き、やがて先ほど駆け込んできた兵士のいる見張り台へとたどり着く。

 突然入ってきた祐樹に、見張りの兵士は驚きの声を上げた。


「ほあ!? あ、あなたは勇者様のお連れの方……出陣されたのではなかったのですか?」

「んー……まあ色々事情があってねえ。お、やっぱここからなら全部隊の状況わかるじゃーん」


 祐樹は右手を双眼鏡の代わりのように眼の上に当て、キョロキョロと周囲を見回す。

 その視界には、モンスターと激突している各部隊の様子が手に取るように良く見えた。


「はぁ、まあ、王都で最も高い場所ですので……それよりあなたは出陣しなくてよろしいのですか?」

「それを判断するためにここに来たんだけどね……ちっと、こりゃ忙しくなりそうかな」

「???」


 祐樹は見張り台から各部隊のおおよその状況を判断すると、小さくため息を落とす。

 見張りの兵はそんな祐樹の様子を、頭に疑問符を浮かべながらただ見つめていた。


『全部隊苦戦中……か。しかしまずは、ニャッフルのところからだな』


 祐樹は頭の中で思考を回転させると、最初に行くべき場所を決める。

 そして深呼吸すると、精神を集中した。


「じゃあ、邪魔したね兵士ちゃん。お仕事頑張って」

「はっ! 了解しました!」


 兵士は祐樹の言葉を受けると、ビシッとした敬礼を返してみせる。

 どんな人間にも杓子行儀にしている兵士に苦笑いをしながらも、祐樹は人差し指と中指を立ててポケットから出し、やがて口を開いた。


「1なる空間、2なる空間、それら全てよ我に従い、跪け。創世せよ、活劇の舞台を。”クリティカルジャンプ”」

「へっ? ……あれ!?」


 祐樹が呪文詠唱を終えると同時に、水面に広がる波紋のようなものが祐樹の体の回りに広がり、その後祐樹の姿が忽然と消える。

 兵士はただ呆然と、祐樹の立っていた空間を見つめていた。



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