第八十二話:アオイの決心
「それにしても……想定以上に、敵モンスターが多い。これは、厳しい戦いになりますね……」
アオイは真剣な表情で地図を見つめ、独り言を呟く。
フレイはそんなアオイの肩に腕を回すと、悪戯な笑顔を浮かべながら言葉を返した。
「なぁーに、アタシ達だって弱くねーんだ。なんとかならぁな」
「そうね。それにこの戦いはもう、“勝つ”“負ける”じゃない。“勝たなければならない”戦いなんだから、腹をくくるしかないわ」
「だいじょうぶにゃ! ニャッフルのねこパンチがあれば、モンスターなんか一発にゃ!」
「皆さん……ありがとうございます!」
アオイは四人からの声を受けると、これまでにない満面の笑顔で返事を返す。
少し遠くからその様子を見守っていた祐樹は、その笑顔を見ると、両目を見開いてそれに見惚れた。
「……ていうか、あと一人。役割が決まってない奴がいるんじゃないの?」
レオナは胸の下で腕を組みながら、祐樹のいる方角へと視線を向ける。
祐樹は突然振り向いたレオナに驚き、引きつった笑顔を浮かべながら、返事を返した。
「あ、お、俺!? 俺はほら、もちろんみんなのバックアップさ。バッチリサポートしてやるぜ」
「本当……? あんた一人でサボる気じゃないでしょうね」
レオナは胸の下で腕を組みながら、ジト目で祐樹を見つめる。
どうやら祐樹の引きつった笑顔が、レオナの猜疑心に火をつけてしまったようだ。
「師匠はそんな臆病者ではありません! そうですよね、師匠!」
「お、おうよ! 任せとけってんだ!」
アオイの力強い視線を受け、思わず噛みながら返事を返す祐樹。
レオナはそんな祐樹の様子を見ると、「はぁ、やっぱり不安だわ……」と呟き、片手で頭を抱えた。
「ま、いーじゃねーか。祐樹は自由行動ってことで。サボったら後で全員からデコピンな」
フレイは悪戯な笑顔を浮かべながら、祐樹の頭をがしがしと撫でて言葉を紡ぐ。
祐樹はフレイの言葉を受けると、引きつった笑顔で返事を返した。
「はは……レオナとかはともかく、お前のデコピンは頭蓋骨陥没しそうだな」
「にゃははは! ニャッフルはデコピン得意にゃ! 覚悟しとくにゃ!」
「いや、ていうか俺サボらねえよ? お前らさっきから俺サボる前提で話進めんなっての」
祐樹は少し影を薄くしすぎたかと反省しながら、苦笑いをしてポリポリと頬を搔く。
そんな祐樹に対し、いつのまにかアオイは、不安そうな視線を送っていた。
「なんだよ、お前まで疑ってんのか? 大丈夫だって、俺は―――」
「あ、いえ、そうではないんです……」
「???」
祐樹の言葉を遮り、アオイは言葉を紡ぐ。
祐樹はそんなアオイの様子を不思議に思い、頭に疑問符を浮かべた。
「その、私が本当に軍を率いれるのかと、今更ながら不安になってしまって……」
アオイは人差し指の先を合わせながら、少し自信なさげに言葉を紡ぐ。
祐樹はそんなアオイの言葉を受けると、にいっと歯を見せて笑いながら、その肩に優しく手を置いた。
「なーに言ってんだよ勇者様が。お前は紛れも無い勇者だ。それは、腰元にあるその剣が、証明してくれてるだろ?」
「あ……」
祐樹の言葉を受けたアオイは、腰元に付けた伝説の剣に視線を移す。
剣の刀身こそ見えていないが、剣はどこか、アオイの背中を押しているように思えた。
「それに、お前は一人じゃねえ。俺たちだって、一緒に戦うんだ。距離が離れてたって、その事実は変わらねえよ」
祐樹はアオイの肩に手を置いたまま、真っ直ぐにその瞳を見つめ、言葉を紡ぐ。
アオイはそんな祐樹の言葉に感激し、穏やかに微笑んだ。
「師匠…………はい! その通りですね!」
アオイは祐樹の言葉を受け、またも満面の笑顔を見せる。
そしてその笑顔を見た祐樹は、その華やかさに、思わず赤面した。
「いたひ!? なんで今俺蹴られたの!?」
そんな祐樹の尻に、レオナの鋭い蹴りが入る。
そしてまるで当然のように、ニャッフル、フレイもそれに続いた。
「いて! いてえよ! なにこれ流行ってんの!?」
涙目で言葉をぶつける祐樹に対し、「「「自分で考えろ(にゃ)」」」と返事を返す三人。
祐樹は尻を摩りながら頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。
「ま、ともかく自分の軍をまとめに行こうぜ! ここにいたってしょーがねーし!」
「そうね。私もギャレット達と作戦を練らないと……」
「ニャッフルも、里のみんなと準備するにゃ!」
「ふふっ。そうですね。私も、騎士団の皆さんに挨拶してきます」
こうして四人は参謀室を出て、それぞれの軍団へと歩みを進めていく。
それを見送った祐樹は、廊下の窓から見える日の光に、目を細めた。
「いよいよ始まる……か。さて、俺も準備しねえとな」
祐樹はポケットに両手をつっこむと、そのまま城の廊下を歩いていく。
日の光は変わらず、王国を照らす。
しかしその光は同時に、これから始まる大戦をも、明るく照らし出すことになるのだった。