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第八十一話:作戦会議

「おーいアオイー。今戻ったぜー」

「師匠! お待ちしていました!」


 王都に到着した祐樹は、フレイに乗った状態で出迎えてくれていたアオイへと片手を上げて挨拶する。

 アオイは満面の笑顔で、嬉しそうに返事を返した。


「で、どーよ? 戦況は。王様から聞いたんだろ?」

「ええ。ですが、どうも芳しくないようです……」

「だろうなぁ……」


 上空から様子を見る限り、モンスターの軍勢もまだまだ大量に生き残っており、今は膠着状態にあるようだが、いつ襲い掛かってきてもおかしくはない。

 いやむしろ、戦力だけを冷静に分析すれば、王都側が圧倒的不利である事は明白だろう。

 祐樹達が、援軍を連れてくるまでは。


「でもまあ、今回の援軍で五分五分くらいまでにはもってけるだろ。みんなは参謀室に集まってんのか?」


 祐樹は頭をボリボリと搔きながら、アオイへと質問する。

 アオイは状況を言い当てられた事に少し驚きながらも、返事を返した。


「あ、はい。おしゃっる通りです。皆さん既に集まって、作戦を考えています」

「そっか。だってさ、フレイ、レオナ。一緒に行こうぜ」


 祐樹はアオイの言葉を受けると、背後で竜になっているフレイに声をかける。

 フレイは竜の姿のまま、返事を返した。


「おう。ちょっと待ってな」

「いよいよ作戦会議か……緊張するわね」


 フレイは全身から力を抜き、人の姿へと戻っていく。

 まさか竜の姿のまま作戦会議に参加するわけにもいかないだろう。

 レオナはフレイが人の姿に戻る前にその背中から降り、祐樹の隣に立った。


「俺達は俺たちにできることをやるだけさ。とりあえず、戦況を整理しに行こうぜ」

「さすが師匠。賢明なご判断です」

「あっはっは! ま、なんとかならぁな!」

「はぁ……なんか不安だけどね」


 皆それぞれの想いを抱きながら、セレスティアル王城の廊下を歩いていく。

 そうして少し緊迫した空気の中、参謀室の扉を開いた。







「にゃっほー! みんな、待ってたにゃ!」

「……緊張感の欠片もねえな」

「ふふっ……ですね」


 参謀室の扉を開いた途端、視界に飛び込んでくる笑顔で手を振るニャッフルの姿。

 祐樹はその姿に冷静にツッコミを入れ、アオイはどこか困ったように笑った。


「にゃんか、さんぼーさんが説明してくれてるけど、全然わかんにゃいにゃ。だから、作戦はみんなに任せるにゃ」

「参謀の説明くらい聞いてやれよ……まあいいや、あんたがセレスティアルの参謀さんかい?」


 祐樹は作戦について丸投げしてきたニャッフルに大粒の汗を流しながらも、近くに立っていた参謀らしき男性に声をかける。

 眼鏡をかけたその男性は、祐樹の言葉を受けると、嬉しそうな声で返事を返した。


「おお、皆さんが勇者殿のお連れの方ですね。この度は強力な援軍、感謝致します」


 参謀はうやうやしく頭を垂れ、祐樹達へとお礼の言葉を述べる。

 確かに獣人族の精鋭たちと学園都市の生徒達なら、充分すぎる援軍だろう。

 しかし、参謀は顔を上げると、深刻な表情で戦況を説明し始めた。


「ですが……皆様の援軍を含めても、戦況は不利と言わざるをえません。このマップをご覧ください」


 参謀は参謀室の中心にある大きなテーブルに、王都を中心としてその周囲を描いた地図を広げる。

 その地図の周りには、まるで染み込んでくる血のような赤が、完全に王都を取り囲んでいた。


「この赤の部分に、敵軍がおります。東西南北それぞれ特色はありますが、360度包囲されている現状に変わりはありません。おまけに―――」

「おまけに、こっちの戦力は大分削られてる……か?」


 祐樹は腕を組み、参謀の困ったような表情を見て言葉を紡ぐ。

 参謀はこくりと頷くと、言葉を続けた。


「おっしゃるとおり。こちらは王国の誇る“騎士団軍”とギルドの“冒険者軍”で応戦しておりましたが、先日の襲撃で半数以下にまで減ってしまいました」

「……話だけ聞くと、状況は絶望的ね」


 レオナは参謀の話を聞きながら、胸の下で腕を組み、ため息を吐きながら言葉を紡ぐ。

 アオイはそんなレオナの様子を見ると、凛々しい表情で言葉を返した。


「ですが、諦めるわけにもいきません。我々が負ければ、王都に住む多くの人々に被害が及ぶことになります」

「そうね。どうしたものかしら……」


 アオイの言葉を受けたレオナは、曲げた人差し指を顎に当て、何かを考えるような仕草をする。

 その時祐樹が、のろのろと片手を上げて声を発した。


「あの~。俺から提案があるんだけど、いいかな」

「はっ、はい。どうぞ」


 参謀は藁にもすがる想いで、祐樹に提案を促す。

 祐樹は一度こほんと咳払いすると、言葉を続けた。


「まず、王都は東西南北に門があって、守るべきはその四点に絞られる。それ以外の場所は高い壁で守られているからな。そこまではいいか?」

「はい。おっしゃる通りです」


 参謀をはじめ、アオイやレオナ達もこくこくと頷く。

 祐樹はその様子を見てニヤリと笑うと、更に言葉を続けた。


「なら、話は簡単だ。東西南北、それぞれの門を俺たち一人一人が担当になって守ればいい。もちろん、それぞれ軍を率いてな」

「なるほど……例えば、西の門は私が王国騎士団と協力して守り、東はフレイさんと冒険者軍で守る……といった形でしょうか」


 アオイは曲げた人差し指を顎に当て、地図を見ながら言葉を紡ぐ。

 祐樹はその言葉に満足し、うんうんと頷いた。


「ご名答だ、アオイ。じゃ、そっから先はよろしく~」


 祐樹はひらひらと手を振りながら、そっとアオイの影に隠れる。

 アオイは祐樹の言葉にこくりと頷くと、さらに言葉を続けた。


「わかりました。では、担当箇所を決めましょう。参謀さん、東西南北のモンスターに、何か特色はありますか?」


 アオイは参謀へと視線を送り、それぞれの方位のモンスターの特性を訪ねる。

 参謀は慌てて懐からメモを取り出すと、それを読み上げた。


「はっ、はい。北は陸を走る獣型のモンスターが多く、東は飛行型のモンスター。南は魔法を操るモンスターが多く、西はゴーレム型の強靭なモンスターが多い特色があります」

「なるほど……そうなると、おのずと配置は決まってきますね」


 アオイは再び曲げた人差し指を顎に当てると、レオナへと視線を送る。

 レオナはその真意を汲むと、ゆっくりとした動作で地図を指差した。


「私は学園都市の生徒と共に“魔法使い軍”を結成して、南の防御に徹するわ。魔法には魔法で対処しないとね」


 レオナは少しだけ笑いながら、アオイへと視線を送る。

 アオイはそんなレオナに微笑を返すと、うんうんと頷いた。


「んじゃアタシは、“冒険者軍”を率いて東の飛行型モンスターを狩るぜ。弓を使える奴も多いだろうし、アタシの竜変化もあるしな」


 それまで沈黙を守っていたフレイは、アオイへと近づき、地図を指差しながら悪戯な笑みを浮かべて地図の東側を指差す。

 するとその言葉に続くように、ニャッフルがぴょんぴょんジャンプしながらアオイへと飛びついた。


「じゃあじゃあ、ニャッフル達“獣人族軍”は、北の獣型モンスターをぶっ飛ばすにゃ。普段から狩りしてるし、倒すのは慣れてるにゃ」


 ニャッフルはぶんぶんと尻尾を左右に振り、肉球で東側を指差す。

 アオイは二人の言葉を受けると、嬉しそうに笑いながら返事を返した。


「お二人とも、ありがとうございます。そうなると必然的に、西は私が率いる“騎士団軍”で守ることになりますね」


 アオイはどこか自信に満ちた表情で、地図の西側を指差す。

 すると参謀が、おずおずと片手を上げて声を発した。


「あの……なんというか、申し訳ありません。皆様に援軍を頂くばかりか、配置まで決めて頂いてしまって……。四箇所を同時に守らなければならない以上、私もそれ以上の配置は無いと考えます」

「うっし! 決まりだな! じゃあ参謀ちゃんは、王様にこのことを知らせてきてくれや。アタシ達は戦の準備に入るからよ」

「はっはい! わかりました!」


 参謀はフレイの言葉を受けると、ぴしっと背筋を伸ばして答える。

 その時ずれてしまった眼鏡を慌てて直しながら、参謀は参謀室を飛び出していった。


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