第八十話:大戦の予感
「これは……」
「ひどいにゃ……」
王都上空に到着した一行の視界に入ってきたのは、まさしく激戦の跡。
モンスターの死体や折れた剣などが王都の周囲に散乱し、負傷した城の兵士達の姿も確認できる。
アオイは真剣な表情で、竜化しているフレイへと声を発した。
「フレイさん! 王城前広場に着陸してください! 一刻も早く王様と謁見しなくては!」
「おう! まかしとけ!」
フレイは運んでいた籠ごと、王城前広場にゆっくりと着陸する。
王城の番兵は警戒して槍を構えるが、すぐにアオイが降り立ち、声を荒げた。
「私達は敵ではありません! アオイ=フィルソードです! 王様との謁見を希望します!」
「あ、アオイ殿でありましたか! はっ! 早速手配致します!」
番兵はアオイに対してきっちりとした敬礼をすると、急ぎ足で城の中へと入っていく。
祐樹はフレイから降りると、アオイへと声をかけた。
「アオイ。俺とレオナはこのまま学園都市に行く。お前は王様に今の戦況を聞いて、増援が来ることを伝えてくれ」
「学園都市……ですか。なるほど、学生の皆さんにも協力を仰ぐというわけですね」
アオイは祐樹の真意をすぐに理解し、こくりと頷く。
そうしている間にニャッフル達獣人族はフレイから降り、持ってきた輸送用の籠も空になっていた。
「ちょっとユウキ! 協力を仰ぐって、そんな簡単にいくもんなの!?」
「ま、それも行けばわかるって。任せときな」
「???」
余裕の表情で片手を上げる祐樹に対し、負に落ちない様子で頭に疑問符を浮かべるレオナ。
フレイはみんなの会話を聞き、口を挟んだ。
「おーい、じゃあ次は、学園都市マジェスティックに行けばいいのか?」
「おう! 今乗るから、待っててくれ! アオイ! 王様の方は頼んだぞ!」
祐樹はひらりとジャンプしてフレイに飛び乗ると、両手をメガホンのようにして、再びアオイへと念押しする。
アオイは「わかりました、師匠!」と、力強く言葉を返した。
「じゃ、ちょっと急ぐぜ! しっかり掴まってろよ!」
フレイはその大きな翼を羽ばたかせ、上空へと登っていく。
その後加速をつけて、祐樹たちは一路、マジェスティックへと向かった。
「なるほど……着けばわかるってのは、こういう意味だったわけね」
「な? わかったろ?」
マジェスティックの上空に着くと、すでに都市の入り口には学生達が戦闘用のローブに身を包んだ状態で、今まさに馬車に乗ろうとしているところだった。
まさか遠足にいくわけでもあるまいし、ほぼ間違いなく、王都への援軍だろう。
「じゃ、俺はフレイに乗ってるから、レオナちゃん後よろしく~」
「はぁ!? あたし!?」
唐突な祐樹の言葉に、目を白黒させながら答えるレオナ。
祐樹は悪戯な笑顔を見せながら、言葉を続けた。
「お前の所属学園なんだから、当然だろ? それに、話すべき相手も、その誘い方も……お前なら、もうわかってるだろ」
「…………わかったわよ」
レオナは祐樹の言葉を受けると、少し頬を膨らませるも、最終的にはこくりと頷いてフレイを降りる。
フレイを降りたレオナを待っていたのは、かつての宿敵、ギャレットだった。
「れ、れれれ、レオナ。な、なんだよ、まだ僕に何か用なのか!?」
ギャレットは怯えた様子で、呂律の回らないまま言葉を紡ぐ。
レオナはそんなギャレットの様子に頭痛を覚えながらも、言葉を返した。
「あんたたち、王都に援軍に行くんでしょ? この竜に乗っていけば、すぐ行けるわよ」
「へ? あ、ああ。それは、確かに……」
別大陸にある王都に馬車や船で行こうとすれば、相応の日数がかかってしまうだろう。
しかしフレイに運んでもらえば、その時間を劇的に短縮できるのは明らかだ。
「しかし……いいのか? 僕は君に、ひどいことを……」
ギャレットは俯いた状態で、レオナへと言葉を紡ぐ。
レオナは大きくため息を吐きながら、真っ直ぐにギャレットを見つめ、言葉を返した。
「過去のことは、あの演習試合で決着がついてるわ。あんたも相当馬鹿にされただろうし……それよりも今は、あんたの力が必要なのよ」
「ぼ、僕の力が、必要?」
ギャレットはレオナから発せられた一言にぴくりと反応し、俯いていたその顔を上げる。
レオナはそんなギャレットから視線を外しながら、嫌そうに言葉を続けた。
「ええ。学園都市マジェスティック“主席”のギャレット君の力が、今どうしても必要なのよ」
レオナは台詞を言い終わると、さらに大きくため息を吐く。
そんなレオナの様子を見ていた祐樹は、ぐっと親指を立てて見せた。
「ふ、ふはははは! そうか! そんなに僕の力が欲しいのか! よぉし、生徒を全員、この竜に運んでもらうよう手配しよう!」
「あー、はいはい。ありがとねー」
調子に乗ったギャレットの姿を見たレオナは、ぱたぱたと手を振りながら言葉を返す。
そんなレオナの姿を見た祐樹は、少しだけ苦笑いを浮かべ、そしてそのまま、王都の方角へと視線を向けた。
『さて……いよいよ、終盤のメインイベントだな。俺も気合入れねーと』
祐樹は真っ直ぐに王都のある方角を見つめ、一度パンッと自らの頬を叩く。
こうして学園都市の生徒達を乗せた籠を掴み、祐樹達は再び、王都への道を急いだ。