第七十九話:王都の危機
「ふぅ…………えへへ」
「にゃ~。アオイ、もう一時間以上伝説の剣を見続けてるにゃ」
アオイは鞘から伝説の剣を抜き、嬉しそうな笑顔でその刀身を見つめる。
伝説の剣自身も、心なしか戸惑っているように見えてきた。
「よっぽど嬉しかったんだろうよ。あ、そうだフレイ。新しい槍やるよ、ほら」
「っとと、軽っ!? すげーなこの槍、一体何で出来てるんだ?」
突然の祐樹からのプレゼントに驚きながらも、投げられた槍を受け取るフレイ。
祐樹はちょっと得意気に笑いながら、質問に答えた。
「ふっ。この里では希少価値の高い鉱石が手に入るからな。ちょっと昨日の晩にちゃちゃっと作ってみた」
「そんな朝飯の作り置きみてえに!? ま、まあいいか。ありがとよ」
フレイは数回槍を振り回すと、気に入った様子で背中にくくり付ける。
するとレオナが不満そうに頬を膨らませ、祐樹へと言葉をぶつけた。
「ちょっと、私には何も無いわけ?」
「あ、ああ、悪い。大丈夫、この後すぐわかるからさ」
「???」
いまいち的を得ない祐樹の回答に、訝しげな視線を送りながら首を傾げるレオナ。
そんなレオナの様子を見た祐樹は、慌ててアオイへと声をかけた。
「そうだ、アオイ! 遺跡攻略した件、長老に報告しといたほうがよくないか!?」
「はっ。た、確かにそうですね。では、参りましょうか」
剣にうっとりしていたアオイは我に返り、長老の家に向かって歩き出す。
慌てて飛び出したアオイを追いかけるように、他のメンバーも家を飛び出した。
「おお、勇者様! 見事遺跡を攻略したとの事で、おめでとうございますですじゃ」
「いえ、皆さんのお力添えがあったればこそです。私一人の力ではありません」
家に着いた途端、長老は感激した様子でアオイへと声をかける。
アオイは少し困ったように笑いながら、その言葉に答えた。
「おお、そうですじゃ。家の倉庫を整理しておりましたらな、こんなものが出てきたのですじゃ。皆様の旅に役立つかもしれませぬ。どうか持っていって下され」
「これは……指輪、でしょうか? ありがとうございます!」
長老は何かを思い出したように両手を合わせ、ごそごそとポケットの中から一つの指輪をアオイに手渡す。
アオイはその指輪を見つめると、とりあえず長老にお礼を言った。
「それは魔法使用時に魔力の消費を半分にできるレアアイテムだな。レオナに渡しておくといい」
「そうなのですか。さすが師匠。ではレオナさん、どうぞ」
「あ、ありがと……でもなんか、複雑な気分ね」
「???」
指輪を受け取ったレオナは、生まれて初めてプレゼントされた指輪が女性からのプレゼントという事実に少し戸惑いながらも、それを指にはめる。
戸惑った様子のレオナに対し、アオイは不思議そうに首を傾げた。
『ちょ、ちょ、長老―! 大変です!』
「なにごとかの!? 今来客中じゃ!」
突拍子も無く飛び込んできた青年に対し、声を荒げる長老。
しかし青年の顔は真っ青で、構わず言葉を続けた。
『と、とにかく、村の入り口まで来てください! すぐにわかります!』
「ううむ……仕方ないのう。皆さんはこちらで待っていてくだされ」
「いえ、私たちもお供します。なんだか胸騒ぎがしますし……」
長老の言葉に対し、真剣な表情で言葉を返すアオイ。
長老はその顔を見ると、黙って頷き、「では、ついてきてくださいですじゃ」と歩き始めた。
祐樹は腕を組み、アオイと同じく真剣な表情で長老の後姿を見つめる。
『んー、ついに始まったか。ねこねこ天国ともこれでお別れってわけね……』
祐樹は小さくため息を吐きながら、長老の後ろをついていく。
フレイはそんな祐樹の様子を見ると、不思議そうに首を傾げた。
村の入り口に到着すると、そこには疲れきった一人の獣人族が倒れていた。
「ち、長老……」
「おお、お前は王都に旅立っていたニフル! 一体何があったんじゃ!?」
長老は倒れているニフルに近づくと、慌てた様子で何があったのか質問する。
ニフルは少し呼吸を荒くしながらも、質問に答えた。
「王都が、モンスターの大群に襲われているんです。今はまだ持ちこたえていますが、いつまでもつか……」
ニフルは真剣な表情で、今の王都の状況を説明する。
長老は両目を見開き、ニフルへと言葉を返した。
「なんと、モンスターの大群が!? 魔王の影響が、もうそこまで……」
長老は悔しそうに奥歯を噛み締め、声を漏らす。
それを聞いていたアオイは、祐樹に向かって言葉を紡いだ。
「師匠!」
「言わんとすることはわかってる。すぐ王都に向かうぞ」
「は、はい!」
アオイは祐樹の言葉を受けると、嬉しそうに笑い、返事を返す。
しかしその刹那、長老が口を挟んだ。
「お待ちくだされ。現国王様には恩がありますですじゃ。是非我が村の精鋭たちも、一緒に連れて行ってくだされ」
「わかりました。フレイさん、大勢の人を運んでもらうことになりますが、大丈夫ですか?」
長老の言葉を受けたアオイは、フレイへと目配せしながら声をかける。
フレイはぐっとガッツポーズをとると、歯を見せて笑いながら言葉を返した。
「まかせときな! 何百人でもきやがれってんだ!」
「頼もしいです。実際は人の入れる大きさの籠を運んでもらう形になると思いますが……長老さん、そんな籠ありますか?」
アオイは少し心配そうに、長老へと尋ねる。
長老はニッコリと笑うと、返事を返した。
「元々ここは孤島。主な移動手段は船か空しかありません。当然人が入れる大きさの籠も用意してありますですじゃ」
「それはよかった。では、早速出発ですね」
アオイはニッコリと笑って長老へ返事を返すと、気合を入れるように眉間に皺を寄せる。
ニフルの様子を見るに、王都はかなり深刻な状況にあるようだ。大戦になることは避けられないだろう。
「ま、とりあえずは王都に急ぐとしようぜ。いざ、出発だ!」
「「「「おー!」」」」
祐樹の声に合わせ、四人は右手を天に突き上げる。
その後獣人族の精鋭を乗せた籠を含め、竜化したフレイと共に、勇者様ご一行は王都セレスティアルへと向かった。




