第七話:王都セレスティアルへ
「わぁぁ。見て下さい師匠! 凄い人です!」
「お、おう。確かに凄いな」
二人は今、王都セレスティアルの、城下市場へと足を踏み入れている。
エルフ、ドワーフ、人間、獣人族と、様々な種族の人々が入り乱れ、屋台のような各店舗からは、活気のある声が響いていた。
「ていうかアオイ、こんな街中で師匠とか呼ぶなって。お前一応勇者なんだから」
祐樹は一瞬にしてアオイとの距離を詰めると、ボソボソと小さな声で言葉を紡ぐ。
アオイは祐樹の言葉を受けると、慌てて両手で口を押える仕草をした。
「あ!? す、すみません! 忘れてました師匠!」
「わぁい! アホの子だこの子!」
早速師匠呼ばわりしているアオイに対し、呆れながらツッコミを入れる祐樹。
アオイはふと我に返ると、こほんと咳払いをしてみせた。
「えー、こ、こほん。ではい、行きましょうか。ゆ、ゆゆ、ユウ、キ」
「どもりすぎだろ……まあ、もういいや。これだけ人がいれば、たとえ勇者でも目立たないだろ」
祐樹はボリボリと頭を掻きながら、最終的に妥協する。
アオイはその言葉を受けると、一瞬にして笑顔を取り戻した。
「わぁ、本当ですか師匠! 師匠って呼んでいいんですか!?」
「もう呼んでるじゃねーか! いいよもう! 諦めたよ!」
どうしても師匠呼びをやめないアオイに対し、結局は折れる形となった祐樹。
ある意味では、アオイこそ最強なのかもしれない。
「それにしても凄い人ですね……私の故郷とは大違いです」
アオイはキョロキョロと辺りを見回し、物珍しそうにしている。
祐樹は微笑ましそうにその様子を見て、言葉を紡いだ。
「何せ王都っていうくらいだからな。五大都市の中心に位置するこのセレスティアルには、全ての文明が集まる、なんて言われているくらいだ」
祐樹は攻略本の内容を思い出し、アオイへと都市の説明をする。
アオイはほうほうと頷きながら、祐樹の話を注意深く聞いていた。
「なるほど……さすが師匠。地理にも明るいなんて、さすがです!」
「ははは……ま、攻略本の内容を覚えてるだけなんだけどな」
「???」
ポリポリと頬を掻きながら、少し恥ずかしそうに言葉を返す祐樹。
アオイは聞きなれない単語が出てきたせいか、頭に疑問符を浮かべていた。
「それよりほら、王都には用事があって来たんだろ?」
「はっ。そ、そうでした! 王様と謁見しなくてはむぐっ!?」
「ば、馬鹿! 王様と謁見とか口にすんな! 目立つだろが!」
祐樹は一瞬でアオイとの距離を詰め、その口を右手で塞ぐ。
その時近くの路地裏で、ぼそっと声が響いた。
『王様と、謁見? 良いこと聞いちゃったにゃー♪』
しかしその声に祐樹は気付かず、アオイに対して言葉を続けた。
「いいか? 出来れば俺は目立ちたくないんだ。だから、王様には一人で会いに行ってくれ、オッケー?」
アオイは口を塞がれた状態で、こくこくと頷く。
どうやら納得してもらえたようだ。
「はぁ……なんだかお前を一人で行かせるのが、とてつもなく不安になってきた」
「大丈夫だ、師匠。何ら問題ない。私一人で十分だ」
アオイはキリッとした表情で、王都のてっぺんにある王城を見つめる。
その姿は凛々しく、まさに勇者のオーラを放っていたが……
「お前、そのセリフ死亡フラグだからな?」
「???」
祐樹の言葉にきょとんとして首を傾げるその姿は、まぎれも無くただの少女だった。
やはり心配である。
「物凄く着いていきたいけど……ええい、俺も男だ! そこの酒場で待ってるから、行ってこいや!」
祐樹はアオイの鎧をこつん、と軽く叩き、王城へと送り出す。
アオイは敬礼しながら、びしっと返事を返した。
「はい! 師匠! 勇者の務め、果たしてまいります!」
「ちょ!? だから勇者とか大声で……もういねえし!」
アオイは“王城だー!” と叫びながら、城下町を駆けあがっていく。
祐樹はその背中を見送ると、酒場の席に腰掛け、ため息を落とした。
「ああもう、まさか主人公があんなアホの子だったとは……いくら設定がないからってフリーダムすぎんだろ」
祐樹はジュースを一杯注文すると、それを飲みながら攻略本の内容を思い出す。
勇者は主人公ポジションであるせいか、設定が極端に少なく、各キャラクターに対しての回答も“はい・いいえ”しか存在しない。
そのためどんな性格をしているかは、プレイヤーの想像に任されている部分が大きい。
「……まあ、あんな勇者がいてもいい、よな?」
祐樹は少しだけ楽しそうに笑いながら、ジュースをすする。
そうして落ち着いてみると、王都には本当に様々な人が行き交っていることに気が付いた。
「こうして見ると……本当、いろんな奴がいるな。商人、旅人、傭兵に兵士、それに……ありゃ盗賊か」
祐樹の視線の先には、酒場の奥で酒盛りをしている集団が映っている。
いずれも顔に傷やタトゥーを持つ男ばかりで、いかにも盗賊といった集団だ。
王都セレスティアルとて、その警備は完全に行き届いているわけではない。事の他路地裏に近いこの地域は、あまり治安の良い方ではなかった。
「まあ、だから大通りに比べて人も少ないし、それが理由でここを選んだんだけどな」
イレギュラーな存在である祐樹は、目立つことを好まない。というより、そもそもぼっちだから目立つことに慣れていない。
こうして酒場の隅っこでジュースをすすっているのが、実は一番落ち着ける瞬間だったりするのだ。
「ああ……これでモバイルゲーム端末でもありゃ、最高なんだけどなぁ……」
『???』
祐樹の意味不明な独り言に対し、疑問符を浮かべる周囲の客たち。
祐樹は慌てて自らの手で口を塞ぎ、ジュースを再びすすった。
『い、いかんいかん。ぼっち歴が長すぎて、つい独りごと言っちまった』
ゲームをプレイする際、祐樹は独り言を言いながらプレイすることが多かった。
たとえ異世界に来た異常事態でも、人間の癖というのはそうそう直るものではない。
『とにかく、メタ発言だけは避けねーとな。俺が異世界から来たことがバレたら、どうなるかわかったもんじゃねえ』
祐樹はジュースをすすりながらゆっくりと呼吸をし、自らを落ち着かせる。
そして再び、頭の整理を始めた。
『そういやこの王都で、獣人族が仲間になるんだったよな。名前は確か―――』
「きゃあっ! や、やめてください!」
祐樹の思考を遮るように、女性の甲高い声が響く。
その方角に視線を向けると、先ほど視界に入っていた盗賊が、ウェイトレスに絡んでいた。