第七十五話:にゃんこ天国
「ああ……もう俺、ここで死んでもいいかもしんない」
「突然の絶命宣言!? 落ち着いてください師匠!」
修行を終えた一行は、ニャッフルの実家に泊まりに来ている。
しかし、どうやらニャッフル家は思った以上の大家族だったようで……
『おにーちゃんたち、どっからきたにゃ~?』
『おねーちゃん、きれーにゃ』
『そのおにくはニュッフルのにゃ! とっちゃだめにゃ!』
と、このように、ニャッフルのミニチュア版(妹たち)が、食卓の周りに溢れかえっていた。
当然祐樹たちもこのニャッフルの姉妹たちに囲まれる事となり、つまり祐樹にとっては、とんだモフモフ天国だということである。
「あー、かわえー。ていうか肉球だらけでござる」
「落ち着いてください師匠! 語尾がおかしくなってます!」
ぽわぽわとした笑顔で悦に浸る祐樹に対し、気をしっかりもつよう促すアオイ。
しかしそんなアオイも既に妹達に囲まれており、抱きつかれたり膝の上に乗られたりしている。
「ごめんなさいね~、騒がしくって。何せこの里にお客さんなんて滅多に来ないもんだからね」
「いいえ、おかまいなく。むしろ大好物です」
謝罪するニャッフルの母に対し、キリッとした表情で返事を返す祐樹。
その手は既にニャッフルの妹の顎下を撫でており、妹もゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「ところで師匠。この後はどうするのですか? まだ修行を?」
アオイは懐いてきているニャッフルの妹の頭を優しく撫でながら、祐樹へと質問する。
祐樹は真剣な表情になると、アオイの質問に答えた。
「ああ……明日、長老の所に行こう。ま、行けばわかるさ」
「???」
何かを考えているかのような祐樹の真剣な表情に、頭に疑問符を浮かべるアオイ。
しかしそんなアオイたちとは裏腹に、フレイたちは大変な事になっていた。
「うんめー! かーちゃん! これおかわりな!」
「どんだけ食うのにゃ!? 食料庫が空っぽになっちゃうにゃ!」
「ちょ、もう! 纏わりつかないでよ! 食べられないじゃない!」
フレイはマイペースに空の皿を増やし続け、それにツッコミを入れるニャッフル。
そしてレオナは何故か沢山の妹達に懐かれており、食事どころではないようだ。
「あー、でも、あと二、三日はここに泊ってのんびりしてえなぁ……」
「し、師匠! 魔王ほったらかしはまずいですよ!」
問題発言をする祐樹に対し、ツッコミを入れるアオイ。
そんなアオイに対し祐樹は、ひらひらと手を動かしながら「大丈夫。わーってるって」と、のほほんとした様子で返事を返した。
「はぁ……こんな調子で本当に、大丈夫かしら」
レオナは纏わりついてくる妹達を避けながら、小さくため息を吐く。
こうして楽しい夕食会は過ぎていき、やがて翌日の朝を一行は迎えるのだった。
「さて、じゃあアオイ、早速だけど村長に話しかけてきてくれ」
「あ、はい。わかりました師匠」
翌日一行は祐樹の提案で、朝一番に村長の家へと向かった。
村長の家に到着すると、すぐにアオイは村長へ話しかけた。
「あの、村長さん。おはようございます」
「おお、勇者殿。おはようございますですじゃ。あ、そうそう、先日言い忘れたことがあったのですじゃ」
村長はぽんと両手を合わせると、何かを思い出したように上を向く。
アオイは不思議そうに首を傾げ、言葉を続けた。
「言い忘れ、ですか。一体なんでしょう?」
「実はこの村から南に進むと古代の遺跡があり、その地下には伝説の剣が眠っている、という伝承があるのですじゃ。来るべき時が来たら、その剣に相応しい者にこの伝承を伝えよ……と代々引き継がれてきたのですじゃ」
「その剣に相応しい者……ですか。果たして私が、そうであるかどうか……」
アオイは少し自信なさげに肩を落とし、村長へと言葉を返す。
そんなアオイの頭を、祐樹はぽんと撫で、言葉を紡いだ。
「まあ、相応しいかどうかは行けばわかるさ。とにかく行ってみようぜ」
「そうにゃ! アオイならきっと大丈夫にゃ!」
「ま、試してみる価値はあるんじゃない?」
「道すがらの護衛なら任せとけよ。行ってみりゃわからぁな。あっはっは!」
「皆さん……」
アオイは一同からのエールを受け、嬉しそうに微笑む。
やがて少しの間だけ目をつぶると、再び村長へと向き直った。
「村長さん、私、その遺跡に行ってみます。伝説の剣が私を認めてくれるかはわかりませんが、試してみたいんです」
「おお、それは頼もしい限りですじゃ。道はニャッフルが詳しいはずですので、案内を頼むとよいですじゃ」
アオイの勇ましい姿に、嬉しそうな反応を返す村長。
そんな村長の言葉を聞いたニャッフルは、やー! と片手を天に突き上げた。
「よぉし、みんにゃ、ニャッフルについてくるにゃ!」
「わぁ、すげえ不安」
「ひどいにゃ!? ニャッフルの方向感覚を舐めないでほしいにゃ!」
間髪入れずに不安を口にする祐樹に対し、ぷりぷりと怒るニャッフル。
やがて一行は、村長の話にあった古代遺跡に向けて、村を出発した。