第七十四話:勇者の剣
「せあああああああ!」
「遅い! もっと速くできるぞ!」
高速で接近して横薙ぎをしたアオイの剣を軽々と受け止め、声を荒げる祐樹。
アオイは「はい! 師匠!」と返事を返し、再び剣を構えた。
「アオイ……お前の剣は、勇者の剣だ。勇者とは勇気を持って強大な何かに立ち向かう者を言う。今のお前には、それが足りないんだ」
「―――っ!?」
アオイは祐樹の厳しい言葉を受け、思わず声を失う。
祐樹はそんなアオイの様子に構わず、言葉を続けた。
「恐れるな、アオイ! お前ならそれが、出来るはずだ!」
「!? おい、珍しく祐樹から仕掛けたぞ!」
祐樹は一瞬にしてアオイとの距離を詰め、木刀をアオイへと振り下ろす。
アオイはその木刀が近づいてくるのを、スローモーションのように感じ始めていた。
『見える……何度も受けてきたから、師匠の剣が、見える! 恐れるな、目を瞑るな。前に、出るんだ!』
「せあああああああああああああああああああああ!」
アオイは距離を縮めてきた祐樹に対し、さらに一歩を踏み出し、木刀で薙ぎを繰り出す。
その瞬間、一歩踏み出した分アオイの剣の方が速く、祐樹のわき腹にめり込んだ。
「ぐっ。そうだ、アオイ。そのまま振り切れ!」
「はあああああああああああああああああ!」
アオイは祐樹の言葉通り木刀を振り切り、祐樹の体を後方へと吹き飛ばす。
祐樹はまたも岩に激突すると、岩に大きなヒビが走った。
「!? 師匠、大丈夫ですか!?」
アオイははっと気がつくと、木刀を捨てて祐樹の元へと駆け寄る。
祐樹はヒールで傷を治癒すると、何事もなかったかのように立ち上がった。
「いたた……でも、できたじゃねえか、アオイ。それが、お前の剣だ」
「!? は、はい! 師匠! ありがとうございました!」
アオイは祐樹に対し、深々と頭を下げる。
祐樹はそんなアオイの姿を見ると、嬉しそうに笑った。
『これで、アオイの剣術スキルもマックスになっただろう。第一段階クリア……ってとこか』
祐樹は嬉しそうに笑いながら、下げられたアオイの頭を見つめる。
そして、その右手を頭の上に乗せた。
「よくやった、アオイ。すげーよお前」
「あ……」
祐樹はニッコリと笑いながら、アオイの頭を少し乱暴に撫でる。
アオイはそれを受けると、頬を赤く染め、どこかくすぐったそうに笑った。
「にゃー! ユウキ! やりすぎにゃ! いつまで警護させるつもりにゃ!」
「まったくね。さすがに飽きちゃったわよ」
「この辺のモンスター、一掃したかもなぁ。あっはっはっは!」
そんな祐樹たちの元へ、三人が歩いて近づいてくる。
遠くに見える山の間には、日が落ち始めていた。
「よぉし、そろそろ日も暮れるし、ニャッフルの家に泊めてもらうとするか!」
祐樹は両腕を組みながら、にいっと笑い、全員に向かって声を発する。
ニャッフルは瞳をキラキラさせ、ばんざーいと両手を上に上げた。
「みんな来るのにゃ!? わーい! じゃあ今夜はごちそうにゃ!」
ニャッフルは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ね、祐樹の言葉に応える。
祐樹は悪戯に笑いながら、「ごちそうなら、フレイが食べつくす前に食わないとな」と言葉を返した。
「なんだよユウキぃ。アタシがそんな大飯食らいみたいに言いやがって。ちゃんと20人前くらいに抑えるっつーの」
「それ全然抑えてないからね!? ていうか抑えてそれなの!?」
フレイの衝撃発言に対し、ツッコミを入れる祐樹。
そんな祐樹たちをよそに、レオナはアオイへと近づいた。
「アオイ、大丈夫?」
「は、はい。なんとか。鎧も着ていましたし、師匠も手加減してくださってましたから」
レオナは心配そうにアオイを気遣うが、アオイはにっこりと笑いながら、言葉を返す。
レオナは「それならまあ、いいけどね」と、どこか安心した様子で返事を返した。
「あ、そうだ、アオイ! 今日の修行の成果、忘れるなよ! お前にはまだ、やることがあるんだからな!」
「??? は、はい! 師匠! ありがとうございました!」
祐樹は悪戯な笑顔を浮かべながら、アオイへと言葉を紡ぐ。
アオイは祐樹の言葉の意味がわからないながらも、満面の笑顔でそれに答えた。
「よぉし、じゃあニャッフルの家まで、みんなで競争といくか!」
「にゃ!? ずるいにゃユウキ! ちょっと待つにゃ!」
「お、いいねー! ビリの奴は全員からビンタな!」
「ちょっと!? あたしそれ絶対不利じゃないの!」
「ふふっ。待ってください皆さん! 私も行きます!」
こうして一行は修行を追え、岩場を後にする。
山間にはいよいよ日が落ち始め、オレンジ色の淡い光が、一行を優しく照らしていた。