第七十三話:アオイの修行!
「アオイ! 次はお前の番だ!」
「!? は、はい! 師匠!」
祐樹に呼ばれたアオイは、ニャッフルと交代する形で、祐樹の元へと駆け寄る。
祐樹は村で購入しておいた木刀二本のうち一本を、アオイへと投げ渡した。
「修行には、その木刀を使う。で、肝心の修行方法だが―――」
「は、はい……」
アオイは緊張した様子で、祐樹の次の言葉を待つ。
しかし祐樹から発せられたのは、意外な一言だった。
「ひたすら俺と試合。以上」
「え?」
奥義か何かの伝授があると思っていたアオイは、ポカンと口を開いたまま祐樹を見つめる。
しかし祐樹は、そんなアオイの様子に構わず、木刀を構えて戦闘態勢をとった。
「行くぞ、アオイ! 修行開始だ!」
「!? は、はい! 師匠!」
こうして始まる、祐樹とアオイの演習試合。
しかし、その力の差は歴然だった。
『し、師匠……一振り一振りが正確で、しかも私より数段速い! これでは……!』
「ほい、一本。お前の負けだな」
「くっ! ……はい」
アオイは木刀を弾き飛ばされ、祐樹は自分の持っている木刀の先端をアオイの顔の前に突きつける。
アオイは力なく両手を下げ、悔しそうに奥歯をかみ締めた。
「そうしょげんな、アオイ。お前も充分強くなった。でもまだ、少しだけ足りない。それだけのことなんだ」
「! は、はい、師匠! もう一度お願いします!」
アオイは祐樹の言葉を受けて奮い立ち、木刀を構える。
その姿を見た祐樹は嬉しそうに微笑みながら、同じく木刀を構えた。
「はぁぁぁ……裂衝斬!」
「甘い! 裂衝斬!」
アオイが飛ぶ斬撃技を繰り出すと、祐樹も全く同じ技を繰り出す。
両者の技の衝撃はぶつかり、拮抗するが、やがて祐樹の衝撃波がアオイのそれを飲み込み、アオイは祐樹の衝撃波によって後ろに吹き飛ばされた。
「きゃああああああああ!?」
「アオイ、大丈夫かにゃ!? ユウキ、ちょっと厳しすぎるにゃ!」
ニャッフルは吹き飛ばされたアオイを見ると、祐樹へと抗議の言葉をぶつける。
祐樹はポリポリと頬を搔きながら、ニャッフルへと返答した。
「大丈夫。ちゃんと手加減はしてるよ。ほら、アオイを見てみろ」
「にゃ……!?」
「はーっ。はーっ」
アオイは闘志をむき出しにした瞳で、木刀を杖にしながらフラフラと立ち上がる。
その目に迷いは無く、真っ直ぐに祐樹だけをとらえていた。
「師匠! もう一度お願いします!」
「よぉし! 来い! アオイ!」
こうして再び繰り返される、演習試合。
二つの木刀がぶつかり合う音だけが、岩場に響き渡っていた。
「にゃ、にゃんか凄いにゃ。二人とも、本気で戦ってるみたいだにゃ」
「確かに……修行にしちゃ本格的よね」
ニャッフルは鬼気迫る二人の戦いぶりに、震えながら言葉を紡ぐ。
レオナは胸の下で腕を組みながら、ニャッフルの言葉に同意した。
「ま、あれくらいやんねーと強くなれねえもんさ。あっはっはっは!」
「そういうものかしらね……」
豪快に笑うフレイに対し、ため息を吐きながら答えるレオナ。
しかしフレイは同時に、客観的に二人の様子を見て、考えていた。
『しかしまあ、確かに実戦的すぎる修行だぜ。それだけアオイの経験が足りないのか、それとも―――』
「ちょっとフレイ! ぼーっとしてないで私の護衛、頼んだわよ! いつモンスターが現れるかわからないんだから!」
「お、おう。悪い悪い。あっはっは!」
「もう……」
レオナは不満そうにしながらも、周囲への警戒を再開する。
フレイも同じように周囲を警戒しつつも、頭の中で思考を再開していた。
『それとも、これからアオイの戦うべき相手がいて、そいつは今の祐樹ほどの力を持っている……って、こりゃ考えすぎか』
フレイはふっと笑いながら、岩場の周辺を警戒する。
なおその後レオナに「何笑ってんの! 真面目にやりなさいよね!」と怒られるのは、すぐ後のお話である。
「はぁぁぁ……豪波・裂衝斬!」
「技に頼るなアオイ! 正々堂々、剣術でかかってこい!」
「あいつらまーだやってるよ……もう日が沈むぞオイ」
未だ演習試合を続けている祐樹たちに対し、頭の後ろで手を組みながら、呆れ顔で言葉を紡ぐフレイ。
レオナもさすがにその意見には同意したのか、怒らずに言葉を返した。
「確かに、ちょっとやりすぎよね。アオイなんてもうボロボロじゃない」
「アオイー! がんばるにゃー!」
ニャッフルはボロボロになったアオイの姿を見ると、大声を張り上げて応援する。
アオイはその声が届いているのかいないのか、力を振り絞って祐樹へと立ち向かった。
「せあああああああ!」