第七十一話:衝撃の修行開始
「いやーにしても、のどかなとこだよなぁ。ニャッフルみてーのが沢山いるぞ」
フレイは長老の家に行く道すがら、村の様子を一通り見回すと、感想を述べる。
確かに、豊かな自然に囲まれ、木や草で出来た家々が立ち並び、獣人族の子ども達が遊ぶ声が響くこの村は、のどかそのものだった。
「まあ、ニャッフルの育った村だからな。のびのび育った事は、あいつを見てりゃわかるだろ?」
「ふふっ。そうですね、それは納得です」
アオイは祐樹の言葉を聞くと、小さく笑いながら返事を返す。
しかしレオナは、胸の下で腕を組みながら、冷静な態度で言葉を返した。
「それはそう思うけど……本当にこんな場所で修行なんてできるの? モンスターさえいるのか怪しいわよ」
確かにこののどかな村の風景を見る限り、修行に適した場所とは到底思えない。
祐樹はレオナの言葉を受けると、ニヤリと笑いながら、返事を返した。
「ま、それもそのうちわかるって。そのうちな」
「???」
はっきりとしない祐樹の言葉に、頭に疑問符を浮かべるレオナ。
そんな一行が先行するニャッフルに「なにしてるにゃ! 早く行くのにゃー!」と急かされるのは、もちろん言うまでもない。
「ようこそ獣人族の村へ。歓迎致しますですじゃ」
村の中で一番大きな家の中心。大広間の真ん中で、椅子に座っている老いた獣人は、ゆっくりとした口調で一行へと言葉を紡ぐ。
ニャッフルは鼻息を荒くしながら、その老人を紹介した。
「こちらが獣人族の長にして村長様にゃ! んでこっちは、勇者様ご一行にゃ!」
「ご一行ってお前……俺らはツアー客か何かかよ」
ニャッフルのてきとうな紹介に対し、ツッコミを入れる祐樹。
ニャッフルは「でも、嘘はついてないにゃ」と、悪びれる様子も無く答えた。
「!? なんと、やはり勇者様でしたか……これで最近モンスターの数が増えていることも、納得ですじゃ」
「え!? モンスターの数が!? 長老様、それは本当なのですか!?」
アオイは興奮した様子で、長老へと詰め寄る。
長老は落ち着いた態度で、返事を返した。
「本当ですじゃ。村の自警団で村自体に被害は出ておりませんが……やはり、魔王誕生の噂は真のようですな」
「…………」
長老の鋭い言葉に、思わず言葉に詰まるアオイ。
長老はさらに、言葉を続けた。
「影があれば、光がある。同じように、魔王が存在するということは、勇者もまた存在するということ。見たところ……あなた様が勇者様ですじゃ?」
「あ、はい。そうです。まだまだ未熟者ですが……」
長老は一目で勇者が誰かを見破り、アオイへと言葉をかける。
アオイは自信の無い表情を浮かべながら、そんな長老に返事を返した。
「人は誰しも未熟なもの。だからこそ成長できるのですじゃ。あなた様が成長する機会もまた、おのずとやってくるはずですじゃ」
「!? ほ、本当ですか長老様! 私、実はずっと不安で、このままで魔王に勝てるのかと……」
「落ち着け、アオイ。まずは長老様に色々聞いてみようぜ」
取り乱したアオイを制し、言葉を紡ぐ祐樹。
アオイは「は、はい、師匠」と返事を返し、深呼吸を繰り返した。
「長老様。私達は修行をしたいのですが……何か良い方法はないでしょうか?」
アオイは長老へと近づくと、落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。
長老はその言葉を受けると、しばらく考え込み、そして答えた。
「それなら、北にある“修行の森”がぴったりですじゃ。今は自警団に守らせておりますが、勇者様達は通すよう、伝えておきますですじゃ」
「うっしゃ。第一関門突破だな」
「???」
長老の言葉を受けた祐樹は、小さくガッツポーズをとる。
そんな祐樹の動きを不思議に思い、アオイは頭に疑問符を浮かべた。
「じゃあ長老様、さっそく行ってくるぜ。みんな、修行の森にレッツゴーだ!」
祐樹は急に張り切り出し、長老の家のドアへと歩いていく。
他のメンバーは皆頭に疑問符を浮かべながらも、祐樹の後を追った。
「さて、修行の森に着いたわけだが……何度見ても不気味な森だな」
祐樹たちがたどり着いた修行の森は、木々が色褪せ、何か不気味な鳥のような鳴き声だけが響く森だった。
先ほどまでののどかな雰囲気は消え去り、今すぐにでも草むらからモンスターが飛び出してきそうだ。
「えっと……それで、師匠。ここでどんな修行をするのでしょうか?」
アオイは頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げながら祐樹へと質問する。
祐樹はニヤリと笑うと、全員に向かって声をかけた。
「ああ。お前らにはここで……俺と戦ってもらう」
「「「「……は?(にゃ)」」」」
祐樹の言葉はメンバーへと届くが、その全員が頭に疑問符を浮かべ、返事を返せないでいる。
そんな中で祐樹一人だけは、ニヤニヤと笑いながら、腕を組んでいるのだった。